第四幕 11 『諦め』


「じゃあ、連絡を取りますね」


 『念話の耳飾り』は私がしている。

 もう一方はカイトがしている。


 お揃いのアクセ、いいね…

 ゆ、指輪とか…


「カ…じゃなくて、ティアさん?」


「あ、ごめんなさい!今から連絡します!」


 いけないいけない。

 最近妄想癖が…

 敵地の真っ只中なんだからしっかりしないと。


 起動するには魔力を通せば良い。

 右の耳飾りに触れて指先から魔力を込めて起動させる。

 基本的には1対1で念話…頭の中で会話するものなんだけど、スピーカーみたいにもできるらしい。

 確かキーワードは…


「え〜と、『開放』。カイト?聞こえる?」


『…カティアか?聞こえるぞ』


 よし、問題なく連絡できたね。


「カイト、今は『ティア』だからね」


『あ、ああ、すまん。つい…』


『ふふ、カイトくんてば〜、連絡が来るまでずっとソワソワしてて落ち着かなかったのよ〜』


「あ、姉さん?合流したんだ」


『そうよ〜。今は邸近くのアジトの一つにいるわ〜』


『俺もいるぞ』


『俺も』


『おいらも』


『私もです』


 父さん、ティダ兄、ロウエンさんと…


『あ、リーゼさんも?』


『ええ、微力ながら協力出来ればと。私も思うところはありましたので』


 まあ、皆思ってることは一緒だよね。

 何とかできるなら何とかしてあげたいって。


「ヨルバルトさんもそちらに?」


『はい、レジスタンスのメンバーも配置についてます』



「じゃあ、状況を伝えますね。特に問題なく邸に潜入する事はできました。場所は客室棟で、これまで連れ去られた人達もここに居るとのこと。思ったよりも待遇は悪くなくて、邸内であれば比較的自由に動けるらしいです。…まあ、その、女性にとって不本意な事はあるみたいですけど」


 最後は言葉を濁すけど、皆まで言わずとも察してくれるだろう。


『すぐに突入する』


『だぁっ!カイト、落ち着け!まだ潜入したばかりだろうが!』


『あらあら〜愛されてるわね〜』


 …えへ。


 じゃなくて!


「カイト、落ち着いて。まだマクガレンと先代領主様たちの居場所が分からないんだから」


『…分かった。それで、これからどうするつもりなんだ?』


「結構自由に動けるみたいだし、邸の中を見回ったり、他の女の人達とかに聞いたりして探ってみるよ」


『ケイト、[探知]は?』


「先代様達なら、それっぽい反応が何箇所かあるわね。探索や聞込みで情報収集して特定する感じかな。マクガレンは…よく分からないわ。聞いた話では『異界の魂』ってのに乗っ取られてるって事だから特別な反応があると思ったのだけど、特には…。あるいは今邸にはいないのかも?」


 いつの間に[探知]使ったんだろう…全然気が付かなかったよ。

 凄腕の女スパイって感じ。


 しかし、マクガレンの所在は分からないか…


『こちらではマクガレンが邸から外出していると言う情報は得ていないですが…完全に情報を押さえてるわけでも無いですからね。不在と言う事であれば、情報収集は今のうちに済ませた方が良いかと思います』


「では、今のうちに情報収集に行ってきますね」


『ええ、お願いします』


『カ…じゃねえ、ティア、無茶すんなよ』


『危険があったらすぐに知らせるんだ』


「うん。心配してくれてありがとね。じゃあまた後で連絡します」


 そう言って、通話?を切る。


 …って、何ニヤニヤしてるんですか、お嬢様?


