川遊び

季節は、夏へと移り変わる。


「あっつい…」

「あちぃなぁー。」

「あ¨ーあぢぃー。」


真夏の試衛館は、暑さの為、男達は着物を半身垂らし鍛てられた裸体を晒していくも、それが出来ぬ千夜は、夏というモノが嫌いであった。


自分の身体だけ仲間と違う違和感が嫌でも視界に入って来てしまうのが理由の一つ。


ダラけた三馬鹿に、呆れた視線を向ける土方。


「あちぃ。あちぃ。うるせぇよっ! !ちぃも、くっつくんじゃねぇ!」


「えーヤダー」


土方に抱きつく千夜は、「暑い」と言わない土方に、暑いと言わせたくて抱きついたものの、中々言わぬ男に引くに引けない状況に陥っていた。


「ちぃちゃん、見てるだけで暑いよ。」


元はと言えば、三馬鹿が土方が暑いと言わない。そう言い出したのがきっかけである。


「宗ちゃんに抱きつく?」


そして沖田も面白がっていたのは確かであるも、土方で遊ぶのは楽しいものの、千代が離れぬ事は面白くない。


「僕、暑いって言ってるし。」


でも、少し土方が、羨ましいとも思う宗次郎。しかし、この暑さだ。きっと自分は、汗臭いだろうと諦めた。


「じゃあ、川行こうか?」と、言い出した千夜。

「いいなぁ!川。」

「行こう。」


それに、皆が賛同した。

そこに山南、井上、近藤も現れ、皆で川に行く事になった。



川につけば、穏やかな川の音が暑さを軽減してくれる感覚を覚え、


「川なんて久しぶりだな。」


少し浮かれた近藤に、皆が笑顔になる。


バシャバシャと足を川につけると、暑さも和らいだ。


「気持ちいい~。」

「ちぃ、着替えはねぇからな。」


濡らすんじゃねぇぞ。と、父親の様な土方に「はぁーい。」と返事をした千夜は、辺りを見渡しながら探しモノならぬ、探し人。近くの木の上を見れば、暑苦しい黒装束姿の山崎が、やっぱり居た。


