第二幕 16 『カティア』

 カイトさんと一旦別れた私達は宿泊している宿に帰ってきた。


「さあ着いたよ。ここが私が泊まっている宿だよ」


「ママのおうち?」


「ううん、私の家じゃないよ。え〜と、お金を払ってお部屋をかりてるの」


「ふ〜ん、そうなんだ〜」



 ミーティアの手を引いて宿の中に入る。


 ロビーの中には結構人がいて、ソファに座ったりして思い思いに寛いでいる。


 その中にはティダ兄、アネッサ姉さん、リィナの一家が仲良く談笑しているのも見えた。

 あ、ミディット婆ちゃんもいるね。





「みんな、ただいま〜」


「あ、お姉ちゃん!お帰りなさ……その子だれ?」


「…カティア、その子は一体…?」


「あら〜、カティアちゃんにそっくりだわ〜」


「…カティア、どう言う事だい?」


 ミーティアを見たみんなの反応はそれぞれだが、特に私の子供の頃を知っているティダ兄と婆ちゃんの驚きは相当らしく、半ば呆然としている。


「あ、ごめんなさい。先に女将さんに話をして来るから詳しくは後で。ちょっとこの子見ててくれない?…ミーティア、ちょっと向こうでお話ししてくるから、このお姉さんたちと待っててくれる?」


「は〜い、ママ!」


「「「「ママ!?」」」」


 あちゃあ…


「えと、誤解はしないようにね…今日の依頼に関係してるんだよ。ちょっと待っててね!」


 と、逃げるように宿の受付の方に向かった。







 宿の女将さんには問題なく話を通すことができた。

 あとはカイトさんが来たら手続きをしてもらえば良い。

 ミーティアを私の部屋に泊めることも伝えた。

 部屋単位の契約なので特に問題は無いはずだけど、一応伝えておこうと思ったのだ。


 女将さんとの話が終わったので、みんなのところへと戻る。


 ミーティアは婆ちゃんの膝の上で抱っこされている。

 …婆ちゃんはデレデレだ…


「みんな、お待たせ。ミーティアを見ててくれてありがとうね」


「女将さんには何を話してたの〜?」


「ああ、一応ミーティアを私の部屋に泊めることと…あと、カイトさんがこっちの宿に来るので話を通しておこうかと思って」


「カイトくんが〜?あら〜、とうとう同棲するのね〜」


「違うよっ!?別の部屋だから!」


「…ほう、カイトとやらが来るのかい?ふむ、ちょうどいい機会だ紹介しておくれ(しっかり見定めてやろうじゃないか)」


 と、ミディット婆ちゃんが言うが、なんだか雰囲気が怖いよ…


「あ、後でね…それよりもミーティアの、と言うか今回私が受けた依頼のことなんだけど…」


 と、今回のいきさつを皆に説明していく。







「…何と言うか。不思議な話だな?」


「ほんとに〜。ミーティアちゃんは何も覚えてないのよね〜」


「うん。だから明日にでも神殿に行ってエメリール様が何かご存知か聞いてみようと思って」


「それも凄い話よね〜」


「ああ。シギル持ちと判って以降、まあ次から次へと驚かされるな」


「やっぱりカティアは女神様に愛された特別な子なんだねぇ…これはますますそこいらの男にはやれないね」


 ああ!?

 何かよく分からないけどハードルが上がった!?



「で〜?カイトくんが来るというのはどういう事なの〜?」


「あ〜、え〜と、ミーティアがね…」


 ちょうどそのときドアベルが鳴って、誰かが入ってきた。

 あ、噂をすれば…

 

「あ!パパ〜!」


 と、リィナに遊んでもらっていたミーティアが、宿に入ってきたカイトさんをいち早く見つけて大きな声を上げる。

 もちろん注目の的だ。


「…あ〜そういうこと〜。やっぱり同棲なのね〜」


「カティア、婚前の男女が寝所を共にするのは許さないよ」


「もう…ミーティアがそう呼んでるだけだってば。カイトさんがこっち来てくれたのも、別れたくないってミーティアがぐずったからだよ。ちょっと私受付まで案内してくるね」






 そして、カイトさんの手続きも終わり、荷物も部屋に運び込んでから再び皆のところにやって来た。


「カイトくん、こんばんは~」


「ああ、アネッサさん、ティダさん、リィナも。こんばんは」


「ああ。よく来たな」


「お兄ちゃんこんばんは~」


「そちらの方はお初にお目にかかりますね。私はカイトと言います。いつも一座の皆さんにはお世話になっております」


 と、カイトさんは初めて会うミディット婆ちゃんに丁寧に挨拶する。


「ああ、カティア達から話は聞いてるよ。私しゃミディットって言うんだ。一座の裏方さね。こちらこそうちの連中が世話になったって聞いてるよ。しかし、なかなか礼儀正しいじゃないかい。うちの連中にも見習ってほしいとこだねぇ」


