二斧と二刀
「《
ヨゾラが風の力で一気に女性に近づき斧で斬りつけるが、女性は難なく斧を受け止め、そのまま上空へと弾き飛ばす。
「っ《
飛ばされたヨゾラが受身のために空中で追い風を起こして衝撃を相殺し、追撃と着地狩りを防ぐために透明な投げナイフを女性がいる場所と着地先の近くと避けるであろう地点に合計八本ほど投げるが、どう言う訳か簡単に全て避けられてしまい、ヨゾラが地面に落ちて来た所を右手の刀で切り裂かれる。ヨゾラもそれを読んで斧で防ぐが、隙間を縫うような左手の刀による突きを胸元に受けてしまう。
「《
ヨゾラは自分を中心に竜巻を発生させ、それを避けるために女性が後ろに跳び、引き剥がすことには成功したが、不意に投げられた右手の刀が避けることも受けることも出来ずにヨゾラの脳天を貫いた。
「はい、終わり。これで零勝五敗だね、ヨゾラ君。とりま、治してあげる」
いつの間にか近くへ来ていたナディアがヨゾラへ光る粉を振りかけると武装はみるみる治っていき、元の傷一つない体へと戻った。
「えーと、全く勝てるビジョンが見えないんだけど?」
「んー、ヨゾラ君から見たらそうかも? なら、相手を変えて見る? もしかしたら、もう一人の方からこの人に勝つコツって言うのが分かるかもよ?」
「ナディアちゃんが言うならそうしてみようかな。でも、代わってくれるかな? 妙に人間っぽくて頼んでも聞いてくれなさそうなんだけど」
「気のせい、気のせい。ほら、見てて」
そう言うと、ナディアは女性に近づいていった。
「大丈夫かな」
ヨゾラが遠目で見てる中、ナディアが女性に対して話しているような様子だったがヨゾラからは聞こえなかった。が、女性はナディアの頷きながら聞いているようだ。
「あれ、もしかして成功しそう?」
そう思ったのも束の間、女性がナディアに刀を向けた。ナディアは首を振っているが、問答無用と女性はナディアに斬りかかるが、ナディアは翅を上手く使って飛び避けていた。
「ナディがこの人の相手してるから、ヨゾラ君はあっちの人と戦ってなよ」
「僕よりそっちの方が心配なんだけど」
「大丈夫、大丈夫。これでもナディは皇妃候補だからね」
そう言いながら、ナディアはステッキを出現させるとそれを女性に向けた。
「《
そこから飛ばされた無数の光の粉が高速で女性を襲った。それを避けきれずに受けた女性は気を失ったかのように倒れこんだ。
「うわあ」
全然勝てなかった相手を一瞬で無力化したため、ヨゾラは若干引いていた。
「寵愛能力が使えない上に本人じゃないならこんなもんだよ」
そう言うと、ナディアは倒れた女性を椅子にするように座りこんだ。そのナディアの顔は何故か嬉しそうだ。
「乗る必要あった?」
「ないよ。それより、もう一人と戦ってきなよ。やる気になったらしいからさ」
ナディアの言う通り、男性が仕方なさそうに立ち上がっていた。
「こっちの人でもあんまり勝てる気がしないなあ」
「最初から負け腰じゃあ絶対に勝てないよー。ヨゾラ君なら勝てるから頑張れー」
「まあ、やるだけやってみるよ」
ヨゾラが二斧を抜き戦闘体勢に入ると男性は大太刀を抜き勢いよく走って来た。
「《
ヨゾラは透明な二本のナイフと実体化した二本のナイフを男性に向かって投げた。しかし、男性はそれを大きく右に跳んで避けた。
「うん?」
ヨゾラは先程の女性と比べて男性の動きに違和感を覚えたが、それが何か気づく前に男性が再び近づいて来ていた。
「《
今度は実体化した二本のナイフを男性へ、透明な四本のナイフを男性の左右へと投げた。男性は同じように今度は左に跳んで避けるが、透明なナイフに当たってしまうが掠めただけで対してダメージにはなっていないようだ。
「《
どうやら先程の女性と違い、透明なナイフが見えていないようで完全に避けることは難しいようだ。
となると、ヨゾラの勝利条件は男性を近づけずに透明なナイフを投げ続けて、寵愛能力が切れる前にナイフを急所に当てれば勝てるというものだった。
「あとは、それをさせてくれる相手なのか、って話なんだけどね。《
再び向かって来る男性から離れるために、ヨゾラは風を使って大きく空中へと跳び近くの家の屋根の上へと乗った。が、乗った家ごと大太刀で切り裂かれてしまう。
「近づいたら一発で死にそうだね。なら、逃げに徹することにしよ」
そして、男性の黒い影とヨゾラによる長めの追いかけっこが始まったのである。
――――――――――
