第六幕 14 『恋の芽生え…?』

 王城を出て、八番街にある国立劇場に徒歩で向かう。


 王城の周りは貴族邸や富豪の邸宅が建ち並ぶ住宅街なので、まだ朝早いこの時間はあまり人出は多くなく閑静な雰囲気だ。

 もう少し遅い時間であれば、城の出入りも多くなるので多少の賑わいは見れるようになるが。



「そういえば…私の護衛に付くことは報告してるの?」


「…あ〜、大丈夫ですよ、そのへんはマリーがフォローしてくれてると思います」


「…そう、ならいいのだけど」


 マリーシャも苦労するね…




 第三城壁から外へ、八番街に向かう。

 各街区には大抵は広場があって、国立劇場はその広場に面した立地となっている。

 なので、八番街広場は国立劇場前広場とも言われている。



 その道すがら、道行く人々の中に知り合いを見つけた。

 あれは…


「ロウエンさんに…」


「リーゼお姉ちゃんだ!」


 二人で並んで楽しそうに話をしながら歩いている。

 ロウエンさんが何か冗談でも言ったのだろうか、リーゼさんは口に手をあてて可笑しそうに笑う。


 むむ…!?

 これはもしや…


「…いい雰囲気ですわね!」


「うわ!?」


「あ、ルシェーラお嬢様じゃないですか。いきなり近づいてくるから警戒しちゃいましたよ」


「ルシェーラお姉ちゃん、おはよ〜!」


 私は街中なんで全然警戒してなかったよ。

 ケイトリンはちゃんと仕事してたんだね。

 さすが第一騎士団のエース(自称)。


「ルシェーラはなんでここに?」


「お父様のお供ですわ」


「おう、嬢ちゃんたち、奇遇だな」


 と、閣下もいらっしゃったんだね。

 目的地は私達と同じく劇場だろう。


「閣下、これから劇場ですか?」


「ああ。嬢ちゃんたちもだろ?」


「はい、一緒に行きましょう」


「リーゼさんたちの後を尾行ですわ!」


 ルシェーラが目を輝かせて言う。

 まあ、あの二人の状況は大好物だろうね。


「…ほんと、そ〜ゆ〜の好きだよねぇ」


 でも、ロウエンさんを尾行なんて、上手くいくかな?




ーー ロウエンとリーゼ ーー



「昨日は助かりました、ロウエンさん」


「なんのなんのッスよ。おいらで良かったらいつでも力になるッス」


「ふふ、ありがとうございます。そうだ、お礼に今度お食事でもいかがですか?私の奢りで」


「お、まじッスか?嬉しいッスねぇ〜。……ん?」


「どうしました?」


「誰かに尾行されてるッス」


「ええっ!?」


「ああ…いや、心配ないッス。これは…」


ーーーーーーーー





「…あ、気付かれたっぽい。さすがだね。やっぱりロウエンさん相手に尾行は無理があるよ」


「そうッスよ。このロウエン様の後をつけるなんて10年早いッス!」


 と、曲がり角で待ち構えていたロウエンさんとリーゼさんに出くわした。



「皆さん、おはようございます」


「おはよ〜!ロウエンおじちゃん!リーゼお姉ちゃん!」


「うぐっ!ミーティアちゃん…なかなか突き刺さる一言ッスね。おいらまだニ十代なんスけど…」


「ギリギリね。…で、リーゼさんと何してたの?」


「ああ、そこでバッタリあったんスよ」


「ええ。昨日の今日で偶然ですね」


「昨日…?」


「ああ、昨日も街中でバッタリあって…リーゼちゃんの手伝いをしてたッス」


 ほうほう。

 昨日そんな事が…

 チラッとルシェーラを見ると目をキラキラさせて鼻息荒くしてるよ。


「せっかく王都に来たので国立図書館で調べものをしようと思ったのです。大陸でも随一の蔵書量を誇りますからね。その分目当ての資料や文献を探すのも一苦労で…お手伝いをお願いしたら快く引き受けてくださいまして」


