第六幕 27 『捕物活劇』

 敵の根城と思しき倉庫にはいくつかの入り口があるようだ。

 スレイさんは建物裏手にいくつかある扉の一つに手をかける。

 扉は施錠されておらず、あっさりと開く。

 私達は素早く扉をくぐって倉庫の中に入った。


 あ、私は中に潜入する事にしたけど、ミーティアは外に待機してる団員に護衛をお願いしてきた。

 流石にまだ人を傷付けるような事はさせたくなかったので…



 中に入るとすぐに階段があって、それを登っていく。

 外観から見た倉庫の高さはおよそ3階建てくらいだったと思うが、その高さくらいまでは登ったようだ。


 登った先にある扉を薄く開いて向こう側の様子を窺いながら慎重に身体を滑らせてくぐったその先は…


 3階分の吹き抜けになった広大な空間に、倉庫らしく様々な荷物が積まれている。

 私達がいるのは倉庫の壁に沿ってグルッと取り囲むように設けられた通路の一画。


 下を見下ろすと十数人ほどの男たちがオズマさんと対峙している。

 あの監視の男もそちらに混ざっていた。




「…お前たちの依頼は果たした。約束だ、妹を返してもらおうか」


 オズマさんの要求に対して、男たちのリーダーと思しき大男が監視の男に確認する。


「…コイツはそう言ってるが、どうだったんだ?」


「へいっ!確かに確認しました。あのカティアって嬢ちゃんの死体は鉱山の落盤に巻き込まれて、ツレ共々ぺしゃんこでさぁ」

 

「ほぅ?あの嬢ちゃんはああ見えてAランク冒険者だってことなんだが…よく仕留めることができたな」


「護衛が顔見知りだったんでな。上手い具合に油断してくれていたから思いの外あっさりしたもんだった」


「くくく…つまり、思惑通りいったって事か」


「…そうなるな。さあ、もういいだろう?妹を解放しろ」


「…ふん、まぁいいだろう。おい、連れてこい」


「へい!」


 手下が妹さんを監禁場所から連れてくるようだ。

 これで上手いこと二人が男たちと離れてくれれば…








「連れてきました」


「兄さん!」


 手下に連れてこられたのは…兄であるオズマさんと同じ色合いの茶髪黒目で、おさげ髪の可愛らしい女の子だ。

 年の頃は私と同じか、少し下くらいだろうか。


「ミリア!大丈夫か!?」


「う、うん…わたしは大丈夫…」


 意外にも男たちはあっさりと妹さん…ミリアさんを開放し、彼女はオズマさんのもとに駆け寄るが、果たして…

 

「…もう俺たちに用はないな?」


「まあ待て、そう慌てなさんなって」


「…まだ何か?」


「へっ、おめえだってすんなり解放されるなんて思ってなかったろ?おめえら!!」


「「「へいっ!!」」」


 リーダーの大男の合図で手下たちが二人を取り囲む!


 ……最初から逃がすつもりがないなら何で妹さん解放したんだろ?

 そのまま人質にしておけばオズマさん抵抗できないだろうに。

 馬鹿…なのかな?


「へへへ…悪く思うなよ。これも依頼者の意向でな…口封じさせてもらうぜ」



(…もう行くか?)


(いえ、なんかアイツ馬鹿っぽいからもっと情報喋ってくれるかも。オズマも機転が効くし、もうちょっと様子を見ましょう)


(分かった)


 何かケイトリンの信頼が厚いねぇ…

 他の団員も彼女の優秀さを認めてるんだね。

 まるでリーダーみたいな扱いだよ。


 そして、アイツらに対する感想は私と同じだった。



「…その依頼人ってのは、誰なんだ?」


「ふん、いいだろう、冥土の土産に教えてやらァ。アグレアス侯爵閣下だ。仮にお前を生かしておいてもどうにかなるようなお方じゃねえがな…念には念を入れるってこった」


「ふぅん?俺はてっきりモーリス公爵家が関わってるのかと思ったぜ。あの依頼の発行元はモーリス商会ってなってたからな」


「ははは!馬鹿か、おめえ?そんなの疑いの目をモーリス公爵に向けるために決まってるじゃねぇか。最近そこの小娘が色々と調子に乗ってるみてえだから、痛い目を見てもらおうってな。一石二鳥ってわけだ」


 バカはお前だ。

 面白いくらいにポロポロ情報を喋るね。

 助かるわ。


 ん?


(ケイトリン、何それ?)