 お、なんだか好感触。

 さすがに本人を目の前にして値踏みするような態度は婆ちゃんも取ってないけど、さっきまでの話を思い出すと私のほうが緊張するよ…



「パパ〜、だっこ」


「なんだ、随分と甘えん坊だな?」


 と言いながらも自分の膝の上に乗せてあげる。

 今日出会ったばかりだというのに、本当の親子みたいだ。


「でも、甘えるのはしょうがないよね。こんな小さな子供が、記憶もなくて縋ることができるのは私達だけなんだから…」


 と、ミーティアの頭を優しくなでながら私は言う。

 この子は不安とか感じてないのかな…?

 まだ小さいからよく分かってないのかな…?


 とにかく、私が預かると決めた以上はちゃんと育てないと。

 例えこの子が何者であっても。


 と私が決意を新たにしていると…


「…そうしていると、本当の親子みたいだな。お前たち」


「本当にね〜幸せ家族って感じよ〜」


「ああ、まだカティアには所帯を持つのは早いと思ったんだが…存外悪くないのかもねぇ」


「ななななな何を言ってるのかなっ!?」


「もう〜恥ずかしがっちゃって〜。満更でもないくせに〜」


「そそそそそそんな事はっ!?」


 で、でも、まあこう言うのも悪くないと、ちょっとは思ったり…

 カイトさんはどう思ってるのだろうか…




 その後もカイトさんを交えて色々な話で盛り上がった。

 主に私の幼少時代の話だ…

 ちょっと恥ずかしかった。




「さて、そろそろミーティアも眠そうだし、部屋に戻ろうかな」


「うみゅ〜…」


 さっきから目がシパシパしてきており、そろそろおねむのようだ。

 そっと抱き上げると、胸に顔を埋め…るほどは無いので押し付けてくる。

 くっ、謎の敗北感が…


「じゃあ、みんなおやすみなさい」


「パパも〜」


「パパは別の部屋だからまた明日ね」


「や!パパもいっしょにねるの〜!」


 い、いや、さすがにそれはマズいでしょ…


 う〜ん、困ったぞ…


 しょ、しょうがない…


(…カイトさん、ミーティアが寝るまで側に居てやってくれませんか?)


(…いや、いいのか?宿の部屋とはいえ、年頃の娘の部屋に入るのはさすがに…)


(し、仕方ありませんよ。私は大丈夫なのでお願いします)


(…分かった。ミーティアが寝たら直ぐに出ていく)



 …という事で、仕方なくミーティアが寝るまでカイトさんを部屋に入れることにした。


 もちろん姉さん達にも説明したよ。

 もちろん姉さんはニヤニヤしていたよ…

 ミディット婆ちゃんも一応許可してくれた。


 という事で私の部屋の前まで来たのだが…


「ちょっと待っててくださいね!」


「あ、ああ…」


「は〜い!」


 中に入って急いで片付けしないと!

 下着とか出しっぱなしじゃ無いよね!?


 …まあ、普段からこまめに掃除はしてるし、少し整理するくらいで大丈夫かな。


 …よしっ!



「ど、どうぞ〜」


「…入るぞ」


「わ〜、ここがママのおへや?」


 一人だと十分な広さだけど、3人入ると流石に狭く感じる。


 ベッドはシングルサイズなので、ミーティアはともかくカイトさんも一緒に横になるのは無理がある。

 …いや、もちろんそんな事はしないけどさ。

 ちょっと想像してしまい顔が熱くなってきた。

 いやいや、何を考えてるのさ…


「じゃあ、ミーティア。一緒に寝ようか」


「うん!」


 二人でベッドに横になる。

 ミーティアが寝たらお風呂入って着替えないと…

 流石にカイトさんの前で寝間着になるのは恥ずかしすぎる。


 ミーティアは朝入れればいいか。

 不思議と身奇麗なんだよね…


「パパは?」


「あ、ああ、さすがにこのベッドに俺まで横になるのは難しいからな。ここで手を繋いでてやるよ」


「うん!」


 取り敢えず、それで納得してくれた。

 ほっ。







 そして、横になってからそれほど経たずに可愛らしい寝息が聞こえ始めてきた。


「すー…すー…」


(…眠ったみたいですね)


 起こさないように小声で話をする。


(ああ、やはり疲れてたんだろう。遺跡から街まで結構距離があったからな)


 ほとんど抱っこされてたとはいえ、それでも長時間揺られてるのは小さい子にとっては負担だろうしね。


(…やっぱり普通の女の子にしか見えないなぁ)


(そうだな。神殿は明日行くのか?)


