第一幕 8 『対峙』

 いよいよ敵目標まであと数百メートルというところで、いくつかのグループに分かれて目標を包囲するような配置に展開する。


 それぞれ、父さん、ロウエンさん、リーゼさんのチーム。

 ティダ兄、レダさん、ザイルさん、アネッサ姉さんのチーム。

 カイトさん、レイラさん、私のチームだ。


 ヤツに気取られないように、これからの行動は戦闘開始までの間は極力会話は抑えて、事前に取り決めたハンドサインでやり取りをする事になる。

 更に、大きな音を立てないように足元に[消音]の魔法を予め施しておく。



 残り十メートル程となったところで、茂みに身を隠して待機。

 突入のタイミングは、散開後ある程度時間がたってからリーダーであるカイトさんが号令を発することとなっている。


(レイラ、カティア、準備はいいか?)


 カイトさんがこちらに準備は大丈夫か?

 と確認するためサインを送ってくる。


(大丈夫よ)


(大丈夫です)


(よし、では手はず通りに。カウント5で突入する)



 ……5……4……3……2


 ……1!



「行くぞ!突撃!」


「了解っ!」


 号令を掛けるや否や、カイトさんが潜んでいた茂みから飛び出して行き、その後にレイラさんも続く。

 他の二箇所でも、それに合わせて掛け声を上げながら飛び出して行くのが目に入った。

 カイトさんが飛び出した直後から、私も[退魔]詠唱を開始する。


 さあ、戦闘開始だっ!



 父さん、ティダ兄、カイトさんが敵目標に急速接近、これを取り囲む。


「ぐるああっ!?」


 狙い通り、3方向から同時に迫ってくる敵に対して的を絞ることができず、ヤツはとまどって足を止めている。

 だが、こちらも自分からは攻撃は行わずに相手の様子を窺う。

 まず第一段階の陣形は問題なく整った。


 あとは前衛の皆がターゲットを維持しつつ回避に専念、攻撃は私達の退魔系魔法が主体となる。



「ほら、来いよデカブツ」


「うがあぁぁぁっっ!!」


 ドンッッ!!


 オーガもどきは挑発して手招きする父さんに向って、衝撃音が聞こえるほどの踏み込みでひと息に接近!

 大きく振りかぶった拳を叩きつける!!



「はっ!大振りすぎるぜっ!もらった!!」


 ざんっ!!


 父さんは大振りの攻撃をかいくぐるようにして避けながら、伸び切ったオーガもどきの腕に大剣の一撃を見舞う!

 下からすくい上げるような一撃が完全に入り、オーガもどきの腕が飛んだ!



「よしっ!やったか!?」


(あ、それフラグ……)



 オーガもどきの切り飛ばされた腕は、一瞬で黒い靄に変じて本体に吸収される。


 すると……あっという間に腕の断面からまた腕が再生されて元通りになってしまった!



(きっちり回収したね……だったら、これならどうだ!!……って、これもフラグかな?)


『『……[退魔]!』』


 カッ!


 どうやらリーゼさんも同じタイミングで詠唱が終わったらしく、二つの強烈な退魔の光が重なってオーガもどきに炸裂した。


「ぐがあああぁっっ!!!?」


 よしっ!こっちは効いている!(ほっ)




「ティダ!カイト!物理はダメだ!全く効かねえ!退魔はいける!」


「分かった!」


「了解!予定通り前衛はタゲ取りと回避に専念!」


「「応!」」



 これで物理が効かないのは確定。

 後は私たちの退魔系魔法にかかっている。

 果たして、さっきの二重[退魔]がどれだけ効いているものなのか?


 とにかく、倒すまでは何度も撃たなければならない……!


 長期戦になる事も覚悟して、次の詠唱を始める。




「ぐるぁああっっーーーっ!!!」


 ぶんっ!


 次の狙いはティダ兄だったみたいだが、残像すら見えるくらいの速度で危なげなく躱す。

 そのまま攻撃は加えず、回避に専念する。


「ごぉおおおっー!!」


 今度は黒い靄が収束して、槍のように伸びる!

 狙いはカイトさんだが、予備動作を見て既に回避行動に入っており、こちらも危なげなく回避。


 ……うん。

 やっぱり、ちょっと身のこなしを見ただけでも只者じゃないのが分かる。

 少なくとも戦闘技量中級に収まるものではないだろう。



 黒の槍は伸びるときと同じ速度で戻り、また黒い靄となる。


『……[神威]!』


 コウッ!!


 そこに、アネッサ姉さんが発動した退魔系上級魔法[神威]の眩い光の柱がヤツの足元から天に向って放たれる!


「ぐごおぉぉぉっっっ!!!!!!?」


 神聖な光の奔流に晒されて、オーガもどきは退魔2発を同時に受けたときよりも激しく叫びをあげる!


