第六幕 15 『始動』


「…と言う訳で、法人爵の授与を検討してるってぇこった」


 昨日、父様から聞かされた、一座に対する報奨として法人爵なるものが授与されることになった経緯を侯爵閣下が説明してくれた。


「それで、その法人爵っていうのはどんなモノなんです?」


「昨日も軽くダードには説明はしたんだが、簡単に言えば団体に対する爵位だな。一爵から三爵まであって、一爵が一番上…侯爵位相当だ。今回検討されてるのは二爵…伯爵位相当だな」


 ティダ兄の問に閣下が答える。

 伯爵位相当というのはなかなかだね…

 団体に叙爵というのがまだピンと来ていないけど。



「俺を叙爵するって話の時は子爵って言ってたと思うが…伯爵位相当ってのはどういうこった?」


「ああ、そりゃあカティア姫(笑)も所属する事になるからな。それなりのハクが必要ってこったろ」


 閣下…今、『姫』の後に何か付けませんでした?


「…まあ、そいつは分かった。で、結局どんなメリットがあるんだ?義務が少ない割にメリットが多い、みてえな事を言ってたと思うが」


「ああ、法人爵ってのはだな…」


 と、閣下が説明してくれた内容を要約すると以下の通りだ。



 ①法人爵団体の代表者は、その団体の活動をするに当たり爵位を持つとみなされる。


 ②法人爵団体に所属する者は、その団体の活動をするに当たり爵位を持つ代表者の親族とみなされる。


 ③法人爵団体の活動拠点は、その団体が活動する際にはその団体の領地とみなされる。


 ④法人爵団体の活動によって得られた利益に関する国税は、爵位の段階に応じて減税される。


 ⑤法人爵団体には国の求めに応じて一定水準、回数の活動を行う努力義務が課せられる。



「①②は、まあ建前というか体面的なものなんで、あまり実利があるもんじゃねえが…限定的にでも貴族特権があるってぇのは悪かねぇだろ」


 活動時のみだから限定的だけど、その時だけでも貴族特権を持つってことだね。

 確かにあまり実利はなさそうだ。


「一番のメリットはなんと言っても③④だろ。税ってのは大きく分けて『領地税』と『国税』がある訳だが…先ず③によって自領扱いになるもんだから領地税が実質不要になる。で、④で国税も減税されるんで、両方合わせりゃかなり大幅な減税になるってこった」


「そいつはいいね…!」


 会計も一手に引き受けてるミディット婆ちゃんの目がギラリと光る。


「で、デメリットと言えるのが⑤なんだが…これは今まで通りに活動してりゃ問題ねえはずだ」


 今までだと…一回の公演で10〜20日くらいの期間をかけてやっていて、それを年6〜8回は行ってる。

 今までの活動頻度と同等で良いのであれば殆どデメリットは無いということだね。


「まあ、活動報告だなんだ上げなきゃいけねぇから、煩わしいかもしれんがな」


「そういう細けえのはティダに任せる」


「お前な…」


「まあまあティダさん、そういうのでしたら僕もお手伝い出来ますよ」


 シクスティンさんがそうフォローしてくれる。

 まったく、父さんは…

 もうちょっと代表としての自覚を持ちなさいな。



「その他にも細々した話はあるんだが、大きくはこんなとこだな。で、ダードよ…どうする?」


「…どうする、お前ら。デメリットが殆ど無ぇなら、俺はこの話受けようと思うが…反対の奴はいるか?」


「いいんじゃないか?なんと言ってもハクが付く。カティアもいることだしな。あとは、良い宣伝文句になりそうだ」


「ティダの言うとおりだね。あたしも賛成だよ」


「オイラも賛成ッス」


「「「さんせ〜い!!」」」


 他の皆からも反対意見は出ない…と思ったら、姉さんが何か意見があるようだ。


「私も賛成ではあるのだけど〜」


「けど?」


「この際だから〜一座の名前を変えない〜?」


「…確かに、『ダードレイ一座』だと、如何にも旅芸人っぽさが抜け切らねぇな。これを機に、王都に居を構えるのに相応しい名前にするのも良いかもしれねぇ」


「うむ、では『白りゅ「却下で」…そうか」


 ティダ兄に皆まで言わせず即座に却下しておく。

 白竜とか黒龍とかって…もっとバリエーションは無いの?


「お〜〜っほっほっほっ!!ごふっ!げほっ!……ふぅ…名前なら私がゴージャスでブリリアントな名前を考えましてよ!ズバリ「名前なら、もう決まってるでしょ!」


「そうね〜アレよね〜」


「あれッスね」


「ああ…あれか」



「「「『エーデルワイス歌劇団』!!」」」


 やっぱり、それしか無いでしょ!













「…『赤薔薇歌劇団』と言うのはいかがです…?」


「ロゼおばさん、元気出して…?」


「ロゼッタおばさま、赤薔薇歌劇団も悪くなかったと思うよ…?」


「リィナにハンナ…ありがとう。でも………『お姉さま』よ!!」



















 という事で、ダードレイ一座改め、新生『エーデルワイス歌劇団』の活動が始まった。


 会議を終えた私達は大ホールで稽古を開始する。


 閣下は帰っていったが、ルシェーラは見学していくみたいだ。

 ケイトリンと一緒に観客席に座って興味深そうに稽古の様子を伺っている。

 普段劇団員以外の人に裏舞台を見せることはないから貴重な光景だよ。


 シクスティンさんを中心にして車座になり、今度の公演で行う劇の説明が行われている。

 …私以外ね。

 カイトもそっちに加わってる。


 そして何と…リィナとミーティアまでいるじゃないか!

 この子達…いつの間にかシクスティンさんの演技指導を受けて、今回子役としてデビューさせるつもりらしい。


 ふっ…芸歴十年の私を差し置いて演劇デビューとは…

 リィナ、ミーティア、恐ろしい子!


 しかし、私の懸念が現実になるどころか、ミーティアにまで先を越されるなんて…orz




 いいもん…私は一人で寂しく端っこの方で歌ってるもん…


 あ、そうだ!

 ミュージカルならいけるんじゃね?

 そうだよ、なんたって『歌劇団』なんだから!


 ……いや、駄目だな。

 ウチの男ども、揃いも揃って音痴ばかりだよ。

 でも、アイディアだけでもシクスティンさんに伝えておこう。


 今は駄目でも将来的には…見てなさいよ!




 という事で一人寂しく歌の練習をしてるのだが…

 やはり劇場と言うだけあって音響が良い感じだね。

 気持ちよく歌えるよ。


 ルシェーラとケイトリンも私の歌声に、目を瞑って聞き入っている。


 そうして音響の確認も兼ねて歌っていると、私の歌声に合わせて「ら〜ら〜ら〜」と可愛らしくも美しい歌声が響く。

 どうやら打ち合わせが終わったらしく、ミーティアがこちらにやって来たようだ。

 あっちでは通し稽古が始まっているが、まだ彼女の出番ではないということだろう。


 以前リッフェル領での特別公演の時と同じくバックコーラスのように歌ってるのだが…この子、凄く上手だ。

 これは歌の方も私と一緒にデビューできるかな?


 カイトの演奏と合わせて、親子三人で舞台に上がれるのなら…それは凄く楽しみだね。




 そうして、午前中一杯は稽古に時間を費やすのだった。

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