ブサイクな恋
弥生るっか
「私」のひとりごと
はっきり言って、私は不細工だ。
どう不細工かなんて、具体的に考えたくもない。
自分の姿を鏡に映して、しげしげと眺めるのもイヤだ。
それでも自覚してしまう、自分の不細工なあれこれ。
笑ってみても、気持ち悪い。
ドスドスと歩く足は、品がない。
女の子らしく、きれいに振る舞えない。
みんな、どこでかわいい仕草とか学んでくるんだろう。
でもどんなに女の子らしく振る舞ったところで、見た目がこれでは、滑稽なだけだ。
だから、こんな私が……
幼馴染の、かっこいいあなたに恋をしていると気づいたときは、絶望した。
小さいころから一緒に遊んでいて、
年を重ねるごとに、どんどんかっこよく、男らしくなっていくあなた。
しかもさわやかで優しいとか、ズルいにもほどがある。
全然釣り合わないよ。
典型的な、かなうはずのない、初恋。
それでも、恋する気持ちはついつい想像の羽を広げてしまう。
あなたと見つめ合う。肩を抱き寄せ、ほほんでくれる優しい瞳。
抱きしめ合って、そして……
無理。
あなたはキラキラと光が舞いそうなイケメンなのに、
私の姿がただただ邪魔。
私が相手というだけで、光は枯れ葉に変わり、粉々になってガサガサと地を這う。
ぜんぜん絵にならない。許されないレベル。
むしろ、はたで見ているのが私でも目をそらしたくなるだろう。
なんで、あなただったのかな。
あなたじゃなくて、いつもあなたと一緒にいるフツメンでガサツなあいつとかだったら、まだ救いもあっただろうに。
……ああ、私って最低だ。
見た目が悪いことを気にしてるくせに、
結局はイケメンを好きになって、別の人の見た目をこき下ろす。
不細工なくせに、自分は面食いですか?
そりゃあ、あなたと釣り合う恋なんてできるわけがない。
性格まで、不細工になりたくないのに……
そんな私をギュッと抱きしめて、あなたは言った。
「人に見せるためにこうしてるわけじゃねえよ」って……
信じられなかった。
こんな、どこもかしこも不細工な私を、あなたが好きになってくれるなんて。
願望はあったけど、実現するとは思ってもみなかった。
「自分のことを、不細工なんて言うな」って、あなたは怒った。
嬉しかった。
その日から、世界が輝きだした。
初恋が……不格好でも、その花を咲かせたのだ。
手をつないでくれた。
デートもした。
幼馴染の気安さから、お互いの家にも遊びに行って。
そっと、キスをした。
慌てた私のせいで、最初のキスは鼻と鼻だった。
記念日じゃなくても、思いつくと、ささやかなプレゼントをくれた。
たくさん抱きしめてくれた。
釣り合わないってわかっていても、嬉しくて、息が切れそうな毎日だった。
そして今日は、結婚式。
あなたと、とってもかわいい、私の知らない誰かとの。
結局、初恋は、花を咲かせただけで、実ることはなかった。
それもそうだろう。
思えば私は。
いつもいつも、謝ってばかりいた。
こんな格好でごめんね。いい場所も知らなくてごめんね。不器用でごめんね……
そして、いつもいつも、ありがとうって言ってた。
好きになってくれてありがとう。デートしてくれてありがとう。
あなたのおかげで、私は少しだけでも輝いていられる、ありがとう……
「礼を言われるようなことなんてしてないよ」
いつもそう言っていた、あの頃のあなたの気持ち、今ならわかる。
とても、負担をかけていただろう。
まるで施しを受けているかのようなお礼なんて、言われたくなかっただろう。
あなたがいるから生きていられる、みたいな、そんなことばかり言っている私の重さは、あなたの心を少しずつ蝕(むしば)んでいただろう。
初恋は実らない、なんてよく言われるけど。
私の初恋が実らなかったのは、私が不細工だったからじゃない。
私の恋が、不細工だったからだ。
ああ、あんなに「自分のことを不細工なんて言うな」って言われてたのに。また言っちゃったね。
これは私の過去の恋のこと。だから許してね。
今の恋は、違うよ。
今、私が恋をしているあの人は、イケメンでもないし、そんなに優しくもない。
会社の同僚に「ゴリラ」なんて呼ばれたりもしてる。
そう呼ばれるたびにあの人は、まんざらでもなさそうに笑ってる。
それを見て、私も笑ってる。
あたたかくて、楽しくて、つい、ほほんでしまうのだ。
そんな私たちを見て「ある意味お似合い」なんて、陰口みたいに言う人がいるのも知っている。
けれど、私の大好きな友達である、あの子は言った。
「本当にお似合いだよ。だって、一緒にいると二人いつも楽しそうじゃん」って。
幸せです。
今の私がいるのは、あなたのおかげ。
あなただけじゃなくて、こうして大人になるまでに、色んな場所で、色んな人に出会って、色んな道を通りながら、私はたくさんのことを教えられてきたと思う。
それでも、あなたとのあの日々が大きな傷となって。その先で出会った幸せのかけらを、少しずつそこに詰め込んでくれた。
何年もかけて、大きな傷は、大きな幸せへと変わった。
だからもう一度だけ言うね。
ありがとう。
あなたは、これから新しい家庭を築いていく。
私は、私の道を、あの人と一緒に歩いていくね。
今日という良き日。私がまた、歩き始める前に。今日の主役であるあなたのために、お祈りするよ。
あなたがずっと、幸せでありますように。
ブサイクな恋 弥生るっか @rukka
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