夢の中でヨゾラが戦っている中、サキがいる現実の広場でも動きがあった。
男性が振るった大太刀を二刀で受けた女性が大きく吹き飛ばされ、距離が開いたのを見計らって男性側が女性にとある提案をした。
「今日はこの辺にしておくか」
「ちっ、せっかくいいところだったってのに兄貴も連れねーなー」
女性側は若干不完全燃焼気味だったので、男性の提案を仕方なく受け入れているようだ。
「こればっかりは仕方ない。挑戦を受けるのもお前の仕事だ」
「けどよ、ここ一週間は誰も挑んで来てねーぜ? 聞く意味あるのか?」
「まだ、お前に挑んでくる者がいるかもしれないからな。それに、お前も戦いは嫌いじゃないだろ?」
「まーな。けど、アタシはあんまり弱い奴と戦う趣味もねえよ。嬲っているようで気分が悪い」
「そう言って、足元を掬われるなよ。んじゃ、今日も一発やっておくか」
男性が広場の中央に立つと持っていた大太刀を地面に突き刺し大声で宣言した。
「ここにいるのは! 薫灼の都クレイズの現皇妃候補であるマーガレット・ノルド・クレイズだ! この皇妃候補の座を奪い取りたい奴は今ここで名乗りを上げ、その力で証明してみせろ!!」
その大声はクレイズ中に響き渡るほど大きく、野次馬達が静まりかえる程だった。
しかし、その宣言に対して名乗りをあげるものはおらず、静寂が残るばかりであった。
「やっぱ、挑んでくる奴はいねーよな。おい、兄貴。早くさっきの続きをしようぜ」
マーガレットがそう言い終わると同時に広場には笛の音が響き渡った。そこにいるマーガレットやその兄貴、野次馬達もがその音を発した人物。つまり、サキへと視線を向けた。
それを受けた当の本人は一旦、フルートから口を離して視線を向けた人々に言葉を発した。
「どうぞ、私のことは気にせずに戦いを見ていてください」
そう言うと、サキは演奏を再開しようとしたが、それを呼び止める人物がいた。
「おいおい、それで戦いが続けられるほどアタシの看板は安かねーぜ?」
それは他でもない戦いを邪魔されたマーガレットだった。そんな様子のマーガレットに対し、隣の男性は顔に手をやり、溜め息を吐いていた。
「ふーん、それで? 私はどうすれば許されるのかしら、マーガレットちゃん?」
サキの煽りが余程気に障ったようで、マーガレットは右手の刀をサキへと向けた。
「決闘だ。そうでもしなければ、腹の虫がおさまらねえよ」
「あら、皇妃候補がする決闘の意味が分かっているのかしら?」
「はっ、舐めんな。もちろん、負けたらこの座を明け渡してやるよ」
「吐いた唾はしっかり飲み込む事ね。ジーク、そこで寝てる私の連れを見てて頂戴」
サキがジークと呼び、反応したのはマーガレットに兄貴と呼ばれていた男性だった。
「初対面なのに呼び捨てとは肝の座った嬢ちゃんだ。いいぜ、あんたの連れを見て置いてやるよ」
そう言うとジークはサキが指差した先にいる、寝たままのヨゾラへと向かっていった。
「自分から人質を差し出すとは間抜けなことするな、お前」
「戦いは正々堂々やるものよ」
「はっ、悪くねえ考えだ」
サキの潔さにマーガレットは少しだけ好感を持ったようだが、矛を収める気はないようだ。
サキはフルートをしまってから広場に立ち、マーガレットと向かい合い始めた。
「それで、さっきの戦いで傷ついた武装はどうするのかしら? 負けた時の言い訳にされても困るわよ?」
「心配するな、これを使ってやるからよ」
そう言うとマーガレットは一旦武装を解除し、首から下げた結晶をサキに見せた。
「龍愛石。この辺でしか採れない貴重な石だ」
「特性は寵愛能力を少しだけ貯めておく事ができて、使うと、まあ、簡潔に言うと寵愛武装の再展開が早くなるって所かしら」
「よく知ってるじゃねえか。それより、早く戦おうぜ。場が白ける」
マーガレットの言う通り、いつまでも聞こえない話をしている二人に対して野次馬達がどよめいていた。
「それもそうね」
そう言うと二人は互いに右手を突き出し、寵愛の証を光らせ始めた。
「《星の演奏家》」
「《龍炎の武者》」
そうして、お互いが寵愛の光に包まれ寵愛武装が完了した。
「さて、始めようじゃねえか」
そう言って、サキの元へとマーガレットが駆け出したことで、戦いの火蓋が切って落とされたのであった。
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