春雷

七草世理

第一話 春雷

 それは突然の事だった。

 ある春の昼下がり、一瞬の閃光の後、大気を震わす程の轟音が鳴り響いた。山道を歩いていた僕が、これは雷によって引き起こされたものだということを理解するのにはさほど時間はかからなかった。どうやら、ひとつ谷を越えた先の山の中腹に落ちたようである。しばらくすると、周囲の木々が燃え始めているのが見えた。ひとまず今は、自分のところに降ってこなかった幸運に感謝するしかない。火の粉がこっちに飛んでこないうちにその場を離れようとしたその時、僕は奇妙な事に気がついた。空には雲一つ無いのだ。また、雷が落ちた所に目を向けると、誰かが倒れているようだった。先程までは居なかったはずだ。些か不思議な感じがしたが、何はともあれ、目の前で人に死なれるのは良い気分ではない。


 僕は谷の向こうに走り出した。

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