幸せの形

知美

幸せの形

私たち夫婦は昨年の8月に結婚式を挙げ、籍を入れた。



私たちは家族の前で夫婦でいることを誓った。



しかし、実際のところ夫婦であることを誓っていても、離婚というものはどうしても起こりうる。



私たちはその瀬戸際にいた気がする。



お互い何も喋らず、何も干渉しない。



旦那さんのたまの休みに旦那さんがゲームをやっていれば、私は外へ遊びに行く。


私が手芸をやっていれば、旦那さんはYouTubeで動画を見ている。


 


どんなゲームをやっているのか、どんなYouTubeを見ているのか、全くわからない。



教えてくれないのだ。  



元々、喋らない人ではあったが、こんなにまでとは知らなかった。




そんなある日、旦那さんが家に帰ってくると、箱を持ってきた。



なんだか、ケーキが入っているようなものの箱だった。



「今日は美咲の好きなチョコケーキだ。」



と旦那さんは言う。



「今日なんかある日だっけ?」



と私が言うと、旦那さんは少しだけ顔を歪めた。



「忘れたのか?昨年の今日に俺たちが付き合い始めたんだよ。」



私は、そんなこともあったような。


と、思う反面、旦那さんが覚えていたことに驚く。



「早く食べよう。」



と、旦那さんは言って包丁を取り出し、黙々とケーキを切り始めた。



その姿はぼーっと見ていた私に


「そんなに俺が付き合い始めた日のことを覚えているのが、意外なのか?」



と、私に問う。



「いやー。まぁ…。そうだね。」



私は正直に言う。



ケーキを切り終えたのか、旦那さんはテーブルに運び椅子に座り、私にも座るよう、催促する。 



「俺が告白した時、美咲が条件を出したじゃないか。」



「条件?」



本当に覚えていない。



「ああ。


『1日1日を大切にすること。』


って。」



「そんなこと言ったっけ?


でも、その条件と今日と何が関係するの?」



「付き合った日も俺たちが送る1日の1つなのに、大切にしない方がおかしい。」



またまたびっくりする。



「美咲には最近寂しい想いをさせてしまっていた気がする。


すまなかった。」


旦那さんは頭をぺこりと下げる。  



「でも、俺毎日幸せなんだ。


美咲がご飯を作ってくれている姿や洗濯物を干している姿が好きなんだ。」



私は急なことに驚きっぱなしだった。



そして、旦那さんは私の方を向き、



「これからもよろしくお願いします。」



と言う。



私はこの誠実さを好きになったんだった。


私は少しわがままになっていたのかもしれない。



「よろしくお願いします。」



私もぺこりと頭を下げた。



すると、旦那さんは満面の笑みで私を見た。



ああ、なんて幸せなのだろう…。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

幸せの形 知美 @mi369

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