クラスでお姫様と慕われる美少女が学生アイドルを目指していることを知ってしまったので協力することにしました。
麻倉日向(あさくらひなた)
1-1 『あなたは見てはいけないものを見てしまいました』
──女の子に壁際に追い込まれている姿を見られたとしたら、普通の人はどう思うだろうか。顔の横には逃げられないように押し付けられた手のひらがある。見定めるように大きな瞳がこちらを捉えている。
それに相手はとびきりの美少女だ。美しいという言葉を擬人化したと言われても信じられる。
肌はきめ細やかでシミひとつ見当たらないし、全身には余分な脂肪がひとつもついていない。だからといってけっして痩せっぽちなわけではない。
しいて欠点を挙げろと言われたら起伏慎ましやかなところだろうか。しかしそれも場合によっては加点要素にだってなり得る。
その容姿に合わせて人当たりがよく誰に対しても分け隔てることなく優しいからクラスでは“お姫様”なんて呼ばれているくらいだ。彼女、
……となればやはり羨ましいと思われるのだろうか。見ようによっては口説かれているように映らなくもない。
実態は文字通りに追い詰められているんだけど。
「あなたは見てはいけないものを見てしまいました」
綺麗な声だ。抑揚をつけない平坦な喋り方だから感情を抑えつけているのはわかるけれど、耳にすんなりと入ってくる。
淡々と詰められるほうが怖いとはよく言うけれど、なるほど。確かに単純に怒られる以上の圧迫感があるかもしれない。
「見てはいけないものだって言うなら、人気もなくてほとんど誰も来ない場所と言っても学校の視聴覚室でするのはどうかと思うよ。自宅でやったほうがいいんじゃない?」
「……この状況で軽口を叩くなんて随分と余裕がありますね」
「人によっては嬉しいんじゃないかな」
「なるほど。こういうファンサービスもありというわけですか」
「ファンサービスとしては過剰過ぎるよ。……というか、やっぱりファンサービスの方法とか気になるんだ?」
そりゃあそうだろう。わかっていて言ってみたところはある。
なにせ今こんな状況になっている原因自体が“それ”に繋がることなんだから。
「人気のない視聴覚室でコールアンドレスポンスの練習してたくらいだもん。気にするに決まって──」
ダン、ダンと鈍い音が壁に響く。駄々っ子のように何度も壁を叩いている。私の顔の横を何度もめちゃくちゃな勢いで肩たたきをするように通過していくので動くことができない。動いたらその瞬間、顔面に握った手が叩き込まれて前が見えなくなる。
本人無意識のシンプルな暴力に血の気が引いて青くなる私とは対照的に彼女は顔どころか耳まで真っ赤だ。透き通るような色白の肌だから余計に目立っている。
いや、まあ、うん。気持ちはわかる。勉強中に気持ちよく自室で歌っていたら親が微笑ましそうに見守っていたとき同じようになったことがある。
ただ、できれば周りを見ていただきたい。危ないから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます