第8話 新たなる道
この学園は、20歳になると卒園して自立の道へ進まなければならない。
なので、18歳になったまぁやんと龍弥は自立できるようになるために考えて行動に移さないといけない時期に差し掛かった。
もちろん、まぁやんたちの先輩たちも、立派に学園を巣立っていった。
「なぁ。龍」
「ん?」
「将来…何になりたいか考えるか?」
「んー。正直何になりたいよりかは、どうやってひとりで生きていこうの方がでかいかな?」
「生きていく…ねぇ」
「俺ら、大した取り柄もなくて、学歴も良くないだろ?夢よりも現実かな」
「現実…ねぇ」
今まで当たり前の様に、この学園で、スタッフや学園の子供たちと、楽しく過ごしてきたが‥
その終わりが見えてくると、急に不安で胸が押しつぶされそうになった。
「なぁ、龍。お前…なんかやりたい事あるのか?」
「そうだな…設計士かな?」
「設計士?」
「自分でさ、何かを創り出すことができるだろ?なんかさ、自分の生きた証っていうの?そんなのを残せていければ面白そうかなって思ってな」
まぁやんは唖然とした。何も考えてないようにみえて、ちゃんと自分の進むレールを見据えていた事に驚いた。
「すげーな!龍!俺なんて何も考えていなかったよ」
「まぁはさぁ、どんなことしたいとかもないのか?」
「んー正直なにも…」
「じゃあよ!客観的に見て、俺がまぁに合いそうな仕事を見るとだな…」
「…ごくり…」
「飲食業とかかな」
「はひ?」
意外すぎる回答に、変な声が出た。
「俺が…飲食業!?どっからそんな発想でるんだ?」
龍弥は冷静にまぁやんに対して答えた。
「まずな、お前の人当たりの良さだよ。お前、誰とでも交流持てるだろ?第二に、お前の体力!飲食業って体力勝負なところあるだろ?お前にピッタリ!第三に、お前は礼儀を重んじるところがある。故に飲食業にピッタリだと思ったんだ!」
意外にもしっかりと冷静に判断していた。
「飲食業かぁ。できっかな?俺に」
「何事もチャレンジだ!ダメならダメで、次考えれば良いことだよ」
「そっか…焦るなってことか…」
「そっ!まだ道はたくさんあるんだ!」
「そっか!なんか焦ってた自分がバカだったな」
「人生、これから長いんだから、焦るなって!」
まぁやんは龍弥のこの言葉を胸に刻み、自分の道を見定めるために行動にうつすことにした。
「まぁ兄、何見てるの?」
小学校2年生になった恋が、雑誌を読んでるまぁやんに問いかけた。
恋はこの頃から、まぁやんのことを『まぁ兄』龍弥のことを『龍兄』と呼び、実の兄のように接していた。
「んあ?恋か?これな、アルバイト情報誌だ」
「アルバイト?」
「そっ!俺、働くんだ!」
「まぁ兄、お仕事するの!カッコいい!」
「そっか?カッコいいか!」
「うん!」
恋は特にまぁやんに懐いていた。
「そだ!まぁ兄、あとで宿題みて?」
「おう!いいぞ」
恋が自分の部屋へ帰って行った。
(客観的に見て、俺がまぁに合いそうな仕事を見るとだな…飲食業とかかな)
龍弥が以前言った言葉が頭から離れなかった。
「マジで俺に仕事なんて出来るだろうか…」
今まで当たり前のように好き勝手に暴れ回り、喧嘩ばかりしてきて、勉強もあまり出来なかった自分が『仕事で稼ぐ』ことができるか…
結局不安が拭い切れることなく、アルバイトも出来ずにいた。
そんなある日
まぁやんと龍弥が外を歩いてると、前から黒スーツの男たちに囲まれて歩く男が。
『柏木雷斗』である。
「あれ?まぁやんと龍?」
「おう!雷斗!久しぶり!」
「珍しいな!ここまで来てたのか。連絡すれよ!」
「いや~悪いな!」
「おう、二人ともちょい付き合えよ。時間あるだろ?」
「あぁ。別に暇だ!」
「こっちだ!ついてきてくれ」