(あ、これですか?これは声を記録する魔道具です。レティシア様の発明品で以前貰ったんです。まさにこういう時に役立ちますね)


 ボイスレコーダーか…

 ほんと色々作ってるんだねぇ…


 これで証拠もバッチリ、と。




「さあ、お喋りはもういいだろ。覚悟しな。…ああ、おめえの妹は殺さねぇで俺たちがたっぷり可愛がってやるから安心しな!」

 

「「「ぎゃははは!!」」」


「下衆が…!」


「くくく、なんとでも言え。よし!お前ら!やっちまいな!!」


「「「へいっ!!」」」


 そして、男たちは一斉にオズマさんに襲いかかった!





「に、兄さん…!」


「大丈夫だ。全員返り討ちにしてやる」


「はっ!この人数相手に一人でどうにかぶべらっ!?」


 一番先頭でオズマさんに襲いかかろうとした男が、バキィッ!と音を立てて吹き飛んだ。


「一人じゃないよ!さぁ、皆!一人も逃さないようにね!」


 潜んでいた通路から飛び降りざま男を殴り飛ばしたケイトリンが騎士団の皆を鼓舞する!



「「「応っ!!」」」


 倉庫内の各所に潜んでた騎士団のメンバーがスレイさんの合図によって一斉に飛び出して、オズマさんに襲いかかってきた男たちの間に割って入る!


「なっ!?何だてめえ等!?」


「イスパル王国第一騎士団だ!!大人しく縛に付け!!」


「き、騎士団だとぉっ!?オズマ!!てめぇ騙したな!?」


「…どの口が言うんだか。まあ、これで終わりだ。お前らこそ覚悟するんだな!!」


 オズマさんはこれまでの鬱憤を晴らすが如く、騎士団員たちとともに反撃を開始した。








 私はと言えば、ケイトリンとほぼ同時に通路から飛び降りて、こっそり逃げようとしていたターゲットに肉薄する。


「なっ!?お、お前は!!」


 私の狙いはオズマさんを監視していたあの男だ。

 宣言通り真っ先にボコってやらなきゃ気がすまない!!

 胸の大きさが全てではないと思い知らせてやるのだ!!


「よくも私のこと『胸が絶望的に絶壁で女としての魅力が皆無』とか言ってくれたわね!!」


「そ、そこまで言ってねぇ!?」


「問答無用!!歯ぁ食いしばんなさい!!」


 ドゴォッ!!


「ぶげぇっ!!?」


 私の渾身のストレートで男は吹き飛びそうになるが、まだまだこんなものではないよ!!

 むんず、と胸ぐらを掴んでその場に留め…


「ま、待ってくれ…!?」


「待たないっ!乙女の恨み、思い知れ!!」


 そしてそのまま超高速往復ビンタを食らわせる!


 パパパパパパパパパッ…!!!


「アバババババババッ!!??」


 …そして、顔がパンパンに腫れ上がったところで止めた。


「成敗!!女の敵は滅ぶべし!」




 と、私が不届き物を成敗している間に何人か私の方にもやって来た。

 形勢不利を悟って逃げ出そうとしている奴らだ。


 残念だけど、一人も逃さないよ!




「邪魔だっ!どけぉぶえっ!?」


「相手は小娘一人だ!怯むなばぇあっ!?」


「くそっ!?こいつ強えぞぶほぉっ!?」


 雑魚相手に武器を使うまでもなく、殴って蹴って投げてビンタして一人残らず沈黙させる。


「さあ、次は誰かな?ほらほら、かかってきなさい!相手してやるわ!」


 シュッシュッ!とシャドーボクシングのように拳を振るうが、もう誰もかかってこない。

 そして、逃げようとしていた男たちは両手を上げて降参のポーズをするのであった。








 やがて、数十人は居た賊どもは騎士団員によって次々と制圧され、およそ半数以下になったところで…


「静まれぇっ!!」


 ケイトリンが声を張り上げてその場を収めようとする。

 賊たちは既に形勢不利と悟ってるものが多く、その声だけで降参の意思を示すものもいた。


「静まれ!静まれ!…控えよ!」


 声を張り上げながらケイトリンは私の傍らに立つ。

 そして…


「皆の者、控えよ!!こちらにおわす方をどなたと心得るか!?…畏れ多くもイスパル王国が姫殿下、カティア様にあらせられるぞ!!皆の者、頭が高い!!控えおろう!!」

 

 …え?

 私しゃどっかの旅のご老公かいな?


「「「へへぇーーっ!!」」」


 そして、争っていた男たちは地面に平伏した!

 騎士たちは跪いて頭を垂れる。


 いやいやいや…みんなノリが良いな!?



「いや〜、一度コレやってみたかったんですよ!気持ちいいですね〜」


 ……そっすか。




 と、とにかくこれで一件落着…では無いけど、この場はこれで収めることができたよ。


 オズマさんの妹さんも無事救出できたし…あとは黒幕を成敗するだけだ!

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