戦いの後に

 カタリナと仮面の人物、二人を巻き込んだ光の剣は再び屋敷を破壊し、風通しがよく満天の星空が見える物件へと生まれ変わった。

 一方でその攻撃を直で受けた二人の武装は完膚なきまで破壊された。しかし、そこにはカタリナしかおらず仮面の人物は霞のように消えてしまった。


「逃がしましたの?」


 寵愛能力切れで武装が壊れ、決闘後とは違う服を着たヴィオラがあまり元気がない様子のカタリナに近づいてきた。


「いえ、本官は最後まであの人を拘束していましたので、逃がしたというのは考えづらいですね。それに、武装が破壊されていくのもこの目で見ました」


わたくしも見ていましたが逃げた様子はありませんでしたわ」


「ふむ。なら、最初から存在しなかったと考えるのが一番正しいのかもしれませんね」


「そういえば、あの仮面とは知り合いでしたの?」


「いえ、本官の先輩はもっと強いのできっと別人ですよ」


「その先輩に似ていたと?」


「というか同じ仮面を付けていました」


「変わった先輩ですわね」


「ええ。とても変わった良い先輩でした」


「その方は今どちらに?」


「今はもう……」


 カタリナが次の言葉を口にしないことに疑問に思ったヴィオラは、今までの会話とカタリナの反応からとある推測に辿り着いた。


「もしかして、お亡くなりに?」


「……そうですよ。一年半程前に決闘による事故死です。本当に貴女が下手に武装を解除しなくてよかったですよ」


わたくしには家の再興という目的がありますもの。そんな下らない死に方はごめんですわ」


「そうですね。本当に下らないですよね」


 ヴィオラは少し気まずくなった。そんな様子にカタリナは気を遣って話題を振ることにした。


「家の再興とはこの家のことですか?」


「……なんのことかわかりませんわね」


「分からないなら結構です。これは本官の独り言ですが、先程戦った仮面の人が本物ならここの領主を摘発したのもあの人ですよ。よかったですね。知らず知らずの内に仇が取れて」


 カタリナは自分の言葉でヴィオラが激昂するものかと思ったが、ヴィオラは落ち着いたままだった。


「これでもお父様のしたことは理解していますの。反帝国組織と繋がっていましたので捕まって当然ですわ。だから、仇とかは考えていませんわ」


「貴女は立派ですね。昔のことに囚われている本官とは大違いです」


「なら、皇妃の座を譲ってくださる?」


「貴女が考えるほど皇妃に強い権利はありませんし、とても家の再興なんてできませんよ。そもそも、家の再興をして何がしたいのですか?」


「そうですわね。まずは……」


 と言いかけた言葉が続かなかった。ヴィオラは必死に頭を回転させ考えるが一つも思いつかなかった。


「どうやら、過去に囚われていたのはお互い様だったようですね」


「なら、わたくしが呪いを受けた意味とは何だったのでしょうね」


 そう言いながら、ヴィオラは自身の左手を見た。そこには何も描かれておらず、力を込めても何も浮かばなかった。


「呪いってもしかして、その左手の寵愛のことですか?」


「そうらしいですわね。わたくしも仮面の人から初めて聞きましたわ。けれど、何度力を込めようとしても武装ができませんの」


「ふむ? 単純に寵愛能力が切れただけではないのですか?」


「そうかもしれないですわね」


「何故自分の能力なのに何も知らないのですか」


わたくしの能力は右手の太陽神の寵愛だけですわ!」


 カタリナはヴィオラが左手の能力の扱いが酷いのを見て一つの結論を出した。


「神に見放されましたね、それ」


「え?」


「自身の能力を嫌い過ぎると寵愛能力が無くなるんですよ。そのことを学園では神に見放されると教わりました」


「まあ、貴女と戦わないなら必要はありませんわね。使いづらいですし」


「そんなことを言ってると本当に無くなりますからね!」


 それだけ言うとカタリナは何かを思い出したかのように辺りを見回し始めた。


「どうかされましたの?」


「本官と一緒にいた少年を探しているのですが」


「僕のこと呼んだ?」


「うわっ」


 ヨゾラは天井の穴からカタリナとヴィオラを見下ろしていた。隣にはフルートを片手に持ったサキも一緒だ。


「笛吹き女も一緒なんですね」


「僕の武装が破壊されるとサキちゃんに伝わるからね」


 そうして、ヨゾラは武装したサキにお姫様抱っこをされて降りて来た。サキは自身の仕事が終わったと言わんばかりに、またフルートを吹き始めた。


「こんな時でも笛を吹くとは本当に物好きですね」


「この人達は誰ですの?」


「本官の後輩兼召使いです」


「違うよ? 旅の楽師だよ?」


「はあ」


 呆れるヴィオラをよそに、サキの場違いな勇ましい曲が鳴り響いていた。


「それより、その笛吹きに聞きたいことがあるんですが」


 サキはカタリナの言葉が聞こえていないのか構わず、フルートを吹き続けた。


「これ、聞こえていますの?」


「聞こえてはいるはずです。ヨゾラ君、なんとかなりませんか?」


「えー。とりあえず、自分でなんとかしてみてよ。蹴りを入れるとかして」


「武装している相手に喧嘩売るとか本官はしたくありませんよ!?」

 

「それより、この選曲はどうにかなりませんの?」


 ヴィオラの声は聞こえたのかサキは曲を涙を誘うような暗い曲に変曲した。


「先程よりは良くなりましたわね」


「本官の言うことは無視なんですね!」


「んー、聞いてないと思うけど一応質問してみれば?」


「絶対答えてくれませんよ、これ」


「そのときは別の方法を考えよう?」


 カタリナはあまり乗り気ではなかったが、ヨゾラにそれ以外に方法はないと言われている気がしたので仕方なく演奏中のサキに質問をすることにした。


「本官にヨゾラ君を介して手紙を渡して来ましたよね? あれは一体何ですか?」


 サキは再びカタリナを無視して演奏を続けた。


「やっぱり、聞いてないじゃないですか!」


 ヴィオラはひたすら無視されるカタリナが可哀想に思えて来た。


「サキちゃん」


 すると、ヨゾラが真面目な雰囲気でカタリナに話しかけた。


「いい加減教えてあげたら? さすがに何も知らないとは言えないよ?」


 ヨゾラの言葉を聞いてようやくサキは演奏をやめて、フルートを口から離した。


「いいわ。エレナの亡霊を打ち倒したことに免じてなんでも答えてあげるわ」

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