第30話 プロポーズ


まぁやんと舞華が交際を始めて1ヶ月後。

まぁやんの転勤の内示が出た。

行き先は北海道である。

「帰ることになったな」

まぁやんは少しワクワクしていた。

東京に来て約5年、龍弥や康二、恋と会えることが楽しみであった。

まぁやんと舞華は半同棲生活をしていた。

「舞華、俺の転勤決まったわ」

「北海道に?」

「あぁ。それでな…一緒に来てくれる…よね?」

「えー!どうしようかなぁ〜」

「おいおい!」

「うっそ!もちろんついていくつもり。だけどまずお父さんにも許可貰わないと」

「そうだな。次の休みに会いに行こう」

「うん!」

「それでな…この間お前がお願いしていた籍を入れる件だが、北海道に行ってからでいいか?」

「え!?ほんとにいいの?私で本当にいいの?」

「ばーか!お前じゃなきゃダメなんだ」

「嬉しい…」

舞華の夢は結婚して、ウエディングドレスを着て、結婚式を挙げて、仲睦まじく結婚生活を送ることだった。

まぁやんはその夢を叶えて、舞華と共に温かい家庭を作りたいと思っていた。


数日後、まぁやんと舞華は舞華の父に会いに行った。

すでに数度会っているので、緊張しないとまぁやんは思っていたが、いざとなると膝が震えてきた。

「雅志くん、舞華!お待たせ」

「お父さん、遅ーい」

「ごめんねー!よいしょっと」

舞華の父は席について、お水を一口飲んだ。

「で?今日はどうしたの?改まって」

「はい!お父さん。正式に北海道へ戻ることになりました」

「そうかい!良かったね〜。ん?良かったでいいの?」

「んもう。お父さんったら」

「ははは…そっか。北海道かぁ。いいね」

「はい…そこで…正式に舞華さんと籍を入れさせて頂くことをお許し頂きたく、お願い致します!」

「お父さん!お願いします!」

その話を聞いた舞華の父は、一つため息をついて

「舞華、ちょっと席を外してくれないか?」

「え?どして?」

「雅志くんと二人で話したいんだ。頼むよ」

「…わかった」

舞華が籍を立って、ロビーの方へ歩いていた。

ふたりっきりになった途端、舞華の父はまぁやん深々と頭を下げた。

「雅志くん。舞華の夢を叶えてくれて…ありがとう」

「お父さん!やめてください!」

「あの子は、重い心臓の疾患があるから、医師から長くは生きられないってまで言われてます。だから、もし雅志くんの籍に入ったら、きみに迷惑がかかるんでないかい?君の戸籍に『妻 死別』と書かれちゃうし。戸籍に傷がついちゃうんで無いかと…」

「ちょっと待ってください。どうして傷なんですか!愛する人と籍が一緒になる。とてもプラスなことです。そんな事言ったら、私の戸籍だって傷だらけですよ。だからそんな事はどうでもいいのです」

「雅志くん…」

「なので、舞華さんの病院の転院や、引越しなど忙しくなるので、それだけが心配ですが」

「その辺りはわたしも動こう」

「ありがとうございます」

すると、待つことに痺れを切らしたのか、舞華が戻ってきた。

「ねぇ。まだ?」

「あぁ、ごめんごめん」

舞華が席についた。

「ねぇねぇ。何話してたの?」

「ひみつ!ねっお父さん!」

「そう!男だけのヒミツだ」

「なんなのよーもう!」

「はいはい!食事にしましょう!」

3人は楽しそうに食事を楽しんだ。


まぁやんは悩んでいた。

宝石店に入って、ショーケースの前で悩んでいた。

(これもいいけどなぁ…どれがいいか…)

「お客様、どのような指輪をお探しですか?」

店員が笑顔で話しかけてきた。

「あ…いや…婚約指輪と結婚指輪を…」

「まぁ!おめでとうございます。最近の人気はこちらのようなタイプですね」

「ほー!人気だけあって、いいお値段しますね」

「そうですね…あとはご予算に合わせてお選び頂くとか」

まぁやんは飲食業のマネージャーという立場から、接客に対しては鋭い観点を持っていた。

(ん?今表情が一瞬曇ったな。多分金持ってないなこの客と思っただろうな)

「そうだな…これもいいなぁ」

まぁやんはわざと安い商品をマジマジと見た。

「そうですね。お値段はリーズナブルですが、デザインとしてはシンプルですね。結婚指輪は一生ものですから…」

(明らかにチェっという顔したな。この店員さん、顔に出やすなー)

まぁやんのこのいやらしい性格はずっと治らなかった。

「決めた!これにします!」

っといって、一番高いやつを選んだ。

「え!あ!その…ご予算大丈夫ですか?」

「だって、一生ものって言ったじゃないですか」

「えぇ…そうです…ね…」

まぁやんは指輪を購入した。

(あとは、どうやってプロポーズするかだな)

一応婚約はしてるものの、結婚が夢と言った舞華に、きちんとしたプロポーズをしようと思った。


6月26日、まぁやんと舞華が交際して丸1年の記念日。

その日はふたりで外食しようと約束していた。

場所はまぁやんが勤務しているレストラン。

このレストランは、DJもいて店内のBGMはDJが選曲して流している。

ふたりで楽しく食事をしていた。

「まぁやん、美味しいね」

「ほんとだな!いい記念日になったろ?」

「うん!毎年やりたいね!この記念日」

「そうだな…」

食事を終えて、まもなくデザートの時間が訪れた。

「もうすぐデザート!楽しみぃー」

「ほんと甘いもの好きだね」

「うん!大好き!」

「デザート前にちょっと時間もらえる?」

「ん?なぁに?」

その瞬間、店内の照明が落ちて、真っ暗になった。

「え!」

そしてまぁやんと舞華の席にスポットライトが照らされた。

「ちょっと…なに?」

「舞華!」

そして店内のBGMが安室奈美恵の『CAN YOU CELEBRATE?』がかかった。

「舞華。お前と出会って、俺は本当に幸せだ。そしてこれからもふたりで楽しい家庭を築いていきたい。俺と結婚してください!」

公開プロポーズだった。

そう言ってまぁやんは指輪を出した。

「まぁやん…」

舞華は感動のあまり大号泣してしまった。

「ごどゔぁにでぎないぃー」

「じゃあイエスかノーで答えて?」

「もぢどん、イエズ!」

するとレストラン内から大きな拍手が湧き上がった。

実は他のお客様全員にも、オーダー取る時にカードを渡していた。

『本日20時からプロポーズされるお客様がいらっしゃいます。ご協力お願いいたします』と。

「皆様、ありがとうございます。お礼にわたしから皆様にシャンパンをプレゼントさせて頂きます!」

すると店員が総動員で、客席にグラスのシャンパンが一杯ずつ配られた。

「舞華、手を出して?」

「うん…」

まぁやんは舞華の左手の薬指に指輪を嵌めた。

「まぁやん…ありがとう…愛してる…」

まぁやんは舞華をお姫様抱っこした。

ホールからは『キース!キース!キー』」っとKissコールが発生した。

「する?」

舞華がまぁやんに聞いた。

「照れるな…」

ふたりは恥ずかしながらもキスをした。

お店の中は大盛り上がりとなった。

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