(はい、そのつもりです)


(では、俺も一緒に行こう。特に予定もないしな)


(はい、お願いしますね)




(じゃあ、俺はもう行くぞ。おやすみ)


(はい、ありがとうございました。おやすみなさい…)


 おやすみの挨拶をして、カイトさんは部屋から出ていった。


 さて、私もお風呂に入って休みますか…




 と、その前に。

 久々にステータスを見ておこうかな。


=======================


【基本項目】

名前 :カティア

年齢 :15

種族 :人間(女神の眷族)

クラス:ディーヴァ


レベル:39


生命値:1,624 / 1,624

魔力 :3,103 / 3,103

筋力 :295

体力 :191

敏捷 :506

器用 :268

知力 :400


【魔法】 ▼


【スキル】▼


【賞罰】

 ■請負人相互扶助組合

  ランク:B

  技量認定(戦闘):上級

  技量認定(採取):中級


【特記】

 ■エメリールの加護(魂の守護)

 ■エメリールのシギル

  ※発動時全ステータス +300

  ※常駐時全ステータス +100


【装備】

  ミラージュケープ


=======================


 レベルが2つ上がった以外は大きな変化は…あった。

 シギルの常駐時と言うのが増えてる。


 え、常駐できるの?

 どうやって?

 というか、何で増えたの?

 …分からない。


 これも、リル姉さんに聞いてみるか…



 あとは…

 まだ着替えていないのでこの前と違って装備欄に記載がある。

 剣や外套、革鎧なんかはもちろん外してるのでミラージュケープだけだが。



 ステータスの確認はこんなところか。



 さあ、今度こそお風呂に入って休もう…






















 あ、この感じは。

 例の『夢』だね。


「お姉ちゃん、こんにちは」


 と、さっそくカティアちゃんが声をかけて来たのだが…

 なんだか前よりも声が落ち着いた感じだ。

 振り向いてみると…


「えっ!?カティアちゃん…?」


「うん、そうだよ。ふふ、驚いた?」


 そりゃ驚くよ。

 前回会ったときは5〜6歳くらいだったのが、今回は12歳くらいの大きさになっていた。


「ず、ずいぶん大きくなったんだね」


「うん。ミーティアに最初に触れたとき、何か暖かなものが流れ込む感じがしたでしょ?そのときに【私】の魂の修復が一気に進んだみたい」


 確かに、ミーティアに最初に触れたときにそんな感覚があった。


「…ミーティアは一体何者なんだろう?」


「それは分からないけど、この話も含めてリル姉さんに聞けば何か分かるんじゃないかな」


「…そうだね。それにしても…もうほとんど今の私と変わらない感じだね」


「うん、記憶も結構戻ってきたし。黒い靄に襲われた記憶も…」


「!!…そう、やはりそういう事なんだね。でも、身体が乗っ取られなかったから、こうして生き長らえることができた」


「お姉ちゃんが助けてくれたからだよ」


「…そうだ。さっきはスルーしたけど、お姉ちゃんって…」


 と、自分の手を見る。

 前回はだぶって見えていたが、今はそんなこともなく。

 紛れもない少女の細腕だ。


「もう、お姉ちゃんの意識は殆ど変わってるんだよ」


「そう…それなら、それでいいよ。別に【俺】が消えて無くなるわけじゃない」


「ふふ、やっぱり私達って似てるね?前向きで、楽天的」


「そうだね。それが取り柄だもの」


「「ぷっ、ふふ、あははは!」」


 二人顔を見合わせて笑ってしまった。



「…こうして、ここでお話しするのもあと何回も無いかもね」


「え?」


「私の魂の修復が進むにつれて、お姉ちゃんの魂とも混ざり合ってきてるんだよ」


「そうなの?」


「なんとなくだけどね。でも、【私】の意識に引っ張られるって思うことがあるでしょ?カイトさんの事とか」


「…そうだね。それに最近はあまり違和感を感じなくなってきてるよ」


「うん。だから、私達はそのうち完全に一つになって、こうして会話をする事もなくなると思うの」


「それは…何だか寂しいね」


「大丈夫!これから本当の意味で生まれ変わるんだよ。だから、さよならじゃなくて…」


「…これからもよろしく?」


「そう!よろしくね!…まあ、もう少し先だと思うけど」



 そうか。

 【私】も【俺】も完全に一人のカティアになるんだ。

 そうなった時、私は本当の意味で新しい一歩を踏み出せる。

 真にこの世界の一員として。



 だから、いつか訪れるその時を楽しみにしていよう。

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