第33話:あちらの常識、こちらの常識




 俺の常識が通用しないと実感した。

 悪い意味で。

 隣の空き地を買おうとしたら、相場の10倍位の値段を吹っ掛けられた。

 単なる空き地だよ?建物も無いどころか、整地もされてないんだよ?


 屋敷が隣にあるから、絶対に必要なんでしょ?って足元を見たようだ。

 でも残念。

 こっちの方が木を切ったりしなくて楽だな~ってだけで、反対側の土地でも問題無いんだな!


 不動産屋で話を聞いた俺達は「前向きに検討します」と言って店を出た。

「まさか買うのか?」

 アザトースに聞かれる。

「いや、反対側の土地を買うけど?」

 だって俺、断ったじゃん。

「え?だって前向きに検討しますって言ってたよな?ヨッシー」

 あれぇ?



「俺の世界では、遠回しの断り文句なんだよ」

「はあぁ!?面倒くせぇな!」

 うん。まぁね。


 本当に前向きに検討するなら、「○○までにご連絡いたします」とか、次の約束をするからね。

 因みに「こちらからまた連絡します」は駄目な方だ!

 期日の無いものは、検討はするけどそれだけだよって意味だから。

 いや、俺のいた業界だけかもしれないけどさ。

 国会は100%次が無かった。



「それで、隣の森も買えるんだよな?」

 アザトースに確認する。

鬱蒼うっそうとし過ぎて買い手が無いって言ってたし、大丈夫じゃん?ほら、あそこの不動産屋」

 さっきの不動産屋より、小ぢんまりとした雰囲気だ。

 俺としては、こちらの方が好感が持てる。


 カロンカロンという、ドアベルの音もポイント高い。

「いらっしゃい」

 おぉ~!ちょっと優しそうなお爺さんだ。


「郊外の屋敷の隣の森を買いたいんだけど」

 お爺さんの眉がピクリとする。

「どうするんじゃね?」

「ある程度は切り拓いて、従業員の寮を建てるつもりだ。憩いの場として、森も残したいとは思ってるが」

 どこからどこまでの範囲を売ってくれるかによるけどな。


「ふむ……」

 お爺さんは後ろの棚の引き出しから、ガサゴソと地図を出してきた。

 カウンターの上にバサリと広げる。

「ここからここまでが、一応うちの持ち分じゃ。どれ位欲しい?」 

 俺の屋敷の横だけではなく、後ろの森も範囲だった。

 それどころか、最初に予定していた空き地の後ろの森も範囲に入ってる。


 うちの屋敷の敷地の3倍ありそうだ。

 言っておくが、うちの屋敷の敷地もかなり広いからな!

 あの巨体のシロとラッキーが走り回れる程だ。


「うわぁ、あの辺の森の殆どが入ってるのか!」

 正直、全部欲しい。

 森をちゃんと手入れして、従魔達が遊ぶのに良いよな。

 何なら、森に住んでも良い。

 鳥とかピンクスパイダーとか、森のが良くないか?



「どうですか?アザトース

 隣のアザトースに聞く。

 ここを買う金は、あの商人から分捕ぶんどった慰謝料だ。

 隣国の店と使用人は権利放棄したけど、純粋なお金は貰ったのだ。

 しかしその金額を俺は知らない。


「全部買うから7割でどうだ?」

「そりゃさすかに無理じゃ。せめて9じゃな」

「おいおい、あんな辺鄙な所の手入れもされてない森だろ?7.5」

「広さを考えい!単価は安くても総額はデカイわい!8.5!」

「えぇ~。うちはこっち側の空き地でも全然構わないんだよなぁ」

「くうぅ……8割じゃ!それ以上は無理じゃわい!それと、なるべく自然を残してくれ」


 おぉぉ!凄いな。

 俺だったら、言われた金額をそのまま払ってたよ。

 で、肝心の金額は謎のままだ。

 アザトースが払えない金額で交渉はしないだろうから、信用はしているけどさ。

 でも、教えて欲しいなぁ。



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