「うふふ…カイト様ったら、ティアさんの心配ばかりで…私の事なんてさっぱり忘れてますわね。少し妬けてしまいますわ」


「そ、そんな事…」


「お二人とも仲がよろしいようで私も嬉しいですけど。…とまあ、その話はこれくらいにして、情報収集に行きましょうか」


「そうだね。こんなに動きやすいとは思わなかったけど、結果助かるから良かったわね」


 行き先が牢屋だったら、鍵と見張りを何とかしなければだものね。


「じゃあ、先ずは中庭に行きません?さっき何人か話をしていたみたいですし。何だかここにも慣れてるみたいだから情報も期待できそうですし」


「そうね、それがいいと思うわ」


「私も賛成ですわ」



 というわけで、ここに来る途中で見かけた中庭に早速向かうことにした。

 そこで見た人達も、それほど時間も経ってないし多分まだいると思う。


 部屋を出て1階まで降り、本邸に繋がる通路へと向かう。

 図面で確認した通り、この客室棟の出入り口は今向かっている本邸へ通じる通路と、直接外に出る玄関口の2箇所がある。


 比較的自由に動けるとはいえ、これまで逃げ出せた人はいない事から監視の目はそれなりにあるだろう。

 情報収集は必要だけど怪しまれないようにしなければ。


 案内されて通ってきた道を逆にたどって、塀の切れ間から中庭に入って行く。


 こんな状況でも、手入れはちゃんとされている様子だ。

 芝はしっかりと整えられており、花壇には様々な花が咲き誇る。

 綺麗に剪定された木々が涼し気な木陰はとても快適そうで、お弁当でも持ってゆっくりしたくなる。


 だが、今は庭の散策を楽しんでいる場合ではない。


 通路からも見えていた四阿ガゼボには、予想通りまだ三人の女性たちが話をしているのが見えた。

 先程も思ったが、特に悲壮な感じには見えず、思いの外くつろいでいる様子だ。


 私達が近づいていくのに気が付いたようで、こちらを見ながら何事かを囁き合っている。


 お互い話ができる距離まで近づいたところで声をかける。



「こんにちは」


「……こんにちは。もしかして今日やって来た娘たち?さっきそこの通路を通っていくのを見かけたわ」


「あ、はい、そうです。私はティアと言います」


「私はシエラです」


「ケイトよ、よろしくね」


 私達が挨拶して自己紹介すると、彼女たちは顔を見合わせてから名乗ってくれた。


「私はリタよ。一月くらい前にここにやって来たわ」


 リタさんは私より少し年上くらいかな?

 多分18歳くらい。

 ウェーブがかかった肩までの焦げ茶色の髪、大きめの瞳もブラウンで、やや垂れ目なので柔和そうな印象だ。

 そして巨乳だ…少し分けて!


「…私はジェシーです。私も一月くらい前に来ました…」


 ジェシーさんは私と同じくらいの歳だろうか。

 腰くらいまである金髪のストレートヘア、紫色の瞳は何だかほんやりしていて眠たげな表情に見える。

 儚げな外見と、その印象通りにか細い声だ。

 そして胸は…うん、仲間だ。


「アタイはアイラよ、よろしく。アタイは2週間くらい前かな」


 アイラさんは黒髪のショートヘア、瞳の色は緑で切れ長の目は怜悧に見えるが、蓮っ葉な口調が逆にフレンドリーな感じだ。



「あなたたち、今日来たばかりと言う事は…ここがどういう所なのか、まだよく分かってないのよね?」


 リタさんがそう聞いてくる。

 どうやらこの三人の中では彼女がリーダーみたいな感じだ。


「はい…そうですね。街では色々噂にはなってましたし、女の人ばかり集められているから何となく想像は付きますけど…」


「そう…その想像は多分合ってるわ。でも、結構落ち着いてるみたいだし、それなりに覚悟してると言う事かしら?」


 いや、そんな覚悟はしてないけど。

 そんな事される前にとっとと解決するつもりだ。

 だが、今ここでそんな事は言えないので、あえて否定したりはしないでそれっぽい回答をしておく。


「…そうですね、覚悟というか…もう、諦めてます」


「そう…それが賢い選択かもね…何もかも諦めて…ただ快楽に身を委ねていれば、それなりに良い生活なのかもしれないわね…」


 そう言うリタさんは、言葉とは裏腹にとてもつらそうだ。

 どう見ても諦めきれている様には見えず、少し目尻に涙も浮かんでいる。



 …やはり、許せないな。

 この人たちの為にも早く解決しなければ。




 そんなふうに決意を新たにして、彼女たちから情報を得るべく会話を続けるのだった。

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