西の大陸への飛翔
第21話 西の大陸の偵察
いきなり偵察機を撃ち落としにくるとは思わなかったけど、自爆させたから問題ないわね。それにしてもあの距離で気がつくなんて、碧眼の瞳をしていたし強い魔力を持っているに違いないわ。じぃじは血生臭いことにはならないと言っていたけど、好戦的でない保証はどこにもないのよね。
一般的な話だけれど、気温が低い寒冷地に住む知的生命体は全体の統率するリーダーに強さを求める傾向があるため好戦的になる。次からは気温も測定するようにして判断材料となるデータを増やした方がいいわね。でも、もう西の大陸のエルフの集落周辺はやめた方が良さそう。偵察されて気分が良いものでもないでしょうし、融和はさておき、親交を求めるのであれば、やめるべきでしょうね。
今回の偵察飛行で分布はわかったけど、言葉までは拾えなかった。私自身は星霊として言葉が違っていても問題なくコミュニケーションをとることができるから、一人でいく分には問題ないのだけれど心細いわ。
「どうしたものかしら」
自問するフィスリールは天を仰いだ。
◇
「どうした? グレイル」
いきなり空に向けて
「おかしな魔獣みたいなのが飛んでいたから、狩ろうとしたら爆発した」
「は? 爆発しただぁ? それ、本当に魔獣なのかよ」
「わからん。魔石の気配は感じるのに励起状態ではなかった」
「なんだそりゃ」
撃ったグレイルも問うドイルもわけがわからない議論をしていると、二人の近くに闊達な雰囲気の女性が近寄っていった。
「グレイルにドイル。遊んでいるなら他の里に行って女の子でも引っ掛けてきな!」
里のコルティール婆さんだった。
「無茶言うな、そんな子がいないことくらい知っているだろ」
「まったくだ。どうせ数百年は生まれないって」
肩を
「ところで何話していたんだい?」
そう問うてくるコルティール婆さんに、グレイルは先ほどの励起状態にない魔石が鳥のように飛んでいるおかしな現象を話して聞かせると、コルティール婆さんは珍しく考え込むように手を顎に当てて押し黙った。
里の知恵袋の珍しい様子に顔を見合わせるグレイルとドイルは、やがて顔を上げたコルティール婆さんの話を聞いて驚いた。
「そりゃ、なんらかの魔道具だね」
「「魔道具?」」
「魔石の魔力を利用して飛ばすよう誰かが作った道具ということさね」
またもや顔を見合わせたグレイルとドイルは驚いたように声を上げた。
「「そんなことできるのか?」」
「そんな簡単にできるわけないさ。できるとしたら……エルフだけさね」
そう答えるコルティール婆さんに気まずい表情をしてグレイルが声を上げた。
「やっべ、俺、
おかしい。そこまで高度な魔道具は聞いたことがない。しかも気がつかれて自爆するとなれば、わっちらが知らぬ集落のエルフ、ということかの? そんな集落、何千年も前に融和を果たした以上あるわけがないが、状況はそうとしか考えられぬ。
「実に興味深い! さっさと爆発した場所に連れて行かんかい!」
グレイルは魔石の反応を捉えた場所に案内すると、爆発した魔道具(?)の破片が散乱していた。コルティール婆さんは木片の一つを手に取り精霊波をあてたかと思うと「ほぅ」と常にない喜色を浮かべて声を上げる。
「おもしろいことがわかったわい! 喜べ、これを作ったエルフは、まだ幼い少女じゃ!」
そう話すコルティール婆さんに、若い二人は互いに目を見合わせた。
◇
じぃじに西の大陸の様子と最後に金髪碧眼のエルフに見つかって撃墜されそうになったので偵察機を自爆させたことを伝えると、少し考えた後こういった。
「最悪、フィスのことがバレたのぅ」
「え? でも粉々になったはずよ?」
それは、こういうことじゃ。と、じぃじは作りかけの魔導製品にやや強い精霊波をあてた。すると、魔導製品からママの波動が漏れてきたのを感じた。
「作ったものの波動を読むことくらいは、長じたエルフなら誰でもできることじゃ。それが老エルフならば、年齢から性別、得意な属性どころか大体の性格まで丸裸じゃよ」
その言葉に私は声を上げて驚いた。
「えぇ〜! 私は誰が作ったかしか感じられないのに!」
「そのうち感じ取れるようになるじゃろ」
「そうかなぁ〜」
でもそこまで知られても場所は特定できないし、問題ないのではないかしら? 知られても違う大陸にいるんじゃどうしようもないわ。
「でも私はその大陸にいないから大丈夫ね!」
「そうじゃの、ここにいるうちは問題ないのぅ」
安心した私は、次の魔導偵察飛行機の構想を練り始めるのだった。
◇
「幼い少女?」
「ついにボケたのか、婆さん」
呆れたようにいうグレイルとドイルの頭をポカリとすると、コルティール婆さんは捲し立てるように話し始めた。
「この婆が魔力判定を間違うわけなかろう。推定四十歳の
おいおい、とホラを吹き始めたと考えたグレイルとドイルは堪らずに言葉を重ねる。
「婆さん、盛り過ぎだろ」
「そうだ、正気に戻ってくれ」
「ほんに失礼なやつらじゃ。わっちは正気じゃい!」
「だってそんな年頃の女の子がいるなんて聞いたこともないって」
「そうそう、いたら俺ら毎日通っているだろ? 変な期待させんなよ」
そう言ってグレイルとドイルが帰り支度を始めたところで、コルティール婆さんは核心に触れた。
「つまり、わっちらが知らぬエルフの集落があるということじゃ」
人間の中で我らに隠されて育てられたのであれば、この年齢でこれほど錬磨された魔力は持ち得ぬし、高度な魔道具も作れぬ。この魔力は、強度も質もエルフの里の総力で英才教育を
そうはいうものの、隠れ里などが存在する余地は皆無。この相反する二つの事実が示すこと……この地にないが、存在する里。
「なるほど。海の向こう側、かの」
こうしてコルティール婆は限られた材料で正解に辿り着いた。
◇
「コルティ、それは本当か」
「この木片に染み付いた魔力を読み取ってみぃ」
長老会でグレイルの案内で墜落場所に散乱した魔道具の破片を渡すと、老エルフたちは押し
「これは……ありえん」
「まさか、ハイエルフかの?」
「なるほど四十にしてこの魔力はそういうことか」
年齢からすると考えられない魔力だが、六属性全てが得意属性ということはハイエルフしか有り得ない。であれば、この
「じゃが海の向こうではどうしようもあるまい」
「そのどうしようもないはずの場所に、どうして魔道具を飛ばす必要がある?」
「……なるほど、そういうことか。コルティは相変わらず切れるのぅ」
向こうから来る、コルティール婆はそう言っているのだ。来るつもりもないところに魔道具を飛ばして調べる必要はあるまい。
「グレイルにドイルはいくつじゃったかの」
「七十と六十五だったかのぅ」
「それは
木片から伝わってくる慈愛に近い波長は、全ての里を見渡しても珍しいほど心優しい子であることが伝わってくる。
「それはそうじゃが、グレイルが既にやらかしておってな。いきなり手ずから作った魔道具を砲撃されたのじゃ。印象は悪かろうな」
「
「奴ら、年下の
それに——
「「「コルティ育ちじゃ
「黙らんかい! 今まさに、わっちが
示し合わせたように言う連中にコルティール婆が怒鳴る様を見て、やはり別の教育者の必要性を感じる老エルフたちであった。
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