 だけど……斬撃では上げることがない悲鳴を上げていることから効いてはいると思うのだが、プレッシャーは一向に衰えない。




「ちっ、魔法は一巡したが、どんだけ効いてるのかが分からんな!」


「まだ想定内だ!集中を切らすなよっ!」


「ああ!分かってる!っよ、っと!」


 ドゴォっ!!


 会話しながらも前衛は流石の安定感がある。

 もはや攻撃は捨てて、完全にタゲ取りと回避に専念しているので尚更だ。

 こちらも続けて魔法を撃つために再度詠唱を開始する。


 ……戦闘は持久戦の様相を呈して来た。

















 戦闘を開始してもう10分以上は経っただろうか?


 既に私達3人の魔法は何度もオーガもどきに当たっている。

 しかし膠着状態は変わらず、今もヤツの勢いに衰えは無い。

 流石に魔力消費も馬鹿にならなくなってきており、そろそろ撤退も考え始めないといけない頃合いだ……


 どうする?

 今なら前衛は安定してるし、あれを試してみるか……?

 時々前衛を抜けそうになる場面もあったが、中衛が上手いこといなしてくれて、今のところ後衛までその猛威は届いていない。

 やるなら今のうちだろう。



「このままじゃジリ貧だ!そろそろ、撤退を……!」


「カイトさん!もう少し待って!最後に大技を試してみるから!合図で後退してっ!」


 これから撃とうとしている魔法は味方にも影響があるため、発動前の後退をお願いする。


「何っ!?……分かった!それで駄目なら一度撤退だ!皆!聞いてたな!」


「「「了解!」」」


 よし!詠唱開始っ!



『天より零れ落ちたる日の欠片は神の気を纏て此処に集い……』


「えっ!?カティアちゃん〜!それ、いけるの〜!?」


「うそっ!?まさか、その詠唱は!?」


(おっと、まさかそのセリフがリアルに聞けるとは。いや!集中集中!)


 雑念を払い魔力制御と詠唱を続ける……


『日の輪の如き華となって遍く天地を照らせ……』


 詠唱とともに魔力が練り上げられ、力のカタチが定まる感覚がする。よしっいけそうだっ!



「後退してっ!!いくよっ!」


 これが、退魔系特級の……!



『[日輪華]っ!』



 バシュッ!!!



 皆が後退するのを確認してから引き金となる言葉を発した瞬間、ヤツがいたところにあたり一面を白く塗りつぶすほどに眩い小さな太陽が出現した!!



 アンデッド共通の弱点である陽光にも似た光を限界まで圧縮し聖なる気をまとわせて放つ、上位アンデッドをも一撃で葬り去る強烈な魔法だ。

 かなりの高熱も伴うため、退魔系でもこればかりは気軽には放てない。


 ヤツは悲鳴すら上げる暇もなくマトモに食らった。

 これで駄目なら撤退するしかないだろう。



「やったか!?」


(いや〜っ!?だから父さん!フラグを立てるのはやめなさいって!)


 強烈な熱と光が徐々に引いていくと、そこにいたはずのオーガもどきの存在は跡形もなく消えていた

(ほっ)



「凄えっ!」


「おいっ、跡形もなくなっちまったぞ」


「討伐証明が面倒だな……」


「カティアちゃん〜!凄いじゃない〜!いつの間に[日輪華]なんて覚えたの〜?」


「ああ……凄い威力じゃないか。何で最初から使わなかったんだ?」


 皆集まってきて、口々に私のことを称賛してくれる。


 ティダ兄ごめん、でもしょうがないでしょ。

 そして姉さんとカイトさんが不思議そうに聞いてくる。

 まあ、当然の疑問だよね。


「いままで一度も使ったことがなかったからですよ。本当に発動するかは分からないし、ぶっつけ本番じゃあリスクがありましたし。前衛が安定してたので、撤退するくらいなら試してみようと思いまして」


「はあ〜、なるほどな……大したもんだ」


「ほんとっ!凄いですよ!神殿でも使える人は殆ど居ないですよ!」


 ん〜、何かズルして使えるようになった気がして、あんまり褒められるとなんだか気まずいんだよな……

 仮初のカティアも私には違いないんだけど……







 強大な力を持つ敵を倒して、私達はほっと一息をつく……


 だがその時!!


 ゾワっとした感覚に、私は思わず後ろをばっ!と振り返る。

 そこは先程までオーガもどきが居たところ。


 そこに見たのは……



「なに?あれ……?黒い……穴?」


 空間にぽっかりと開いた余りにも不自然な黒い穴のようなもの。



 あれは……まずいっ!?



 その黒い穴……『闇』は突然爆発的に広がって、急速にこちらに押し寄せてくる!!


 だめだ!間に合わない!!


 そう思った時には、視界はなぜか闇の黒ではなく真っ白に染まって……




 私は意識を失った。

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