第36話 舞華の死

舞華が救急車で運ばれた○○大学病院に恋が最初に到着した。

ロビーに入ると、舞華の父が待っていた。

「恋ちゃん!」

「おじさん!まい姉は!」

「今集中治療室にいる。意識は…まだ…」

「う…うぅ…まい姉…」

「恋ちゃん…」

「おじさんは…まい姉のそばに…わたしはまぁ兄たちを待ちます」

「ありがとう…雅志くんが来たらすぐ来てね」

「はい…」

舞華の父は舞華がいる集中治療室へ向かった。

恋はロビーから出て、外でまぁやんたちを待った。

……数分後、まぁやんが到着した。

「恋!舞華は!?舞華は!?」

「まぁ兄!こっち!」

恋とまぁやんは走って病室へ向かった。

「はぁ…はぁ…はぁ…」

病室に着くと、舞華はベッドの上で、たくさんの機械が取り付けられていて、チューブだらけであった。

「ま…まい…か…」

ヨロヨロとよろけながら、まぁやんは舞華のベッドへ向かった。

舞華の手を握り、自分の頬にあてた。

「舞華…うそだろ?今朝あんなに元気だったじゃないか!どうして…なんで…」

「心筋症による急性心筋梗塞だそうだ…」

「お…お義父さん…」

「雅志くん…ちょっと…いいかな?」

「はい…」

舞華の父とまぁやんは病室を出た。

「恋…舞華を診ててくれ…」

「う…うん」

病室を出て、舞華の父はまぁやんに対し、深々と頭を下げた。

「お義父さん…なんの真似ですか?」

「雅志くん…舞華を…娘を…今まで愛してくれて…ありがとう…娘は…ほんと幸せだったと思う…」

「やめてください!俺は…舞華を好きになったから…結婚したんです。礼を言うなら俺の方です」

舞華の父は、椅子に座って

「あいつ、小さな頃から体が弱くてね…でも、私たち夫婦はあいつが可愛くて、可愛くて…幸せにしてやりたいと思った。あいつの母親が早くに亡くなっちゃって、淋しい思いもたくさんさせちゃったけど…あいつは…文句ひとつ言わずに…私と一緒に暮らしてくれた。だから…あいつの病気が移植でないと治らないってわかった時、必死になって探した。でも…間に合わなかった…」

「……」

「だからせめて、あいつの夢だけは叶わせてあげたいと思ってた。その時にキミと出会ったんだ」

「はい…」

「舞華のやつ…キミの話しになるとそれは嬉しそうに話してねぇ。本気で好きなんだなって思った」

「俺もです」

「キミが私の家に来て、結婚させてくださいって言ったとき、すごく嬉しかった。普通の親だったら、娘はやれんとかいうんだろうけど、私は…舞華がキミを見る目がとても柔らかくて、あぁ、この人の事本気で好きなんだなって思って、快く承諾した」

「ありがとうございます」

「そんなキミの…戸籍に…傷をつけちゃうかもしれない。妻、死別って…申し訳なくて…」

舞華の父は涙を流した。

「お義父さん…俺、戸籍だのなんだのって関係ないんです。むしろ俺の戸籍に舞華が入ってくれた事、それが嬉しくて。だから…それに俺、両親も…育ての親の祖父母も死んでますし…」

「雅志くん…」

「でも…舞華が…舞華が死ぬなんて…考えたくない…舞華は俺の全てなんです…だから…舞華…」

まぁやんは舞華の父の胸の中で泣いた…


その頃、恋は舞華の手を握って、語りかけていた。

「まい姉?聞こえる?恋だよ?」

舞華に反応はなかった。

「まい姉、わたしとの約束、覚えてる?ダメだよ。まだまだだよ!まい姉!まだだからね!絶対許さないよ」

舞華に取り付けられているベッドサイドモニターの音だけが聞こえていた。

「まい姉?覚えてる?初めて会ったときの事。あの時さぁ、わたしまい姉にやきもち妬いちゃってさぁ、それを見抜かれちゃったよね。それからわたしたち、姉妹になったよね。まい姉とのデート…楽しかったよ」

