怖②

『ほらふき佐吉の、嫁こはな、≪もののけ≫人ではござらんよ』


 何処からともなくそんな噂が流れ童子たちは、童唄を唄い出す。

やがて佐吉の耳にも、聞こえる様になった、ある頃。


「村の皆は、やっかんで居るんだべ、おめえがあんまり別嬪だがらな」

 すっかり、嫁に惚れぬいた佐吉は、さして気に留めては居なかった。


「おまいさん。ほんに、わたしが≪もののけ≫だったら、どないしなさる?」

 白く美しい面で、にこりと笑う嫁さに佐吉は見惚れて言った。

「おら、おらは≪もののけ≫だっで構わね、おめえが好ぎだ」





 そう言った佐吉の目の前で愛しい嫁ごは姿を変えた……


「お・ま・い・さんは、うまそうだねぇ……」

 嫁ごの美しい面はみるみるうちに崩れ、余にも恐ろしげな老婆の顔に。


「たっ、助けでぐれ!!」


 腰を抜かした、佐吉に嫁ご…否、老婆がお勝手から包丁を持ってじりじりと近付く……


 佐吉は気力を振り絞り、やっとこ腰を上げ逃げ出した!



『まて、 食ってやる!!』


 後ろを振り返りながら、死に物狂で走る佐吉。






 何処まで、逃げただろう……

 後ろを振り返った佐吉は、老婆が追い掛けて来ないのを見て走る足をとめた。



「ここは……何処だべか」


 見たことが無い場所にいた佐吉は、ちょいと先に歩いて居る、お侍らしき人に声を掛けた。


「あんの、お侍さん。おら、道に迷ったのですけんの……おねげえです、ここが何処だが、教えて下さらんじゃないだろうか……」


 振り返った、お侍さんはこう言った……





『丁度良い……人斬りはやめられない・・・』






「た……助けで!!……――」






『ほらふき佐吉は、ほらふいて、ついたほらに殺された――』




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