第3話 大人の階段
それから数ヶ月が経過した。ふたりの関係は以前変わらないままであった。
ある日、みさき先生が広間にみんなを集めた。
そこには紗奈さんもいた。
「みなさん、今日は残念なお知らせがあります。今まで働いてくれた紗奈さんが、本日をもって辞めることになりました」
『えぇーー』
皆初耳であった。
まぁやんも突然の出来事に目の前が真っ暗になった。
初恋の人がいなくなる…その事実を突然突きつけられたのだ。
「おい!まぁやん!このままでいいのかよ?」
「いや…その…」《《》》
みさき先生が話を続けた。
「紗奈さんは、大学を卒業して、東京の企業に就職が決まってます。その準備で本日付けで辞める運びとなりました。紗奈さんからは以前から相談を受けてました。では紗奈さん、みんなに一言」
紗奈さんが皆の前に立った。
「皆さん、ここでは約2年半、お世話になりました。みんなすごくいい子で、わたしはみんなのことが大好きです。離れるのはすごく辛いですが、これからはここでの経験を活かして、社会で活躍していきたいと思います。今までありがとうございました」
『パチパチパチパチ』
みんなが拍手する中、まぁやんだけは拍手出来なかった。
隣で龍弥はまぁやんを心配していた。
そして、出入り口前でみんな並んでお見送りするときに紗奈さんは一人一人に握手をしていった。
「ありがとう」「元気でね」
そんな声をかけながら…
そして最後にまぁやんの前に紗奈さんが来た。
「まぁやん、今までありがとう。お手伝いもしてくれたね。嬉しかったよ」
まぁやんが握手を渋っていると、紗奈さんがまぁやんの手を取って、強引に握手をした。
その時、握手をした手の中に何か紙みたいなものがまぁやんの手に残った。
紗奈さんはまぁやんの目を見つめて何かを訴えてるようだった。
そして紗奈さんは学園を出て行った。
まぁやんは一人になり、そっと手の中の紙を広げて見た。
そこには紗奈さんの字で
『今日の16時に○○駅の前で待ってます』っとだけ書かれていた。
まぁやんは時計を見た。
15時を少し回っていた。
まぁやんは急いで○○駅に向かった。
走って、走って、急いで向かった。
○○駅に着いたのは16時ちょっと過ぎていた。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
周りを見渡しても紗奈さんの姿はなかった。
「くそ…間に合わなかったか…」
悔しがっているまぁやん。
しかし突然、目の前が真っ暗になった。
「えっ!」
「まぁやん…来てくれたんだね」
紗奈さんの声である。
「紗奈さん…よかった…間に合った…」
まぁやんは笑顔を取り戻した。
「うん!やっぱりまぁやんは笑顔でなくちゃね」
紗奈さんはまぁやんの顔を両手でもって笑って言った。
その手は冷たかった。
「ねぇ、まぁやん。お茶しながら少しお話ししよ。ご馳走してあげるから」
紗奈さんに手を引かれて、駅前の喫茶店へ入った。
「わたしはカフェオレ。まぁやんは?ジュース?」
「俺はコーヒー!」
『かしこまりました』
紗奈さんがまぁやんの顔をじぃーっと眺めた。
「な…なんだよ…」
「まぁやん…なんか怒ってるしょ?わたし…何か気に触る事言っちゃった?」
「……別に…」
「ほらぁー!怒ってるぅー」
「怒ってねぇよ!ただ…」
「ただ?」
「…その……こ…こど……も」
『お待たせしました』
店員がコーヒーとカフェオレを持ってきたのに、まぁやんはビクッとした。
「で?まぁやん?聞こえないよぉ?」
「だから!…俺を…子供扱いするの…やめてくれ…」
「え?わたし、そんなことした?」
「この間さ、本屋で「男の子だもんね」とか…さっきだって…ジュースとか…」
それを聞いた紗奈さんは大笑いした。
「あはははは!まぁやん、可愛い!そんなことだったんだぁ~」
するとまぁやんは
「そんなことじゃない!俺にとっては…大問題なんだから…」
「大問題?」
まぁやんは意を決して…紗奈さんに伝えようとした。
「…俺…紗奈さんの事…す……す…」
そこまで言おうとした時、紗奈さんがまぁやんの手を握った。そして…
「まぁやん…わたし、まぁやんの事…好き…だよ」
まぁやんは鳩がまめ鉄砲を食らったような顔をした。
「そ…それって…あれだろ?可愛いとか…ほら…英語で言うと…なんだっけ…ライクのほうだろ?」
すると紗奈さんは首を横に振った。
「ううん。違う。一人の男性として…好き…英語で言うと…ラブのほうだよ」
「ほ…ほんと?」
「うん…」
まぁやんの初恋は、思わぬところで成就したのだ。
「でも…嬉しいなー。まぁやんもわたしの事好きでいてくれたなんて…」
まぁやんは顔が真っ赤になってた。
「まぁやん…でもね…やっぱり…今は歳の差が大きすぎるし、わたしは来月から東京に行かなきゃいけない…だから…お付き合いする事は…できないの…」