恋は、舞華との思い出を語り聞かせていた。


「まぁやん!まいまいは!?」

龍弥と美紀、康二も駆けつけた。

「まだ…意識が…」

「そんな…急に…急すぎんじゃん!」

龍弥はまぁやんの肩をポンっと叩いた。

「お前…大丈夫か…?」

「大丈夫なわけねぇだろ!」

まぁやんは龍弥の手を振り解いた。

「まぁやん…」

「…悪りぃ。龍…」

「いや…俺の方こそ軽率だった…」

「病室はこっちだ」

みんなで舞華の病室に入った。

「龍兄…お兄ちゃん…美紀…」

チューブに繋がれた舞華を見て、みんな言葉を失った。

すると看護師さんが来て

「ご家族の方…医師よりご説明があります…」

「はい。雅志くん。行こうか…」

「はい…みんな…舞華を頼む…」

「おう」


「舞華さんの心臓は正直限界を迎えてます。ここまでもった事自体奇跡といっても良いでしょう」

「先生!舞華は…妻は治るんですか?」

「正直にいうと、かなり厳しい状況です。今夜が峠と思ってください…」

「先生!なんでもします!金ならなんとかします!舞華を!妻を…助けてください…お願いします…」

まぁやんは机に頭を擦り付けて頼んだ。

「ご主人…大変酷なお話しですが…舞華さんは…時間の問題です…」

「そんな…」

「お力になれず、誠に申し訳ございません」

まぁやんは床に座り込んだ。

「雅志くん…さぁ、立とう」

舞華の父がまぁやんを抱き起こした。

「わかりました。先生。ありがとうございました」

舞華の父は深々と頭を下げた。

そしてカンファレンスルームを後にした。


「雅志くん…覚悟…しておいてくれ…」

「覚悟…なんの覚悟ですか?」

「舞華は…もう…」

「俺は諦めてないです。医者なんて、所詮人間です!間違える事だってあるでしょ?」

「雅志くん…」

「諦めない…諦めるものか…」

まぁやんと舞華の父は病室に戻り、まぁやんは再び舞華の手を握って、頭を撫でた。

「舞華?俺…お前が目ぇ覚ましたらよ…仕事辞めて…どっか田舎でのんびりふたりで暮らそうな。自給自足ってやつ?金なら爺さんの遺産があるから、当面大丈夫だ。お前と一緒に…のんびり…ぐっ…うぅ…ぅぅぅ…」

そこにいた全員が思った。こんなまぁやんは見たことがなかった。そして全員が涙を流した。


それから数時間が経過した。

まぁやんは片時も舞華の側を離れなかった。

そしてずっと眠っている舞華に話しかけていた。

すると、まぁやんが握っていた舞華の手が微かに動いた。

「ん?舞華?」

呼びかけるとさらに反応があった。

「おい!舞華?舞華!起きろ!舞華!」

うっすらと目が開いた。

「舞華ぁ〜」

「先生呼んでくる!」

舞華はまぁやんの顔を見て、微かに笑った。

「お前…焦らすなよ…」

「………あ…ま……ん」

「ん?聞こえないよ?なんだって?」

「……ま…まぁ…や…ん…」

「よかった…舞華…」

まぁやんは舞華に抱きついた。

医師が病室に駆けつけた。

「高崎さん!高崎さん!」

「まい姉!しっかりして!」

舞華は震える手で、自ら酸素マスクを外した。

「ぱ…ぱぱ…」

「舞華!パパはここだ!」

「パパ…体の弱い…私を…ここまで…育ててくれて…あと…まぁやん…との結婚も…認めてくれて…ありがとう…パパ…大好き…だよ…」

「くっ…舞華…お前は私の自慢の娘だ。生まれてきてくれて…ありがとうな…私も大好きだ」

「ふふ…」

舞華は次にみんなの方を見た。

「龍ちゃん…いつも明るくなごまして…くれてありがとうね…美紀ちゃんと…いつまでも…仲良くね…」

「まいまい…」

「舞華さん…」

龍弥は涙を流し、美紀は龍弥にしがみついて泣いた。

「康二さん…例の件…お願いします…」

「…わかった…」

「恋…ちゃん」

「まい姉!やだよ」

「恋ちゃん、ごめんね…や…くそく…守れそうに…ないや…あの時の誓い…忘れないで…ね…」

「やだやだ!まい姉!」

泣きじゃくる恋を康二が抑えた。

「…まぁやん…」

「なんだ?」

「…こんな…私と一緒に…なってくれて…ありがとう…私のせいで…まぁやんの人生…縛っちゃったね…」

「テメェ、何言ってんだよ!俺がお前の全てを背負うって約束したじゃねぇか!」

「くす…そうだったね…私ね…幸せだったよ…まぁやんに愛された…ほんと…楽しかったぁ〜…」

「これからも一緒じゃねぇか!変な事言うなよ」

「…そっか…そうだね…まぁやん…キスして…」

まぁやんは舞華の唇にキスをした。

「…これ…おやすみの…キスだね…なんだか…疲れちゃった…」

「舞華!まだだからな!ゆっくり休めば良くなる!」

「…ふふふ…まぁやん…かわいい…」

「何言ってんだ」

「私…少しだけ眠るね…まぁやん…おやすみなさい…」

「ああ!舞華…また明日な…おやすみ…」

「うん…まぁやん…愛してる…」

「俺もだ…舞華…愛してるよ…」

「う…嬉しい…じゃあ…おやす…」

舞華はすぅっと目を閉じた…

そして…


『ピィーーーー』


悲しい音が、静まり返った病室に

響き渡った…


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