固有スキル【裏切り者】のせいでまともに攻略できないのでプレイヤーキルに特化する

茶器

第1話 スキル【裏切り者】

 俺は前作もやりこんだ、大人気ゲーム「デビルバスターオンライン2」を購入した。


 早速とばかりにアカウント作成画面に移ると、何やら「期間限定新規プレイヤー歓迎・固有スキルプレゼントキャンペーン」というバナーが出ていた。


 前作からの引継ぎも可能なのだが、固有スキルプレゼントというのも気になる。


 どうせ前作で鍛えたプレイングがあればすぐに装備やランクは上がるだろうし、ここは心機一転してアカウント新規作成するのもありだろう。



「初回のアカウント作成時に限り有効、ねえ」



 最強スキルが手に入るとかだったらいいな、という軽い気持ちで俺はキャラメイクに取り掛かる。ゲームキャラは、性別も容姿も自由自在だ。


 俺は性別を男にして、見た目とボイスを坊主で隻眼のゴツイおっさんに設定する。俺は昔からこういう歴戦の戦士的なキャラクターでプレイするのが大好きなんだ。



「さてと……ログイン!」





 一瞬眼前が暗くなったかと思うと、次の瞬間には俺はゲームの世界に入り込んでいた。初期地点であるオフラインの自室だ。


 視界画面に表示された様々なチュートリアルをさっさとスキップして、俺はスキル受け取り画面まで進む。



「それではアカウント新規作成特典として、抽選で固有スキルをプレゼント致します」


 無機質なシステムボイスとともに、自室の中央に光の玉が浮かび上がった。俺がそれに触れると、視界画面に受け取ったスキルが表示された。



「【裏切者】スキル……? なんだこれ、どんな効果なんだろう」



 俺は視界に表示されたスキル名に軽く触れる。こうすれば、お決まりのシステムボイスがスキル効果を読み上げてくれるのだ。



「スキル【裏切者】、このスキルは他人がステータス閲覧を行っても表示されない。このスキルを外すことはできない。このスキルを持つ者はクエストをクリアしても失敗扱いになり報酬も貰えずランク経験値も減少するが、クエストに失敗すると成功扱いになり報酬とランク経験値が貰える。また、自分以外のプレイヤーのHPが0になるたびに貰える報酬にボーナスがつく。スキル熟練度を上げることで、さらに効果追加の可能性があります」



 は?



 意味が分からず、思わず数回再生してしまった。


「こんなスキルついてちゃまともにプレイできなくないか? さすがにクソゲー――」



 言いかけて、俺は考え直す。


 思えば前作もやりこみすぎて、もはや終盤はただのランク上げ作業に陥っていた。


 そんな俺が新作とはいえ普通にプレイしても、どうせ新しい敵を倒して装備を整えたらすぐに飽きるだろう。


 しかし、このスキルがあれば楽しみ方がガラリと変わる。



 これはれっきとした、運営推奨のPKプレイヤーキル専用スキルだ。なんだ運営、こんな粋なシステムを新設するとはやるじゃないか。


 問題はこのゲームの目的はあくまで敵の悪魔たちを狩るゲームなのに、もはやそういった要素を楽しむことはできないわけだが、まあPKに飽きたら新しくアカウント作り直せばいいだけだしな。



