呪いの代償、克服の祝福
夜の廃墟は月明かりだけでは暗すぎたため、ヨゾラが蝋燭を取り出したところ、ヴィオラが空気を読まず場所を移したいと言うので四人はカタリナの家までやってきた。
「仕事が忙しくてあまり帰ってないので結構汚いですよ?」
カタリナが言った通りその一軒家には良く言って生活感が溢れていた。
「それなら、
どうやら、没落した後の生活で自分でしなければいけないことが増えたらしくヴィオラはとても要領よく綺麗にしていった。
残された三人は大人しく食事場で待つことにした。
「あれが領主の娘だったとは思えませんね」
「えっ! そうだったの!?」
「そうらしいですよ。世の中意外な人が意外なところにいるものですね」
カタリナの言葉にヨゾラはサキの方を見るが、サキはフルートを口に付けて音を鳴らさず指だけで演奏の練習をしているようだった。
「こんな時でも笛ですか。呑気なものですね」
演奏をしていないせいか、サキはフルートから口を離しカタリナに対して現状を伝えた。
「手紙に関して今は話すつもりはないわ。ヴィオラにも関わる話だもの。大人しく待っているといいわ」
ヴィオラの掃除はしばらくかかりそうだと思ったカタリナは、帰りに買った食材で夕飯を作ろうと思った。
「では、本官は食事の準備でもしますよ」
「待ちなさい」
カタリナが料理を作ろうと席を立とうしたが、サキがそれを引き止めた。
「なんですか?」
何故引き止めるられたか分からなかったカタリナはサキに理由を聞いた。
「料理なら私が作るわ」
サキが珍しく焦っていることを感じたヨゾラはサキの言葉に乗ることにした。
「えっ、そうなの? 僕も久しぶりにサキちゃんの料理が食べられて嬉しいよ」
「笛以外にも取り柄があったのですね。それなら、任せますよ」
多少強引だったがカタリナは手間が省けたのをいいことにサキに任せることにした。
「なら、本官はシャワーでも浴びて来ますかね」
「へー、そんなものまであるんだ」
この国の貴族事情についてよく知らないヨゾラだったが、カタリナがお金持ちだと言うことは分かった。
「ヨゾラ君も一緒に浴びますか?」
「んー、カタリナちゃんの後に入らせてもらうよ」
自分の家を自慢したげなカタリナだったがそれ以外のことが気になったヨゾラは丁重に断った。
「そうですか。では、行って来ますね」
そう言ってカタリナは浴室へと向かって行った。
「一日で随分と仲良くなったのね」
今は食材を切っているサキが嬉しそうにヨゾラに話しかけた。
「まあね。何か手伝うことはある?」
「じゃあ、お皿を洗って貰える?」
「
そう言ってヨゾラは台所へ行き、溜まっている汚れた皿を洗い始めた。
「このアデリアでの用事も済んだし、明日にはここを立つわよ」
「そっか、これでしばらくカタリナちゃんとも会えないのか」
少し暗い表情をするヨゾラ。そんなヨゾラの頭をサキは優しく撫でた。
「寂しいかしら?」
「ううん。サキちゃんがいるから平気」
「あら、嬉しいことを言ってくれるじゃない」
サキはカタリナを撫でるのをやめ、調理を再開し始めた。ヨゾラは溜まっている食器に悪戦苦闘しながら順当に処理していった。
―――――――――――――――
ある程度の掃除に調理や食事、全員分の湯浴みが済んだところで四人はサキとヨゾラ、カタリナとヴィオラで向かい合って座りながら紅茶を飲んでいた。
「それで、あの手紙の正体と仮面はなんだったんですか?」
「そうね。じゃあ、まずは手紙の方から話しましょうか」
サキはそう言うと懐からあるものを取り出した。
「これは知り合いに作って貰った押印ね。見ての通り、ヨゾラやカタリナに渡したもの手紙の封蝋と同じものよ」
「まあ、薄々勘づいてはいましたが手紙を書いていたのは貴女だったのですね。ヨゾラ君が本官のことを騙していたのは少し傷つきましたが」
カタリナは予想はしていたが実際に言われると少なからずショックを受けている様子だ。
「ヨゾラは何も知らないわよ。よかったわね、騙されてなくて」
「そう言われても慰めにしか聞こえませんよ」
拗ねてしまったカタリナにヨゾラは助け舟を出すことにした。
「それは本当だよ。僕はこの手紙のことなんて何も知らないよ」
「え? 一緒に旅しているのに?」
サキは一旦紅茶を飲み、それから話を続けた。
「というより、私の寵愛能力に関わるから教えなかったのよね」
「貴女の能力って確か幻を出すでしたよね? なら、月影神の寵愛とかじゃないのですか?」
「残念ながら外れよ。私の寵愛は音楽神の寵愛。曲を作って奏でれば割となんでもできるっていう面白い寵愛ね。まあ、使えるのは他の寵愛能力より劣っていたり、そもそも曲を作れなかったりであまり使い勝手はよくないわね」
