リスナー②

『助けてくれ!  車が踏み切りにハマってるんだ!』

 11過ぎに、孝から電話がかかってきた。今日のデートをすっぽかされていた私は何度も出なかったが、さすがに四回目で溜め息を付きつつ着信ボタンを押した。

「孝? 今頃電話してきても……」


 それでさっきの台詞になった訳なんだけど。孝の必死の声に、私にも事の重大さが分かり孝に聞いた。


「孝、今何処にいるの?!」


『家の側にある踏み切りだ! ああ、ラジオから、また声が……助けて、今日子! 時間がない……』

 私は車の鍵を掴み、急いで乗り込むと孝の家の近くにある踏み切りに急いだ。


 急いで行けば間に合うはず。孝と私の家は三キロぐらいだから。不意に、孝がさっきラジオから声がしたと言ったのを思い出し、ラジオのスイッチを入れてみる。


『ザザザ……ザ…て云うじゃないですか。今夜のロックフェスではどんな演奏だったのか……』

「別におかしくないじゃない」

 孝め、私に謝るために芝居してたのかしら? でも、あの必死な声はとても嘘には聞こえなかった。


 じきに踏み切りが見えてきた。孝! 孝の車が確かに踏み切りの真ん中にあった。


「孝、一体どうしたの?! 何で車から降りて押さないの?」

 孝の車まで走って行き窓硝子を叩くと、孝が顔をあげた。泣きながら何かを言ってるが、窓が閉まってるために聞き取れない。


「窓を開けて! 早くしないと」


 思い出した、確か車の中に硝子を破るための道具があったはず。慌てて車に戻り探す。


「あった、孝今行くからね!」


 急いで戻って、硝子を破るジェスチャーをしたら孝は隣の助手席へと移動した。

 バリンと音がして呆気なく硝子が割れ、孝が窓から出てきた。


「今日子ありがとう! ありがと……」

 泣き崩れた孝の背中を擦り、私も一緒に泣いていた。


 何とか孝の車を踏み切りから出し私の車に乗って孝の家に向かう。隣で孝はガタガタ震えていた。

 家が近付くにつれ孝は異常なほど恐怖に歪んだ顔になっていた。

「孝、どうしちゃったの? しっかりしてよ!」


「今日子には聞こえないのか? あと、二分て言ってるのが……」

 ブルブル震える指先で差したのはカーラジオだった。

 その時車に何かの影がよぎり、思わず避けた目の前には電柱が。

 目の前が赤く染まっていき、意識が薄らいでいくなか、確かにラジオから声が聞こえた……


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