クリスマスイブ

クリスマスイブにTwitterへ投稿した4編の掌編をまとめました。メリークリスマスでした!


◆チキンの行方

「今日予定ある?」


 十二月二十四日の朝、倉田は顔を合わせた瞬間口を開いた。咄嗟に、予定の有無をからかう気か、勘ぐってしまうのは倉田ではなくこちらの問題で次の瞬間には霧散する。


「ねーよ。何、鶏でも予約してあんのか」

「さっさはその超能力をギャンブルで発揮して欲しいわ。競馬とかどう?」

「どうと言われてもな。一羽? それとも部位別?」

「一羽。いつものあのイタリアンで予約してある。ちなみにワインも」

「乗った」


 親指を立てるのは同時だった。予定があったらどうする気だったのか、そんなことを聞きながら食べる鶏の味やいかに。



◆Xの秘密

「そういや、クラ」

「おん? どした、さっさ」

「クリスマスってエックス、エム、エー、エスって書く時あんじゃん」

「エックス⋯⋯あーはいはい」

「あれ、大文字のXの後にアポストロフィつけるのは間違いだとか、いやそうじゃないとか色々言うよな」

「間違いとは言うものの、英語圏でも普通に使ってるってやつな。俗用なんやったっけ」

「間違い説の根拠は、Xは一文字でキリストを表してるから省略するものがない、ってことらしーけど」

「へー。キリスト」

「ギリシャ語の頭文字らしい。…⋯オマエ一文字で表すならRっぽいわ」

「アダルトな魅力に溢れてるからなぁ」

「どこが。頭でっかい感じ」

「ひど」



◆いざ、クリスマスイブ

 倉田とふたりビルを出れば光と人が溢れている。今年は冬空の星をイメージしたらしい青みがかった白いイルミネーションが、冴え渡る空気をより鋭利に研ぎ澄ませていた。

 吐く息が白い。マフラーへ鼻先を突っ込むようにして首を竦めると、隣の倉田もマフラーをもうひと巻きし、首元の守りを固めている。そしてそのまま、先導するよう歩き出した。こちらも何も言わずに白いマフラーを追う。

 浮かれた雰囲気よりも寒さでしかめられた顔が目立つ気がするのは、自分がそうだからなのか。倉田の背も心なしか丸まっている。

 一際強く吹いた風に目を閉じ、そして開ければ消えそうに小さな白いものが飛んでいく。ゆき、無意識の呟きへ、おん、広い背中がいつもの返事をした。



◆そうじゃない

 想定外に大きな鶏と手をベタベタにしながら戦っていれば、倉田がそういえば、口から骨を抜き出しながら切り出した。


「さっさは、Sっぽい」

「突然性癖の話か。クリスマスだからって飛ばしてんな。サディストな自覚はねぇんだけど」


 口中で、噛りついた軟骨がごりっと音を立てる。


「ちゃうちゃう、いやそうかもしれんけど、午後に話してたアルファベットの話」

「⋯⋯あぁ倉田がRって話な。笹木のSか?」


 そういえばそんな話をしていた。

 倉田はモモかムネかよくわからない部位を切り分けつつ、


「まんまやん。何かこう、引っかかりそうな感じが⋯⋯似てへん?」

「聞かれても。オマエの中で何に引っかかってるんだ」

「えー雰囲気やろ、こういうのは」


 だとしてもオレは断じてフックの仲間じゃねぇ。

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