大賢者と攻略対象


「いや俺の名はアルフォードだが……そう言えば法王国語ではアルフォードはアルフォになるな。アクロアは、王国の言葉ではハルクブルクを差すな。そういや俺の父親の家名はヴォル・ハルクブルクと聞いたことがあるな。法王国語だとダクロアになるか。そうするとそのアルフォ=ダクロアと言うのがその法王国出身の留学生とやらか?」


 言語が変われば名前が変わるのは普通なのだが、スペイン王カルロスがドイツだとカールで、フランスだとシャルルになるのってなんだよっていう世界史あるあるの一つだ。面白いところではアレクサンドルをアラブ人がアリスカンダルと呼んで読いたら、ペルシア人が最初のアルを冠詞と勘違いしてアルを取ってイスカンダルと呼ぶようになったと言う話。そのためアレクサンドルはペルシャではイスカンダルに変わる。この世界でもこの法則は適応されるので俺の名前も法王国と王国で名前が変わるのだ。大方、魔法学園に入るタイミングで父親が法王国に召還されたので、この土地で育ち、父親と確執があると言う設定にされている俺の分身は留学生と言う明文で王立魔法学園に放り込まれたのだろうと推測した。ちなみに貴族の称号も国によって変わる。フランスではド、ドイツではフォン、イギリスではオブだ。なんかイギリスだけダサい気がする。ちなみに、どれも「の」と言う意味だ。


「そう、よく分かるわね。ホントにゲームやっていないの?それで、なぜ王立魔法学園には行かなっかたの?」


「魔法学園に入る年齢には、大賢者に担ぎあげられて王城勤務してたぞ。初めから学園に行く気なんぞなかったから、お断りさせていただいた。所詮、あそこは士官学校だからな。攻撃魔法の使えない俺には荷が重いぞ」


 本当の理由は学校生活だけは二度とやりたくないからだ。魔法省に勤務するときに魔法学園卒業の資格を同時に貰っている。卒業していれば学園に行く必要もないからな。しかもあの学園の本質は士官学校で、戦争になれば一番に借り出される連中を放り込んでおく場所だ。こちらからお断り願いたい。


「ふむ、学園に居ないのも関係するイベントも全く発生しなかったのもそういうわけね……もしかしてゲームの強制力って弱いのかしら……でも……あのゲームのアルフォは賢者候補だけど大賢者ではなかったはず……」


 どうもアルフォ=ダクロアと言うのは乙女ゲームの攻略キャラの一人らしい。学園に関わらないで良かったと心底思った。あのときの俺の判断は正解だった訳だ。戦闘狂だけではなく恋愛脳の魑魅魍魎が巣くっている学園なんぞお断りだ。賢者候補なのは恐らくゲームの世界では父親から錬金術を学ばなかったからだろう。10歳までに錬金術をマスターしていたから、俺にとっては本職が錬金術で、元素魔法と神聖魔法の方がサブになるのだが。


「お前も転生者なら転生者がどうするかぐらい予測つくだろう」


 遠回しに言うことにした。


「運命の回避、スローライフ、俺つえーのどれかになるよねぇ」


「ま、そう言うことだな。元の世界に変える方法を探すとかスキル極め系言うのもあるけどな」


「あなたは、そっちの口なの?」


「その辺は内緒だ」


「でもアルフォって学校に入ってから才能が発掘されるはずなのよね。確かに10歳のときに賢者適正が分かって賢者候補にはなっているけど魔法の才能は凡庸のはず……その知識をどこで手に入れたのかしら……例えば小さな頃から魔法を枯渇するまで使ってたとか?」


「いやそれは逆効果だ。強制的に飢餓状態を作り出して無理矢理食べ物を詰め込んでいるようなものだ。確かに魔臓器は肥大するだろけど自らフォアグラ作っているみたいなものだ。早死にするわ」


 これは、間違った知識で自滅した転生者がいそうな感じだ。成長期に体内のマナが不足すると魔臓器が無理にマナを通り混もうとして肥大化する。必要以上に肥大化すると魔臓器肥大症と言う病気になる。魔臓器が肥大すると過剰なマナを吸収するのだが、排出が上手くいかないためマナ中毒を起こす。そのため魔法使いとしての運命はその時点で断たれる。そして下手すると死に至る病気だ。対処療法としてマナの無い土地で療養する方法がある。そして食べ物や薬で体内の魔力を最低減の状態にコントロールする。過剰なマナが無ければマナ中毒になら無いからだ。


「もしかしてフォアグラって食べ物?美味しいのそれ?」


 一応、世界三大珍味の一つなのだが。どうやらこの聖女様は前世でも育ちは良くなかったらしい。


「旨いか旨くないは人それぞれだと思うぞ。結局のところ脂ぎった肝臓だ」


「しかし、このお茶美味しいわね。どうやって淹れているの?」


 リディアは、その回答に被せるように言ってくる。最後まで人の話を聞きなさい。


「ん、茶を入れるのに必要なのは茶葉と水と温度の管理だけだぞ。一番重要なのは茶葉にあった水を用意することだな。そもそも茶葉は全て東方のシン帝国から輸入しているからシンの水に会うように調整されているわけで、それに近い水を用意するのが手っ取り早いな。それでも茶葉の劣化はさけられないからやや苦味が出るのを避けるのに硬めの水に調整しているけどな。変わりに若干味がぼやける」


「硬水とか軟水とか言う奴?」


「そう、硬水を使うと苦味が出にくくなるかわり味がぼやける。その部分をミルクで補う必要がある。まぁ輸入されてくる茶葉は、基本ミルクティ向きで、ストレート向きの茶葉は少ないけどな。ストレートにするは高級茶葉を直輸入する必要があるだろうし、それらは輸出に回さないだろう。複数の茶葉をブレンドするのもよいな。舌に自信があるブレンダーが居るならブレンドするのが一番良い。とにかくシンとここでは水が違うので高級な茶葉より安い茶葉の方が旨いぞ。水の違いが大きいからな」


 早口でまくし立てるアルフォードに対して、リディアは一言。


「ふーん」


 細かい話に興味無さそうな悪役令嬢だった。

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