雷斗はまぁやんと龍弥をある店に案内した。
そこはこじんまりとしたお洒落なレストランだった。
「いらっしゃいませ」
20代くらいの女性が、びしっとした服装をして出迎えてくれた。
「まぁやん、龍、紹介する。俺の嫁だ!」
「あぁ………あぁ!?嫁ぇ~!」
「はじめまして!柏木苑香と申します。まぁやんさん、龍弥さん、夫からはお話聞いております。お会いしたかったです」
「あぁ…どうも…」
まぁやんと龍弥は、驚愕の事実をサラッと言い退けた雷斗を睨んだ。
「お前…聞いてねぇぞ!結婚したなんて!」
「わりぃ!急な話だったからな。まだ式はあげてないんだけどな」
すると、苑香さんが
「立ち話も何ですし、どうぞこちらへ」
まぁやんと龍弥はソファーのある席に案内された。
「ご中身は?」
「苑香、とりあえずビール3つ持ってきてくれ。あと何かつまみ3つくらい作ってくれ」
「はい!」
苑香さんは裏へ下がった。
「しっかしよ!驚いたな!お前が結婚していたなんてよ」
「まぁな。あいつさ…実は前まで風俗で働いていたんだ」
「風俗…」
「あいつも親と死別されてな。自分の身体で生きてくために頑張ってた。なんかよ、お前らに似てるだろ?」
「確かに…」
「たまたま行った店で出会ってな。仲良くなって話聞いたら、何かお前らとダブってな。それで店辞めさせて、俺が個人的に飲食店出してやって、店任せてるんだ。飲食店やるの夢だったみたいでな?」
ちょうどそのタイミングで苑香さんがビールを運んできた。
「お待たせしました」
「苑香、お前もここにいろよ!」
「はい」
苑香さんはとても清楚で美しく、立ち振る舞いも完璧だった。
「苑香さんはどうして飲食をやってみたかったの?」
龍弥が苑香さんに質問した。
「そうですね…お客様の笑顔がみたいから…ですかね」
「笑顔?」
「わたし、幼い頃に両親を相次いで亡くしたんですけど、数少ない思い出の中に、誕生日に両親とレストランに行った時があるんです。その時にお店の人にもお祝いしてくれて…その場にいたお客さんもみんな笑顔になったんです。そんな素敵な仕事に憧れていた…って感じですかね~」
「……そっか…」
ぼそっとまぁやんが呟いた。
「ん?どしたまぁやん?」
雷斗がまぁやんの独り言に反応した。
「実はな…自分達の進路で悩んでいてな…」
まぁやんはこの間龍弥が言っていた内容を伝えた。
「なるほどねぇ…確かに龍弥の言う通り、まぁやんには飲食業があってると思う。あとは経験だろうなぁー」
「俺、実はあれから飲食業のアルバイト探しているんだけど…どこも経験者を求めていて、なかなかないんだよ」
すると雷斗が
「そうだ!まぁやん。ここでバイトしないか?」
「へ?ここ?」
「そう!実はな、意外と忙しくてな。ホールスタッフを募集しようと思っていたんだ」
「でも俺、経験ないぞ!」
「大丈夫!苑香がしっかり教えてくれるから。時給制で800円でどうだ?」
「いや、時給はどうでもいいんだけど、経験積めるならありがたいけど…」
まぁやんは苑香さんの顔を見た。
「わたしも大歓迎ですよ。わたしの知識でよければお教えしますし、手伝ってくれるなら尚更お願いしたいです」
「マジで!それは嬉しい!よろしくお願いします」
「こちらこそ!」
雷斗が嬉しそうに二人の手を取って、3人で握手をした。
「俺も知ってるやつが働いてくれるなら歓迎だ!でもまぁやん、苑香に手ェだすなよ?」
雷斗がにやけてまぁやんに言った。
「ばっバカ!友人の奥さんに手を出すわけないだろ!」
「ははははは…」
全員で大笑いした。
まぁやんは意外なところから、人生のレールを歩き出す事になった。
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