そう言いながらも、サキは自分の寵愛能力に誇りを持っているようだ。
「それで、その寵愛能力と手紙に一体何の関係が?」
「その能力の一つに未来視があるのよ。それで、カタリナに逃がして貰ったり、エレナさんの亡霊が現れたりするのが分かったというわけね」
「ふむ。ふむ? は?」
何気なく談笑でもするかのように重要なことを言うサキにカタリナは面食らった様子だ。
「言っておくけど、能力の証明とかはできないわよ。だから、手紙に関して話すことはもう無いわね。他に聞きたいことはあるかしら」
「では、
「いいわよ」
カタリナが唸っている横で次はヴィオラが質問をした。
「あの仮面の人、サキさんはエレナさんと呼んでいた人がこの左手にある寵愛を神の呪いと言ってましたの。それについて分かることはありまして?」
サキが飲み終わったカップに再び紅茶を淹れながらヴィオラの質問に答えた。
「神の呪い……ね。エレナさんはそう言っていたのね」
「ええ。それと、人には過ぎたものとも言っていましたわ」
「なるほどね。じゃあ、まずは神の呪いとは何かという話をするわ」
サキは再び紅茶を飲み一息ついてから話し始めた。
「まず、神の呪いとは数十年前に各領主に献上された結晶体に付加された寵愛能力と言うのが正確な表現かしら」
「それはエレナさんも言っていましたわね。他にはどんな効果がありますの?」
「当時の領主の血を持つものの願いに反応すること、力には代償が必要なこと、克服すれば祝福に変わることくらいね」
「代償と克服?」
「そうよ。代償とは呪われた状態で願いを叶えるか諦めると取られるもので、克服は呪いの力を使わずに願いを叶えることよ」
「願いのために貰える力なのに使わずに叶えるとは変な話ですわね。そういえば、
「その時はいつになっても来ないわよ。貴女の呪いは既に無くなっているもの。エレナの亡霊に何かされたのかしら」
「武装した左腕を持っていかれましたわ」
「その時に回収されたわね。呪いの代償を払わずに済んで良かったわね」
「それほど呪いの代償とは酷いものですの?」
「ええ。呪いの力からしてヴィオラさんは太陽神の寵愛を犠牲に大きな狼になっていたかもしれないわね」
「それは……怖いですわね」
自分が異形の者となることと長年一緒だった太陽神の寵愛を失うことを想像したヴィオラの顔は少し青ざめていた。
「本官からもまた質問をしてもよろしいですか?」
「いいわよ。何が聞きたいのかしら」
「何故、神の呪いについてそこまで詳しいのですか? 本官は学園の出身ですが、そんな話は聞いたこともありませんよ」
サキは何杯目か分からない紅茶を飲み干してからカタリナの核心を突くような質問に答えた。
「先代領主に神の呪いが付加された結晶体を献上したって話は覚えているかしら」
「ええ、それがどうかしましたか?」
「私はその呪いを渡した子孫なのよ。今はその呪いによって平和が脅かされないように旅をしているわ」
「ふむ。では、何故エレナ先輩の亡霊があの場所に出現したか分かりますか?」
「それは分からないわ。けど、おそらくあの子が元は呪われていたことが関係していると思うわ」
「先輩の呪いは顔を取られるもののはずです。それ以外に先輩が呪いで取られたものがあったと言いたいのですか?」
少しずつ語気が強くなるカタリナ。しかし、それは無理もない話だった。それほど、カタリナにとってエレナという存在は大きかったからだ。
「それだけ呪いの代償は大きいという事よ。正直、彼女が生前に取られたものが顔だけで済むとは思っていなかったけど、さすがに死して尚取られるとは思わなかったわ」
と言ったところでサキは机の下でヨゾラに太ももに爪を立てられた。これ以上は危険だという合図だろう。
「他に何かあるかしら」
「本官が先輩のために何かできることはありますか?」
「ないわ。それにエレナの亡霊とは言ったけれど、エレナの抜け殻に呪いが混じっただけの傀儡よ。彼女の自我なんてほとんど残っていないと思うわ」
「では、それ以外のことで何か……」
「なら、墓参りにでも行くといいわ。その方がエレナも喜ぶと思うわよ」
「そう……ですか」
自身が思っていたような答えが貰えなかったカタリナは少し暗い表情をしていた。
「今日はカタリナちゃんもヴィオラちゃんも疲れてるだろうしこの辺でお開きにしようか」
「もう遅い時間ですからこの家で寝泊まりしてください。本官は先に寝ますね」
それだけ言ってカタリナは自分の部屋に行ってしまった。
「私達はどこで寝ればいいのかしら」
「それなら、
「別に構わないわよ」
「では、案内しますね」
そして、サキとヨゾラは客室に案内され夜が更けて行くのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます