2章:時を賭ける少女(第6話)
「うおおおおおおおお!」
「あ、あれ? ゴブリンのやつ、本当にお腹が痛かったのかな…」
「おい、国府よ。乗客の寿命を確認できるか?」
「は、はい。ええっと…」
「どう? 国府チャン」
「そ…そんな…」
「国府ちゃん…どうなの?」
「…だ、だめ…。残り3分…。バスが停まったのに、変わってない。乗客の人も、私達も…」
「そんな…。豊橋くん、どうすればいいかしら?」
「残念ながら、停車する事を予見した上での寿命判定だったようだ。仕方あるまい。少なくとも俺たち全員、バスを降りるべきだろう」
「鳴海先輩、他の乗客はどうしますか? ほっといたら、全員あと3分で死ぬかもしれないスよ…」
「騒ぎにするのはまずい。僕が最後に降りるから、通路を歩きながら、小声で乗客にも降りるように呼びかけるよ」
「で、結局降りたのは、俺たちだけだったか」
「国府、悪い。頼めるかな?」
「はは、はい…。私たちと、バスに残っている乗客のみなさんの寿命を確認しますね。ええっと…」
「国府ちゃん、どう? 変わった?」
「あ、あれ? あれあれ?」
「国府チャン、今度はどうなったの?」
「えっとね…。ええっと…。乗客の寿命が…元にもどってるみたい…。3分じゃない。分単位だから、何年かすぐに解らないけれど…もっとずっとずっと多くになってる」
「そうか…。ひとまずはよかった。でも、原因がわからない。乗客の寿命が変化した要因差分は、停車したバスから僕たちが降りたか、降りなかったか、だけだ。僕たちの存在が要因で、乗客の寿命が左右されるなんてあり得ない」
「なるほど。であれば、とりあえず、俺たちがバスに戻るという選択肢は消えたという訳だ」
「神宮前、悪いんだけどさ、バスの運転手さんに、僕たちの事は構わずに出発してくれるように言ってきてくれるかな」
「りょ、了解っス、鳴海せんぱい。え~と、あの~! 運転手サン! あの人、まだだいぶ時間がかかるみたいっスから、出発して貰って大丈夫です。ボクたち、友達だから、一緒にここに残ります。あ、気にしないでください。いざとなったら、タクシーを呼びますから」
「よかった…。本当によかった…」
「国府ちゃん…。バスのみんなの命を助けられたのはよかったよね。でも、あたし、国府ちゃんの事も凄く心配だよ?」
「さっちん、ありがとうねえ。でもね…ええっと、うん。鳴海せんぱいの寿命も、元に戻ったみたい。だから、私たちも大丈夫だよ」
「国府、もういい、これ以上超能力を使ってはだめだ! 寿命と引き換えになってるんだぞ! …それと、僕の寿命は口に出さなくていいからな。神宮前と同じように、バグってるかもしれないし…」
「うふふ。安心してください。言いませんよ」
「ならいいけど…。そうだ、桜、鏡を持ってないかな?」
「あたし? えっと…ごめん。今日は持ってないみたい」
「鳴海先輩、ボクの手鏡を使って下さい」
「うん。ありがとう。ほら、国府」
「え?」
「能力を沢山使ってしまっただろ? 自分の寿命を確認するんだ。それから、これを最後に、能力を封印してくれよな、今度こそ」
「…見るのが怖い…」
「解ってるよ。でも、見なきゃ、対策ができない」
「怖い…。怖いなあ…」
「国府ちゃん…。あたしが抱きしめていてあげるから、勇気を出して、見よ?」
「ありがとう。でも、抱きしめてくれなくって大丈夫だよ。私、ひとりで見られるから…」
「国府チャン…手が震えてる…」
「……」
「国府?」
「…うん…確認しますね……。あっ…」
「どうした? 国府、残りの寿命はどのくらいになってる?」
「わ…私の残りの寿命の数値…」
「う…うん」
「…0…です…。うふ!」
「そんな…! 0って…。国府ちゃん、どうなっちゃうの?」
「鳴海の寿命が回復した上で、かつ国府が0であるのならば、論理的には国府だけに死が訪れる事になる」
「で、でも、国府チャンには何も変化がないよ? やっぱり間違いなんじゃないの? 国府チャン、何も起こらないんじゃないの!?」
「い、痛!」
「ん? 国府、どうした?」
「あ…血…。国府ちゃん、耳の後ろのところ…血が…」
「えっ? 血? 私? えっと…。ああっ! な、なにこれ!」
「国府チャン…! め…目からも血が…出てるよ!」
「え? え? なにこれ? なにこれ~! ど、どうなっちゃうんだろう、私! 私、どうなっちゃうの!」
「国府ちゃんの白いワンピースが…! だんだん血が滲んで…ああ…体中の皮膚が裂けてしまっているのね…!」
「鳴海くん! 早く、早く救急車を呼ばなくちゃ…!」
「あ、ああ。ち、畜生…て、手が震える…」
「痛い! 痛いよぉ! 前がよく見えないよぉ…!」
「よ、よし…。あ、あれ? 圏外だと…?」
「鳴海先輩! ボクのスマホも圏外だ…」
「谷間とは言え、民家が集中している場所で圏外なんてあり得ない…」
「公衆電話だ、鳴海。有線電話ならつながるはずだ」
「公衆電話だと!? そんなもの、どこにあるっていうんだ」
「お、おい、オレがトイレに行っている間に、な、何がおこったんだ? ど、どうなってるの? こ、コウちゃん?」
「ゴブリンか。ちょうどいいところに戻ってきた。悪いが、公園の周辺に公衆電話がないか探してきてくれ」
「こ、公衆電話!?」
「見つけたら、すぐに警察と救急車を呼ぶんだ」
「で、でもオレ、小銭持ってないよ!」
「知らんのか。公衆電話ならSOSボタンから無料でかけられる筈だ」
「そ、そうなの? わ、わかったよ! こ、コウちゃん…」
「い、痛い! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い! 痛い! 痛い! 痛いよ! さっちん! 鳴海せんぱい! あ、あ、ああああ!」
「鳴海くん! なんとかならない!?」
「無理だ…。こんなの、想定していない…。人がこんな風に崩壊していくのを、僕は知らない…」
「わ、私、やっぱり…死んじゃうんだあぁ…。あああぁぁああああああ! ぅきゃあぁああああああ!」
「どうすればいい…どうすればいいんだ…。豊橋、何か知恵はないのか!?」
「ない。人智を超えた現象だ」
「うううううぅぅぅぅうううううううあああああああああ!」
「国府チャン…スマホで…何か文字を打ってる…? あああああ! でも、手、手が崩れ落ちちゃったよ!」
「ぎゃあああああああああああ! ああぁぁあああぁぁぁあああああぁ! ご、ごほっ! ごほっ! ごぼぉおお」
「…吐血か喀血か。内臓も既に、同じ状態という事か。おい神宮前、スマホで国府を撮影しろ」
「なんだって!? 何を言ってんスか!!」
「国府はもう助からん。だが死に至るまでの状況を映像に残しておく事ができれば、国府の命は今後、別の命を救う事になるかもしれん」
「…よく、国府チャンのあの悲鳴をきいて…うぅ…あの…あ…あの悲鳴をきいて、あんたはそんな冷静にしていられますよね!」
「撮影しろ。それがお前の精神の安定にも役立つ」
「うぅ…うう…国府チャン、ごめんね…国府チャン、ごめん…ボク、何もできない…動画を撮影するだなんて…」
「…それでいい」
「あたし、もう見てられない! 国府ちゃんをだきしめてくる! ひとりっきりで死なせやしないんだから!」
「待て、桜。…僕が行くよ」
「ぐ…ぐぅうううううううう! み…みんな…ああああ、も、もういいから…わ、私からできるだけ離れてぇええぇええええええ! あ、ああ…髪が…私の髪の毛が…」
「こ、国府ちゃん…。国府ちゃん…うう…ぐすっ! ぐすっ! かわいそうに…国府ちゃあぁああぁあん…」
「うぎゃあああああああ! ああああああああぁああああああん! うわああぁああぁああああああん! パパああぁああぁああ! ママああああぁああああああああ!」
「国府ちゃああぁああああああああん!」
ボンッ!
「うわあ! 爆発した!! 国府チャンが破裂しちゃったよ!」
ビチャッ! ビチャビチャッ!
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