「ああ…ロウエンさんって見た目も言動もチャラいけど、意外とインテリなんだよね。チャラいけど」


「…特に大事でもないことを二回も言ったッスね」


「本当に、魔法や古代遺跡、伝承などについても造詣が深くいらっしゃって…驚きました」


「ふふ〜ん、こう見えておいら結構本は読むッスからね」


 そうなんだよね。

 私も図書館通いするくらいには本好きなんだけど、ロウエンさんもそうなんだよ。

 ウチの一座の希少なインテリキャラなのだ。

 チャラいけど。



(…カティアさん、どう思われます?リーゼさん的にはかなりの高ポイント。私は結構脈ありと思うのですが)


(…う〜ん、どうだろ?よく分からないねぇ…ロウエンさんもリーゼさんも態度が普通だから表情からは読み取れないよ。でも、リーゼさんは好みのタイプにロウエンさんを挙げていたくらいだから…)


(アネッサさんがいらしたらズバッと切り込んでくださいますのに…)


(…あなたがやればいいじゃない。いつも私にしてるみたいに)


(そうなのですが…あの二人に関しては意識させない方が上手く行くような気がしまして)


(あ〜、そうかもね…気が付いたら自然に、みたいな?)


(そんな感じです。何れにせよ今後の動向は要チェックですわ!)


 ほんと、好きだよねぇ…






 ロウエンさんと合流し、リーゼさんとは別れて歩くことしばし。

 目的の国立劇場までやって来た。


 さすが国立と言うだけあって大きく立派な建物だ。

 重厚かつ壮大な石造りの建造物は、古代の神殿のような厳粛さを感じられる佇まい。

 著名な建築家の設計とのことで、建物自体の構造的な美しさに加え随所に精緻な彫刻が施されており、その一つ一つが優れた芸術作品となっている。


 …どうも、ウチみたいな脳筋劇団が使うには立派すぎる気がしないでもない。


 今日はこの劇場の控室に一座のメンバーが一堂に会して打ち合わせが行われる。

 その場で侯爵閣下は昨日の法人爵の詳細な説明をしてくださる、と。




 劇場の中に入ると、先ずは広々としたロビーが出迎える。

 チケット売り場や売店、軽食コーナーなど、前世の劇場とそう変わらない感じ。

 正面奥には大ホールへと続く大扉。

 大ホールを囲むように廊下がぐるりと巡らされていて、そこにも大ホールへの入り口があるのと、二階席への階段やスタッフルームなどの様々な部屋に通じている。

 そして、大ホールを回り込む様にぐるっと奥に回ると今回の打ち合わせ場所の控室がある。



「さすがにブレゼンタムのホールとは比べ物にならない大きさですわね」


「そうだな、二階席、三階席もあっからなぁ…大体800席くらいはあるんだったか」


「ほんと、こんなところで公演をやるなんて…どころか本拠に据えるというのだから、凄い出世だよねぇ…」


「ちょっと不安もあるッスね。目の肥えた王都民に果たしてウケるのか…」


 ほんと、そうだね。

 都会的で洗練された王都の人達のセンスにマッチするのか。

 まあ、やってみないと分からないけどね。


 でも、本当のお姫様(私の事!)が歌姫やってるなんて貴重じゃない?

 なんなら宣伝に使ってもよろしくてよ!

 ああ、いや…そこは父様に確認しなきゃだけどさ。


「大丈夫だろ。俺ぁ心配してねぇぜ、きっと王都でも大人気間違いなしだ」


「そうですわよ。もっと自信を持ってくださいまし。ブレゼンタムの民も王都の民も、良いものを良いと感じる感性は一緒ですわ」


「そうだね、ありがとうルシェーラ。私の歌声で王都民を魅了してやるよ!」


「…[絶唱]で魅了をかけるのは駄目ですわよ」


「やらないよっ!?」


「ふふ…冗談ですわ。そんな事をしなくても、カティアさんの歌は本当に素晴らしいものですもの」


「えへへ…ありがと」




 王都初公演は怖くもあり…でもやっぱり楽しみだね。

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