第16話 拉致

恋は駅のホームで澤の仲間に見つかった。

『いたぞ!こっちだ!』

恋は逃げようとしたが、あっさり捕まってしまった。

「離してぇー!」

助けを求めたが誰も助けてくれなかった。

『おい!騒がれるとやっかいだから、口塞げ!』

恋はバンダナみたいな布を口に突っ込まれた。

「うー!うー!」

そしてワゴン車っぽい車に押し込められ、手足を結束バンドで拘束された。

『おい!覚悟しろよ!』

そう言って恋は目隠しをされた。

車が動き出すのを感じて、

(わたし…どうなるの…殺される?)

と悪い方向ばかり考えてしまっていた。

数分走ったところで相手の一人の声で

『そこだ!その車に乗り換えるぞ」

と声が聞こえ、車が停まると

『おい!降りろ!』と言われた。

だが恋は手足を拘束されているので、自分では降りられなかった。

『ちっ!しゃーねー』

恋は何者かに抱えられて、別の車に移された。

そしてまた車が動き出した。

「うー!うー!」

恋が声を出そうとすると

『うるせー!』といってお腹を殴られた。

そしてしばらくしてまた車が停止した。

『行くぞ』

恋はまた何者かに抱えられて移動した。

しばらく歩いたのちに、地面に降ろされて、目隠しを外された。

ぼんやりと見えてきたのは、美紀たちであった。

同じく縛られていた。

「よぉ〜!恋!会いたかったぜー」

澤が恋の顔を覗き込んだ。

そして口に突っ込まれていたバンダナを取った。

「なんなの!これ!離してよ!」

恋が叫ぶ。

「何なのじゃねぇよ。てめぇの胸に手ェ当てて考えてみな」

恋は何でこうなっているかは大体予想がついていた。

「れーんちゃん、渡したおくすり、誰に売ったんだ?」

「誰って…学校の…」

「だぁーかーら?売ったやつの名前だよ!な・ま・え!」

「それは…その…」

「トイレに流したんだろ!もうとっくにこいつらゲロってんだよ」

「恋…ごめん…」

「美紀…」

「城田さん、やっぱりこいつらっす!」

奥の方で、古びたソファに座っている、少し大きい人がいた。


一方その頃、まぁやんと龍弥は必死になって恋の消息を探していた。

その時、まぁやんの携帯が鳴った。

☎︎「おう!雷斗。何かわかったか?」

☎︎「まぁやん…ちょっと今…情報が入ったんだが、まだ確かな情報かはわからないが、恋ちゃんの騒動にうちの組織の奴が一枚噛んでるかもしれん…」

☎︎「なんだと!テメェ!どういうつもりだよ!」

☎︎「聞いてくれ!うちの組織は、お前も知ってのとおり、クスリは御法度だ!だが密かに金のためにやってるやつもいるんだ。そいつが高校生と揉めているって噂が入ったんだ」

☎︎「そいつの名前は?」

☎︎「…城田っていうチンピラだ」

☎︎「そいつはどこにいる?」

☎︎「昔お前らとよく遊んだ倉庫跡あるだろ?そこらしい」

☎︎「そこに行ってみる!雷斗、お前らはまだ動くな!」

☎︎「いや…俺らも…」

☎︎「これは俺ら家族の問題だ!俺らで解決しなきゃいけないんだ。だからお前らは動くな!わかったな!」

☎︎「わかった…」

☎︎「お前のことはまた後だ。じゃあな!」

まぁやんは一方的に電話を切った。

「雷斗か?なんだって?」

「龍、あの桐谷倉庫だ!あそこに恋たちがいる可能性が高い!行くぞ」

「あそこか?近いな!すぐ行くべ」

まぁやんと龍弥は急いで桐谷倉庫に向かった。


「お前らここに並べや」

恋たちは蹴られながら、その城田と呼ばれる男の前に並ばされた。

城田はテーブルに足を投げ出して座っていた。

「お嬢ちゃんたち、やってくれたね…」

城田はゆっくりな口調で語り出した。

「嬢ちゃんたちに持たせたおくすり、一体いくらすると思ってるの?」

「……」

「一粒5万円だよ!お前らがトイレに流したやつ!20粒で100万円だよ!どうすんの?これ?」

澤に持たされたときは1粒5000円と言われていた。ドラッグを売る時の常套手段である。

「お前らじゃあ返せないよなー。親に頼るか?それとも身体で返すか?いいぜ!女子高生のレイプもの!高く売れるからよぉ」

(わたし、何やってたんだろ…あの時お兄ちゃんが来た時…一緒に帰っていれば…)

恋の頭の中には、康二やまぁやん、龍弥と一緒に楽しく過ごした学園のことが走馬灯のように思い出された。

「城田さん、こいつらに100万払う余裕なんてないっすよ!こいつなんて、育児放棄で捨てられた子供なんですから」

「くっ!」

恋は澤を睨んだ。

「なんだ!その目は!」

澤は恋の顔を思いっきり殴った。

恋は口のなかを切った。

「おいおい!あまり商品に傷付けんじゃねぇ」

「さーせん!」

「まぁ、味見くらいならいいけどな。ふはははは」

「マジっすか!」

「味見だぞ、あ・じ・み!」

澤はジリジリと恋に近づいてきた。

「やだ!やめて!来ないで!」

抵抗する恋を、仲間が押さえつける。

澤は恋の上着に手をかけて、勢いよく裂いた。

恋のブラウスが破け、下着があわらになった。

「ふふふふ…」

(あぁ…もうだめだ…お兄ちゃん、まぁ兄、龍兄、ごめんなさい…わたし…)

恋は心の中で、己の未熟さ、己の行動の甘さを恨んだ。

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