攻撃魔法を使えない転生大賢者

みし

第一章

大賢者と欠陥品

(話が長い。いつ終わるのやら、薬草たちが待っているのだぞ。)


 目の前で役人が自分を罷免する理由を滔々と話している。

 周りを見渡すと国王が唸りながら玉座に座っており、隣で宰相が直立して立っている。微動だせずに立っているのつかれないのかとアルフォードはそんな事を考えていた。左右を見渡せば官僚達が立っており、衛兵が微動だにせず直立していた。

 ここは王宮の謁見場だ。

 

「……であるから、欠陥品の大賢者アルフォードは魔法省の重席にあるにも関わらず、攻撃魔法をまるで使えず、回復魔法も使えない役立たずなのである……」


 それらの魔法を使えないことを知っていて徴用したのはお前らだろうと思ったが、一応空気を読んで黙っていることにした。当時13歳だったアルフォードに用意された選択肢は、二つしかなかった。一つは魔法学園に入ること魔法省に入り国家の犬になることだ。それ以外の選択肢は用意されていなかった。魔法適正があるものが国家に徴用されるのがこの国の国民の義務になっていた。それは魔法を使える者が希少だからだ。


 この世界に存在する主な魔法は元素魔法と神聖魔法で、それに次ぐものとして錬金術と精霊魔法が存在する。元素魔法はゲームやマンガに出てくる一般的な魔法使いで、火、風、水、土の四属性をメインとする一般的な魔法だ。神聖魔法はゲームやマンガでは主に聖職者が使う魔法で、神聖魔法は神の奇跡を呼び起こす魔法とされている。回復魔法や強化魔法バフに代表される魔法体系である。元素魔法との大きな違いは多くの魔法が、人に直接作用すると言う点だろう。しかし、この世界に於いて必ずしも聖職者が神聖魔法を使えるとは限らない。つまり聖職者と神聖魔法使いは別物だ。全ては生まれついた適正により使えるもので、その割合は、100人に1人未満と非常に少ないとされている。両方の魔法を使える適正持ちとなれば更に少なく一万に一人どころか国内に一人居れば良い方だとされている。これは元素魔法と神聖魔法の適正を同時に持つのが難しいからだ。それに加えてアルフォードは錬金術に精通していたので大賢者と呼ばれていた訳だ。この世界における大賢者とは魔法に対する適正を差す称号だ。


 それはともかく当時のアルフォードに与えられた選択肢、つまり魔法学園に入ること魔法省に入り国家の犬を天秤にかけた場合、アルフォードは迷わず魔法省に入ることをえらんだ。アルフォード自体が魔法学園で既に学ぶことが無かったのもあるが、彼には前世の記憶があり、その中でも学校に関しては極めてろくな思い出が無い点が大きい。それに加えて自分より頭の悪い教師や同級に時間を潰されるのは苦痛以外の何物でも無い。


 前世の記憶と言うとおり、アルフォードは地球で生まれ育った記憶を持っている。ただしその記憶はまだら状になっており、はっきりしない部分も多い。特にエピソード記憶に関してはっきりしない。しかし、意味記憶、つまり知識に関しては多くを引き出すことが可能だった。知識が告げるにはアルフォードは転生者と言うものらしいが、単純に前世から転生したものか、神なる存在によって記憶だけを植え付けられたのかはアルフォード自身には結論が出せなかった。

 

「……度重なる非行ゆえ、これ以上魔法省に置いておくべきでは無いと考える。陛下はどう思われるか?」


 校長並みに長くて中身の無い役人の話が終わった。しかも話の中身の大半は言い訳である。言い訳が多いと言うことは後ろめたさが存在する証拠である。社会科学系の本やエッセイに言い訳に言い訳を重ねたためにやたらと話が長くなり、本当に書きたい事がどこにあるか分からなくなるケースがあるがそれと同じだ。あまりに長いせいか国王は思いっきりあくびをしており、宰相の膝は震えていた。年甲斐もなく無理して直立しているからだろう。


「良きにはからえ」


 国王が発した言葉それだけだで、どうでも良いと言う態度を取った。国王はそもそもまつりごとに関心がなかった。

 

「では、魔法省職員としての資格を剥奪することする。貴族待遇も剥奪する」


 宰相が言葉を発する。初めから結論が決まっていいたようで迷わず結論を口にした。要するに茶番だ。魔法省は国家魔道師を管理するための官庁で、研究しているのはより有効な魔法の使い方だ。言い替えると魔法でどれだけ効率良く殺しが出来るか研究しているろくでもない省庁だ。魔法使いの数も少ないこともあり所属した時点で貴族待遇が約束される。その代わり戦場に駆り出される義務がついてくるのだ。ファーランドを挟んで魔王領に接しているこの国は異常に戦争が多い。魔王軍だけではなく近隣国とも年中戦争しているのだ。喜ぶべきなのはまだ総力戦と言う言葉を知らないこと。そのおかげで、戦争は、概ね国境線での紛争レベルで止まっている。長期間戦争するには補給が続かないのだ。


 この件では恐らくノギス伯爵一派が動いたのだろう。魔法省内最大派閥であるノギス伯爵一派は大賢者の存在を快く思っていなかった。ノギス伯爵は、典型的な脳筋で仮に大賢者であろうともまともに攻撃魔法が使えないものなど唾棄に値するモノだと考えており折り合いがつかなかったのだ。彼らが事あるごとに陰口をたたいているのはアルフォードも知っている。アルフォードの最大の後見人である前魔法省長官が隠居し、後ろ盾を失ったのも大きいだろう。それから今年の魔法学園卒業生は黄金の世代と呼ばれて居り、身分も実力も確かな卒業生が揃っていた。火属性の攻撃魔法を得意とする第二王子。宰相の孫で水魔法を得意とする賢者、風魔法を得意とする騎士団長の息子に、土魔法を得意とする公爵家の嫡男、それから聖女様だったか……。恐らく伯爵一派は、後釜に第二王子か宰相の孫の賢者でも据えるつもりなのだろう。実は、そうなるようにアルフォードが仕向けたのだが。


「——それから賢者の杖も置いていく事。国から与えられた屋敷も封印して返却すること」


 宰相が追加して言う。賢者の杖は賢者の能力を最大限引き出すための杖である。ノギスは、杖無しで使える魔法はたかが知れているだろう——と考えているのだろうと大賢者は思った。実際には逆でアルフォードにとっては実際は杖が無い方が魔法を使うには楽だった。賢者の杖の最大の効果は攻撃範囲及び効果拡大だ。そもそも攻撃魔法を苦手とするアルフォードとは非常に相性が悪く無用の長物に過ぎない。


「分かりました」


 拝復したまま礼をすると賢者の杖を兵士に渡して、大賢者は深く一礼すると謁見の間を後にした。


「……ようやく国外追放かぁ。スローライフし放題じゃないか」


 城から出ると大賢者は思わずガッツポーズをしてしまう。顔のにやけが止まらない。そう、この大賢者。実は転生者だった。しかし、罷免するとは言っているが、国外追放するとは誰も言っていないのである。そっそかしい大賢者だった。


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