「よし、そうと決まればさっそくオンのクエストに潜るか」






 おお、発売からまだそんなに日が経ってないからか、集会場は結構賑わっている。俺は低ランクが集まる初心者部屋に移動した。



「お、あなたも初心者ですか。僕も初心者なんです、よろしくお願いします」


 部屋主が俺に話しかけてきた。


 よくあるデフォルト容姿デフォルトボイスの男キャラだ。武器は弓使いか。


 ちなみに俺は猟銃を装備しているが、プレイヤーの武器で直接他プレイヤーにダメージを与えることはできないのであまり関係ない。



「皆さんもとりあえず、まず装備を揃えたいですよね。序盤おススメ武器と防具を作れるらしいフレイムボスゴブリン行きませんか」



 部屋主の言葉に、俺と他プレイヤー二人もうなずく。クエストは最大四人まで同行できる。部屋の上限メンバーも四人だ。


「それでは、出発しましょう!」




 画面が移り変わり、戦闘地である火山に飛ばされた。序盤のクエストは敵非出現地帯から始まるので、俺たちは続々と敵を探しに走り始めた。



 さて、どうするかな。


 一応俺は真の武器となる爆弾を調合分まで持ち込み、さらに敵の攻撃と素早さを上げてスタミナ消費を促す特殊な弾も持ちこんでいる。


 爆弾は食らったら俺も即死なので、フレイムボスゴブリンをパワーアップさせて間接的に他プレイヤーをキルすることにしよう。



 そうこうしているうちに、部屋主がゴブリンを見つけたようだ。俺は視界のエリアマップを頼りにそちらの方へ向かった。



「全員遠距離武器か、これはちょっと厄介か? いや、だったら爆弾をメインにすればいいか」



 部屋主と一人の女プレイヤーが弓で、俺ともう一人の女プレイヤーが猟銃。


 全員初心者なので装備は紙。爆弾を一発充てれば十分倒しきれる。


 ちなみに、このゲームは三回プレイヤーのHPが0になるとクエスト失敗になる。俺以外全員が死ねばそれで終わりだ。二人殺して自殺もありだな。



「皆、フレイムボスゴブリンは近くによらなければほとんど安全だ! たまに凄いダメージの火の玉を投げてくるが、モーションは大きいから動きをよく見て避けてくれ!」



 部屋主がいっちょまえの指示を出してやがる。ククク、これから味方に攻撃されるとも知らずにのんきな男だ……。



「離れてれば安全なら、この挑発弾でスタミナ切れ狙うぜ」



 俺は返事も待たずに例の弾をゴブリンにぶち込む。ゴブリンは怒りで体が真っ赤に染まり、物凄いスピードで攻撃を仕掛けてくるようになった。



「敵の素早さが上がったじゃないですか! ちょっとは考えて使ってくださいよ!」



 ははは、すまんすまん。にしても、皆そこそこ回避が上手で、ちっともゴブリンの攻撃が当たってないな。これじゃダメだ。



「散弾連射するぜええええええええええ」



 俺は散弾を装填して思い切り引き金を引きまくる。もちろん、意図的にゴブリンと俺の間に他プレイヤーを挟むような位置取りをして、だ。



「きゃ、なに!? 動けない!」


「ちょっと、私たちにあたってるわよ!」



 女プレイヤー二人は俺の散弾を食らい続け怯みモーションを繰り返している。俺が攻撃をやめない限り彼女たちはその場から動けない。


 そうこうしているうちに、二人はゴブリンの火の玉を食らってHPが0になった。



「【アスカ】が戦闘不能になりました」


「【ALICE】が戦闘不能になりました」



 おっし、あとはあの部屋主を倒せばゲームクリアだ!



「おいおい何をやってるんですか! あと一回死んだら終わりじゃないですか! しっかりしてくださいよ!」


「すまん、この散弾安かったから大量に買っておいたんだ。あと、彼女達は避けるの上手いから、後ろに立ってれば回避の動きを真似しやすいかなって思ってさ」



 もちろん全部でたらめだ。散弾より安い弾なんていくらでもあった。



「よし、仕方ない。俺が罠で敵を拘束するから、弓の必殺技の固定射ちで決めちゃってくれ」


「あ、本当ですか? じゃあ頼みます」



 俺は短時間拘束トラバサミを仕掛けて、ゴブリンをおびき寄せた。ゴブリンはまんまとひっかかり、その場でトラバサミを外そうともがいている。



「一気に行きます!」



 部屋主がその場で矢を連射し始めた。隙はデカいがダメージ効率が高い技で、こうやって敵を拘束したときに使える。



「よっこいしょ」



 俺は部屋主の後ろに大型爆弾を設置した。彼は攻撃に夢中で気が付いていない。俺は十分距離を取って散弾を装填し、爆弾に照準を定めた。



「ん? あなたも攻撃しないんですか?」


「おう、今からするぜ」


 俺はそう返事をして引き金を引いた。瞬間、爆弾が轟音をたてながら激しく爆発した。



「【アーサー】が戦闘不能になりました。三人目のプレイヤーのダウンを確認しました。クエストに失敗しました。集会場へと帰還します」


「やったぜ。ミッションクリア」


 俺は本来クエストがクリアした場合に貰えるはずの報酬とランク経験値を、失敗したはずなのに手に入れてしまった。

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