第三章

大賢者と悪役令嬢

 ある日、西門を叩く音が聞こえたとエリザが言いはなつとそのまま跳んでいった。


 それをみたアルフォードは、この城の防御機構には意味があるのだろうかとアルフォードは哲学めいた命題について考えていた。一方エリザはあっという間に西門に辿り着くと応対を始めた。


「誰でしょうか?」


「悪役令嬢のリディアと申します。セバス商会の紹介でこの屋敷の御主人に面会に参りました」


「少々お待ちください」


 エリザは、その気になれば敬語が使える子である。そのまま自称悪役令嬢を待たせるとアルフォードの指示を受けるために城に戻る。


「御主人、悪役令嬢のリディアと名乗るものが来ておりますがどうしましょう」


 その言葉を受けてアルフォードは応対することにした。実は、家令を通じてリディアが来ることを知っていたのだ。何でも商談がしたいらしい。こんな危険な辺境まで来るとはかなりの変わりものだろう。どういうヤツなのか気になりアルフォードっは野次馬気分で応対することを決めたのだった。それ以前に家令が紹介していることが大きかった。アルフォードは家令の人物鑑定眼を無条件で信用しているのだった。


 場所はベイリーにある四阿あずまやで十分だろう。洒落た言い方をするとカフェテラスになるのだろうか、雨がしのげて茶を飲める程度の吹き抜けの空間だ。そこで応対することにした。何しろ屋敷の中は他所様に見せられる状態にないもの。初め伯爵一派の手のものかと思ったが情報網によれば全く関係ないようで、そもそも国外追放中らしい。しかし、わざわざ悪役・・令嬢と名乗るところを鑑みるといわゆる転生者の可能性が非常に高いだりう。悪役とは悪を演じていると言うことだ。悪そのものではない。そう言う言い回しは前の世界のゲームや書籍の中でしか出てこない言い回しにすぎないし、自ら名乗っていたら奇妙な自称にすぎない。


四阿あずまやの方に案内しないさい」


「御主人、分かりました」


 そういうとエリザは館から跳躍して出て行き丘を駆け下りていった。


「これ、そういう建物だったか?」


 アルフォードは違和感を感じながらお湯を沸かすことにした。水車小屋の簡易浄水層からやかんに水を入れると発熱魔法を唱えて、やかんを沸騰させる。この水は、ある程度時間をかけて沸かす必要がある。そのため水の中にファイアーボールを打ち込むなどと言う野暮なことはしない。いや、そもそもアルフォードはファイアーボールが使えない。代わりに加熱魔法をつかうのだ。なぜならこれは茶に使う水だからで突沸させたら水のバランスがおかしくなり不味い茶ができあがるのだ。一般的にな茶葉沸騰から一分後95℃ぐらいになる水が最適になるように調整してある。それ以上それ以下でも行けない。ファイアーボールでは完全にオーバーキルである。あの方法だと、10分以上沸騰し続ける。そうすると水の中に含まれる空気が全てすっとんでしまう。これでも茶にはうるさいアルフォードである。ついでに言えばクリエートウォーターなど論外である。クリエートウォーターで出来るのは混じりっけの無い水だ。そんな水で沸かした茶など不味いに決まっている。文句があるなら試しに純水で茶を入れてみろ。水にはミネラル分が適度に混じっていないと行けないのだ。——ところで、アルフォードは誰に話しかけているのだろう。


 アルフォードは、手早く時間を計るとティーポッドをあたため茶葉をいれ、湯を注ぎ入れる。時間を計るのはお手製の魔道具だ。温度が下がらない様に保温魔法で温度をある程度維持する。そして、テーブルの上に茶器とミルクと砂糖を並べた。それから茶菓子としてクッキーを並べる。


「ところで、よくここにたどりつけたな」


「地図と指南盤を頂きましたので、迷わずこれました」


 悪役令嬢は馬車に乗ってきたようで、従者を控えさせているようだ。アルフォードは従者の面倒はカチュアに、馬の世話をエリザに任せることにし、二人を呼んだ。


 悪役令嬢もとい元公爵令嬢リディアとなのる女性は、王都を追放されたので商売で生計を立てたいらしい。そのためシャンプーとリンスや化粧品をつくって売り込もうとしていたがうまく行かなかったと言う話だ。追放前に作り上げたツテを使ってうちの家令から大賢者なら作れるだろうと言う情報を引き出したらしい。


「そもそもシャンプーとコンディショナーがなぜセットになっているか分かるか?」


「シャンプーで傷んだ髪を整えるのがコンディショナーの役割でしょ」


「そこまで分かれば後は早いぞ。ここのシャンプーはアルカリ性だ。そして活性界面材料は髪や頭皮の油分と水分を奪う。そうするとコンディショナーの役割は自動的に決まる。アルカリ化した髪を弱酸性に戻し、髪に油分を補充し、保湿することになる。シャンプーとコンディショナーがついになる理由はこの関係で成り立つわけだ。洗浄力が強ければ、その分油分を補充しなければならないし、シャンプーが中性なら中和しても意味ないから酸性ではなく中性にする必要がある」


「あの、よろしいでしょうか?意味が全く分かりません」


 かなりわかり安くかみ砕いて説明したはずなのだが、何が難しかったのだろう……。なので、近くを歩いていたカチュアに聞いて見た。


「今言った理屈は分かるよな」


「それはもうバッチリ御主人様に仕込まれていますので、つがいになる雄と雌は相性が抜群と言うことですよね」


 ——こいつに聞いたのが間違いだった。それに何か勘違いして居るようで、このロリコン野郎と言う目でこちらを睨んでいる気がする。肉体年齢は1歳ぐらいしか違わないぞ。単純に精神年齢が親子以上に離れているだけだぞ。親が子の面倒みているだけだ。


「いや、仕込んでいると言うのは勉強のことだぞ。この大賢者の従者を名乗ろうとするなら最低でも古代語、共通語、論理学、数学、錬金術ぐらいは覚えて貰わないと困るからな。カチュアは、後で『初めての錬金術』の本を書き取り300回な」


「御主人様、そんなご無体な」


 カチュアが不規則発言したところをエリザが引きずっていく。エリザが珍しく仕事をしているぞ。俺のエリザに対する評価が1点上がった。



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