夕刻に彼女は

@makimaki710

魔の坂道

気持ちのいい風が吹く。まるで僕の体を包み込んでくれるような風。この心地の良さにずっと身を委ねていたいと思ってしまうほどに。この坂道は昔からとても気に入っている場所の一つで、ここを自転車で駆け下りるときに包まれる感覚が昔から好きだった。

ただこの坂道があるのは自宅とは逆方向にあったため用事があるとき以外はあまり通らなくなっていたのだが、今日はこの坂に来なければならない理由が出てしまった。なぜならこの坂にまつわる怪しい噂を耳にしてしまったからだ。


 この坂は住宅街とこの地域の人間がおおよそ全員買い物に出かけるスーパーマーケットの中間にあり主要場所以外開発が進んでいない町なのもあって坂の周りは見渡す限りの田畑であるのだが最近ある時間にこの坂道を通るときにあるものが目の端に移ってしまうらしい。そしてそのあるものを見ようとすると決まって田畑に落ちたり自転車が転倒したりというようなことが起こるらしい。


幸いこの坂道は歩行者や自転車しか通れないような道なので車での事故はなく、坂道自体も緩やかなので田畑に落ちるといってもそんなに怪我をすることはないのだが、そうだとしても落ちたり転倒したりするのは普通に痛いだろう。


そんなこともあってか最近は不気味がってめっきりここを利用する人がいなくなってしまったらしい。さらに僕の通う高校は家から離れている人は、ほぼ全員自転車通学だったので通る人が少なくなってしまったのだ。最近通っていなかった僕がいうのも烏滸がましいけれどそれでもここはお気に入りの場所なのだ。別に独り占めしたいわけでもないしこんなにいいところなのだからみんなに愛されてほしい。ならば僕が守ろうと勝手に坂道親衛隊を作り上げたのだ。


そうこう考えているうちに噂の時間が来た。


(確かこの時間に坂を下ればいいんだったよな。)


と自分自身の記憶を訪ねながら坂道を下った。


(やっぱりここの風は気持ちいいな。)


そう考え自身を包む風に身を委ねていると、視界の端にこの風景には似つかわしくない異質なものが目に入った。

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