おいで。と、手招きしてみる千夜に、山崎は、はぁっと息を吐き出し、ニカッと笑った。


バシャバシャと子供の様にはしゃぐ近藤達。


その周りに皆が居て、水の掛け合いが始まってしまった。そんな光景を目を細めて見て居た千夜は、人影に1人振り返った。


そこには、黒装束から医者の格好になった山崎の姿があり、彼は、岩に腰を下ろし足を川につけて、千夜を見る。

パシャパシャと水を掛け合う男達は夢中の様子で、山崎の存在には、気づいて居ない様だ。

千夜は、彼に近づいて、横に腰を下ろす。


「みんなおるやろ?どないしたん?」

「烝も暑いでしょ?だから、ちょっとぐらい、いいじゃん。」


そんな事を言う千夜の頭をポンポンと撫でる山崎。彼女と過ごす穏やかな時が好きだった。しかし、それも長くは続かないのが、いつもの事。


バシャンッバシャンッっと、水の音がしたかと思ったら、気づいたらずぶ濡れとなって居た千夜。大人達の水の掛け合いが、ついに、千夜にまで及んだのだ。


見事に、頭から川の水がかかってびしょ濡れに……。


「あ……」

「……あ…」


「あ。じゃないっ!着替えないって言ったの、よっちゃんだよね? 」


男達はいいよ。褌で水遊びしてるんだから。


「す、すまねぇ。ちぃ。つい、童心に戻っちまって…」


山崎は、こちらに視線が来る前に逃げたらしい。すでに、そこには山崎の姿は、無かったのだ。


――――濡れなかったかな?烝。


そう思ったが、ペタペタと体にくっつく着物は気持ち悪く、濡れた着物を肌から離そうとするも再び着物は、肌へと吸い付いてくる。


照りつける太陽は、先ほどより高い位置にある。


濡れてしまったなら、もう濡れない様にする必要も無い。


ザバァーンと、川に寝転がる千夜


「……あーあ。」

「やりやがった…っ!」


頭を抱える土方


「気持ちいいよー。」


三馬鹿が、千夜の真似をする始末だ。

プカプカと、川に浮く男3人と千夜の姿を見て、再度土方がため息を落とした。


「おー。気持ちいい~。」

「本当だ~。」

「斎藤もやってみろよ!」


自分に振られて、心底嫌そうな顔をする斎藤。千夜が、立ち上がり、斎藤に飛びついた。びしょ濡れのままで――――。


「……これは、なんの嫌がらせだ?千夜。」

「はじめも、遊ぼう?」

「遊ぼう以前に、ずぶ濡れなのだが…?」


「気にしない。気にしない。」


「お前が少しは気にしろっ!」

「あれ?平ちゃんは?」


「俺は目の前にいるって!なにそれ?小さくて見えねぇ。って言いたいの?ちぃより俺のが身長高いからな?」


「かわいい~。」

「え?なにが?」


藤堂に飛びつく千夜


「う、うわっ!」


バシャァーン。見事に、2人揃って川へと落ちる。


「……痛っ…。ちぃ、大丈夫か?」

「へへへへ。平気だよー。」


その後、皆を川に引きずり込んだ千夜は、久しぶりに笑顔を見せたのだった。


ずぶ濡れとなった男達は、久しぶりの千夜の笑顔に、怒る気なんて失せて、皆で笑ったのだった。


そして、夕暮れ時、試衛館へとかえったのだが、びしょ濡れのまま帰ったら、案の定、フデさんに叱られた。


「……よっちゃんが濡らすから。」


「違うよな?確かに始めかけっちまったが、そんな、ずぶ濡れじゃなかったよな?」


「……。」


そういえば、そうだった……。


「千夜!風呂入っちまいな。」

「はーい。」

「フデさんは、ちぃちゃんには、優しいよね。」


三馬鹿が頷く。


「よっちゃん。一緒に入る?」


ニッコリ笑って、土方を見る千夜に、皆が目を点にして、金魚の様に口をパクパクと動かした。


「……土方さん、まさか…」

「ちぃといつも風呂入ってるの?」

「……いや、それは、ヤバイだろ?」


「ちぃっ!!嘘を吐くのも大概にしやがれ!」


「嘘ついてないもん。一緒に入る?って聞いただけだよ?」


確かにその通り


「んな事いってねぇで、サッサと風呂入ってこい!」

「はぁーい。」


千夜が部屋から出て行くと、土方に冷たい視線が向けられたのだった。


「土方さん?どういう事か、説明してくれますよね?」


とてつもなく黒い宗次郎に、土方も、二歩後退してしまう。


「……おい、まさか、信じてるわけじゃねぇよな?」


年頃の娘と一緒に風呂なんて、ありえねぇだろ?


「土方君なら、わかりませんね。」


山南さんまで乗っかりやがった…


皆の疑いの視線が土方に向けられる。確かに小さい時は、一緒に入って居た時もあった。しかし、もう何年もそんな事はして居ない。


「かっちゃん、源さんも言ってやってくれよ。」

一緒に風呂なんて入ってねぇって…


そんな言葉に、2人は顔を見合わせた。2人が知るはずが無いからだ。家で風呂に入っているんだから、知らなくて当たり前だった…。と、土方は、頭を抱えた。

ちぃは、とんでもない爆弾を落としていきやがったと、ため息を吐いたのだった。


しばらくして、千夜が風呂から戻ってくると、誤解を解こうとしていた土方に、ギロッと睨まれた。

「あれ?何してるの?」


「お前が誤解を招く事言うから悪りぃんだろうがっ!」


「……?」


首を傾げる千夜


「なんの話し?」

「……」

「……」

すでに、話しの内容すら忘れている千夜に皆、ため息を吐いた。


「あー、ほら、ちぃ!頭を拭け!」


ガシガシと、千夜の頭を拭き出した土方


「……土方さん。それじゃ、父上のが似合ってるぜ。」

「ちげぇねぇ。」


ケラケラ笑う藤堂

「……まぁ、土方さんは、助平ですからね。」


と、冷ややかな宗次郎の声が土方の怒りを逆なでする。


「――――宗次郎っ! !

テメェは、俺に恨みでもありやがるのかっ!」


2人の追っ掛けっこの始まりである。



その後、千夜と宗次郎が一緒に眠った姿に、皆が頬を緩ませていた。


「くっついちまったらいいのに。」

「似合いだと思うんだけどな。」


原田と永倉がそう言ったのは、二人だけの秘密だ。

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