クリスマスが終わっても

 食べ過ぎと飲み過ぎで重怠い身体を引きずって何とか出勤し、自分の席へ座ったところで、同じような顔をした日下が、

「メリークリスマスでしたー」

 と、十二月に入ってから目に焼きつくほど見たサンタクロース柄の小さな包みをデスクへ置いた。

「渡せないままクリスマスが終わっちゃったんだけど、クッキーです。何か、死ぬほど実家からもらったんだよねぇ」

「死ぬほどのクッキー、響きは羨ましいんやけど。あんがと」

「響きだけだよ。実際に段ボール一杯のクッキーを見たら、喜びよりもため息が先に出るって。何があったんだか」

 まだあるんだよと呟きながら、日下は向かい側へ回り込み、まだ出勤していない笹木のデスクにも同じものを置く。笹木の分はトナカイが忙しそうに走っていた。

「そういや、日下は今年の年末はいつから休みにしたん」

 今年は年末年始の社休日が暦の関係で少なく、有給休暇を使う社員も多い、とリーダーが言っていたことを思い出す。実際、フロアの人影は明らかに減っている。クリスマスが終わった途端に押し寄せてくるのは年末の空気だった。

 俺は特に有給は使わんかったんやけど。パソコンの電源を入れたところで、強い目に疲れを映した笹木が出勤してくる。

「僕も一緒。帰省は春にしようかなと思ってて。おはよー笹木、クッキー貰って」

「はよ。クリスマスは昨日までだぞ」

 あとオレはサンタクロースじゃねぇ。眉間の皺を濃くしつつも笹木はデスクのクッキーをゆっくりと移動させてから、ショルダーバッグをデスクへ置いた。

「え、何でサンタクロースなん。さっさのクッキー、トナカイ柄やけどそういう感じ?」

「どういう感じだ。どっかの国で、サンタクロースのためにミルクとクッキーをクリスマスツリーんとこに置くって言うだろ」

「あぁ、親が食べるんでしょ」

「身も蓋もないこと言ってんな、日下」

「やっぱ日下怖いわぁ。な、さっさ」「だな、クラ」

 笹木と顔を見合わせて笑えば、日下が表情を消してしゃがみ込む。おや、とその姿を目で追うと足元に隠れていたトートバッグから両手一杯にクッキーを取り出した。赤、緑、金に白。サンタクロースにトナカイ、雪だるま。

「僕に食べられると可愛そうだから、ふたりで食べてよ」

 まだまだあるからと満面の笑顔で渡されるクリスマスの名残りは、年末の空気に負けずきらきらと輝いているようだった。

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