「うん…わかってる…俺も付き合おうとかは考えてなかった。だって紗奈さんは大人だし…俺はまだまだガキだし…まだまだ紗奈さんに見合う男じゃないしね」
「うん…」
紗奈さんの目に、光るものがあった。
「まぁやん…まぁやんと一緒に見たいところがあるの。ちょっと付き合って?」
「うん!」
まぁやんは紗奈さんと同じ気持ちであった。紗奈さんも自分のこと、ちゃんと男として見てくれていた。それだけで嬉しかった。
紗奈さんはあるマンションへ入っていった。
「紗奈さん、ここは?」
「ん?わたしんち」
「へ?だって一緒に見たいものがあるって」
「いいから早く!時間がないの!」
そのまま入って行って、エレベーターへ。
最上階まで登って行って、マンションの部屋へ。
「ようこそ!まぁやん!わたしんちへ」
まぁやんは広い部屋を呆然と眺めていた。
「片付けてないんだから、あまりジロジロ見ないでよ。それよりもこっち!はやく!」
紗奈さんはまぁやんをベランダへ連れていった。
ベランダを開けると、すっごく綺麗な夕日が一面に広がっていた。
「…わぁー綺麗な夕日だー」
「でしょ?わたし…この夕日が気に入って、親に頼んで買ってもらっちゃったの」
「へー…へ?買ってもらった?」
実は紗奈さんの親は、結構な大企業の社長さんであった。
「うん。あまり親に甘えたくなかったから。でもこれだけはわがまま言っちゃった」
「そうなんだ…」
「だからね?仕送りも貰わないで、自分で働いて生活したかったの。それであの学園で働いたの。元々子供が好きだったから」
「そうだったんだー。いやー紗奈さん。立派だよ。俺が言うのもなんだけど」
「このマンションを初めて見た時、この夕日が綺麗でねー。この夕日を…好きな人と一緒に眺めたいって…思ってたの。乙女チックでしょ?」
夕日に照らされた紗奈さんの顔は、今まで見た中で一番綺麗だった。
「寒くなってきたね。中入ろっか?」
「うん」
ふたりはベランダからお部屋の中に入った。
「大丈夫?寒くない?」
「ちょっと寒かったかな?」
「やだー言ってよー!風邪ひかせちゃったら大変だよ」
「いや…さ!夕日に照らされた紗奈さん…すっごく綺麗だったから…ずっと見ていたかったんだ。なんて、キザっぽいね。あはははは」
その瞬間、紗奈さんがまぁやんに抱きついた。
「え!紗奈さん?」
「今の言葉…すごく嬉しい…まぁやん…好きだよ」
そう言いながら、まぁやんの顔を両手でもって目を見つめた。
「紗奈さん…俺…」
まぁやんが喋ろうとしたのを指で制止した。そして…
紗奈さんはまぁやんに口づけをした。
まぁやんの全身に稲妻が落ちたような感覚があった。
「今だけ…わたしに身を委ねて…ねっ…」
紗奈さんはまぁやんの首筋から耳とたくさんキスをした。
まぁやんは何も出来ずにされるがままだった。
更に紗奈さんがまぁやんのくちびるにキスをして。
「まぁやん…舌…出して…」
まぁやんは言われるがまま舌を出した。
そして紗奈さんはまぁやんの舌と舌を絡める深いキスをした。
まぁやんはこの時、体中から何かが込み上げてくる感覚を覚えた。
「まぁやん…どぉ?気持ちいい?」
「あ…あ…う…」
声にならない声をまぁやんが出すと
「くすっいつもは男らしくて、キリッとしていたまぁやんなのに、ウブだね…」
「しかたないじゃん…こんなの…初めてだし…」
「だからね、わたしに身を委ねて…」
紗奈さんはまぁやんの上着を脱がせて、胸にもキスしてきた。
まぁやんは不意に目線を下に落とすと、紗奈さんのスカートが捲し上げられていて、そこから見える綺麗な足に目が行った。
いつもスカートを履いていて、ずっと綺麗な足だなーっと思っていたまぁやん。
それが露わになっていて、まぁやんはつい手を伸ばして紗奈さんのふくらはぎを触った。
「あっ!」
紗奈さんがビクッとした。
「あっごめん!」
「ううん…いいの…触って?」
パンスト越しの紗奈さんの足…初めて見る憧れていた紗奈さんの足…ふとももからお尻にかけて触っていると
「じゃあ…まぁやん…本当の意味での‥大人になろうか?」
「でも…俺…ほんとに…いいの?」
「わたしが…まぁやんと…したいの…これから会えなくなる前に…わたしにも…とっておきの思い出…ちょうだい?」
紗奈さんが涙を流して言った。
紗奈さんも…まぁやんと別れることになったことは…すごく辛いことである。だけど…その前に…
「紗奈さん…俺…カッコいい大人になるよ!紗奈さんが惜しいことをしたって思えるような!カッコいい大人に!」
「楽しみにしてるね…」
その日…まぁやんは…
大好きな人と…
初恋の人と…一緒に
大人の階段を登った…
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