第7話 恋…初めてのクリスマス

1992年12月23日

いよいよ明日がクリスマスイブ。

例年、この学園ではクリスマスに大きなパーティーを開催する。それは学園の子供たちや保護者、地域の人たちなどを集めてクリスマスをお祝いするのだ。

恋はクリスマスというもの自体知らない。

「お兄ちゃん。みんなバタバタしてるねっ」

部屋でお絵描きをしていた恋が兄の康二に尋ねた。

今日は恋が初めてクリスマスというものを経験するということで、みんなで秘密裏に動いていた。

「なんだろうねー。お掃除でもしてるのかな?」

「そっかー!おそうじ♪おそうじ♪」

康二は恋の見張り役。

まぁやんたちは準備に追われていた。

いつもなら、みんなでプレゼント交換するのだが、今年はまぁやんと龍弥の一番年上が、学園のみんなにプレゼントを用意して、サンタの格好して登場する計画だ。

費用は先日柏木さんから貰ったお金を充てた。

当初返そうとしたが、何故金が必要かと問われ、正直に今回の計画を説明。快く資金提供してくれた。

「今回、なんか緊張しね?」

龍弥がまぁやんに尋ねた。

「当たり前だろ!うまくいくかな?」

一方そのころ、恋は退屈だったのか

「お兄ちゃん、まぁやんたちのところ行ってくる!」

っと部屋を出ようとした。

「わぁーっと!まぁやんたち、今日いないみたいだよ」

「なーんだ!つまんなーい」

恋はまぁやんたちにすっごく懐いていた。

たくさん遊んでもらっているからだ。


そして…パーティー開始の時間となった。

いつも通りに美和さんが恋たちの部屋をノックした

(コンコン)

「恋ちゃん、ごはんだよー」

「はぁーい」

いそいそと部屋の外に出た。

廊下は真っ暗だった。

「あれ?お兄ちゃん、電気ついてないね」

「ほんとだ?おっかしいなー」

とぼける康二。

すると、パッと電気がついた!

廊下から装飾がたくさんされていて、学園の子どもたちが恋の元に集まった。

「恋ちゃん!メリークリスマスー」

「え?なぁに?」

康二が恋を肩車して

「恋、初めてのクリスマスだ。みんなでお祝いするんだ」

「誰のお祝い?」

「今日はキリストさんって人の誕生日なんだ。だからみんなで美味しいもの食べて、お祝いするんだよ」

「美味しいもの!」

恋の顔がパァッと明るくなった。

「さぁ、おいで!始めるよ!」

みんな集まってジュースの入ったグラスを持った。

美和さんが乾杯の音頭をとった。

「さぁ!みんな!行くよ!メリークリスマス!」

『メリークリスマスー』

「さぁ、恋。何食べたい?」

「おしゅし!」

「お寿司か!よーし」

康二が恋のお寿司をとりわけた。

「恋、お寿司初めてだもんな!」

「うん!おしゅし!おしゅし!」

美味しそうに頬張る恋。

康二はつくづく

(ここにきて良かった…)っと思った。

しばらくすると恋が気づいた。

「あれ?まぁやんと龍ちゃんは?」

辺りをキョロキョロしても見つけられない。

「恋、もうすぐ来るんじゃない?」

すると外の方から声が聞こえてきた。

「龍!もっとちゃんと引っ張れよ!」

「うっせーな!てめぇが重いんだろが!」

「お前トナカイなんだからしゃべるな!」

まぁやんが赤い服を着て、龍弥がトナカイの着ぐるみを着て、ソリを引っ張ってた。

それを見た子供たちが外へ飛び出して行った。

「サンタさんだ!やったー」

きゃっきゃいいながらまぁやんの元へ向かった。

「はい!プレゼントだぞー」

「わーサンタさん、ありがとう!」

まぁやんは子供たちにプレゼントを渡していた。

「恋、俺たちも行こうか」

康二が恋の手をひいてまぁやんたちのもとへ走った。

恋がまぁやんの前に来た。

「君が恋ちゃんかい?」

「まぁやん?」

「わたしはね。サンタクロースっていうんだ。まぁやんから頼まれたんだ」

「でも…まぁやんににてるよ」

恋はツッコんだ。

「れ、恋?サンタさんがプレゼントくれるって」

慌てて康二がフォローした。その様子をトナカイの格好をした龍弥が必死に笑いを堪えてぷるぷる震えてた。

「はい!恋ちゃんにプレゼント」

大きな箱を恋に手渡した。

「ありがとう!サンタたん」

恋はプレゼントを受け取った。

「開けてもいい?」

「いいよ!」

恋がプレゼントを開けると、シルバニアファミリーのハウスとお人形セットが入っていた。

日頃から恋が欲しいと言っていたものだった。

「わぁー!シルバニアファミリーだぁ。可愛いー」

「恋、これで遊べるな!」

康二が恋の頭を撫でて言った。

「うん!にゃんにゃんにゃん!」

康二がまぁやんの側にきて耳打ちで

「まぁやん、ありがとうな」

まぁやんは黙って頷いた。

「じゃあ!サンタさんは次の子供たちのところに行くなーみんないい子にするんだぞー」

っと言って、龍弥が引くソリで姿を消した。


そしてまぁやんと龍弥は急いで着替えた。

何食わぬ顔して、帰ってきた。

「ただいまー!おおクリスマスかー」

棒読みの龍弥であった。

「恋、何貰ったんだ?」

「あのね、あのね、シルバニアファミリーもらったの」

「おお!良いなー!よかったなー」

「うん、まぁやんのおともだちのサンタしゃんだよ」

「そっかーあいつかー元気してるかなー」

恋はすごく嬉しそうに笑った。

それを見たまぁやんも心が温かくなった。

まぁやんと龍弥が計画した、恋の初めてのクリスマスは大成功に終わった。

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