伯爵と封印

 そのころ、王都ではノギス伯爵が忙しく動いていた。


「まだ屋敷の中に突入できないのか?」


「封印が異常に強くて中に入れません」


「解除キーを渡したはずだろ。それでも駄目なのか?」


「どうやらあの野郎が封印の上から封印をかけたようで、それが解除出来ません」


「ガチャ運だけの無能のくせに余計なことをしやがって、それなら解除要員を送るからさっさと解除してこい」


 ガチャ運と言うのは、10歳の時に行われる魔法使い検定でたまたま賢者適正があっただけと言う意味らしい。王国では、このスラングがいつの間にか定着していた。恐らくどこかの転生者が広めたものだろう。


 そこに居たのは先日屋敷の前で暴れていた魔法使い。今のうちに屋敷に忍び込んでめぼしいものを探しだそうとしているようだった。


「それに目録が一致しなければ横領でも告発可能になるからな」


 伯爵は皮算用をしていた。既に職権乱用などで告訴はしている。後は裁判にかけて断罪するだけである。冤罪だと言う報告書が上がってきたがそれに関しては完全に潰した。それ以外にも工作をおこなっている可能性があるから隅々まで大賢者派をあぶり出す必要がある。伯爵はそう考えた。特に大賢者の直属の部下達は慰労という名目で法王国に隔離してある。ある理由からアルフォードが法王国には行きたがらないのを伯爵は知っており、そのためにこのような策を講じた。部下達に罷免の情報が手に入る頃には手遅れになっている寸法だ。


「そういえば、あの野郎はどこに行ったか知っているか?」


 この伯爵が言っているあの野郎とは大賢者アルフォードのことである。ここ数日姿を見せないので、調査していたのだ。


「いえ、まだ見つかっていません」


「取引先も調査しろ。何なら脅しても構わん。こそこそと工作しやがって。罷免しても忌々しいやつだ」


 実は、伯爵一派は大賢者の交友関係を全く把握してなかった。辺境の水車小屋出身に知り合いなどいないと決めつけていたので、全くマークしていなかったのである。


「ええい、忌々しい。国の憂いを無くすためにその首を刎ねてやりたいと言うのに首が無いとは……それより次の仕掛けは進んで居るか?」


「それで、どちらを魔法省に送り込むのですか?」


「第二王子と宰相の孫か。第二王子は、それなりのポストを用意しないと駄目だろう。最低でも所長クラスを要求してくるだろう。それでは駄目だ。送り込むのは宰相の孫の方だな。上手く取り込んでこい」


 伯爵は、間も無く学園を卒業する第二王子と宰相の孫のどちらを魔法省に取り込むのか相談するのだった。魔法学園は、次世代の戦闘魔法使いを育てる教育機関で、同時に貴族の教育の場である。今年は神の世代と呼ばれており、王族や高位貴族の子息に優秀な者が集中しているのだ。これをどれだけ取り込むかが出世争いに絡んでくる。伯爵の目指すのは魔法省長官ではなく中央の宰相職である。そのためには王族や高位貴族の間に食い込む必要がある。そのための工作の一つだ。


 どちらかを取り込めば支持を集められると伯爵は皮算用していた。丁度その時面会を求めるものがありアルフォードが迷いの森へ向かっていると言う事を告げる。伯爵は大慌てで迷いの森へ追っ手を派遣した。

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