転生したら最愛の幼馴染が闇堕ちしてたので救ってくる〜女勇者に転生した少年は、魔王と添い遂げたい〜

方舟

第1章

第1話 少年、女神と出会う

世界を呪ったことはあるだろうか。


たとえば、恋人が寝取られたとき。

たとえば、大切な人が死んだとき。

たとえば、生きる意義がなくなったとき。


俺は今ほどに死にたいと思ったことは無かった。今までがそこそこに恵まれた人生を送ってきたから、よりそう思えるのかもしれない。


「死にたい」


誰もいない部屋はいやに声が響く。

意識しなくても、頭があの濃厚な死を思い出させようとしてくる。縄に吊り下げられて、部屋の端っこでぶらぶら揺れてる、世界一大好きな人の死を。


あれは他殺だった。


自殺に見せかけた他殺。犯人はあいつの実の親父。ブランコみたいにゆらゆら揺れる身体には、多額の保険金が掛けられていた。警察に手錠をかけられた奴の顔も、冷たくなったあいつの顔も、何もかも、悪い夢みたいだった。


俺の最愛が死んだ。死んだ。死んだ死んだ死んだ。


ああ、俺も今死ねばお前のところにいけるんだろうか。


仮に行けなかったとしても、きっといい。今よりずっと楽だ。こんな世界で生きるより、死んでしまった方が、ずっと。


俺は首に触れていた縄を、ゆっくりと手放して椅子を蹴った___







「はずなんだが、なあ。おい。そこの」


「ジャジャーン!!!…いえいえ、もう少し気品があった方がよろしいですね♪キラキラキラ〜!うーん、幼稚すぎ?」


俺は死んじゃいなかった。

いや、もう死んでいるのかもしれないが、とにかくそんな事はもうどうでもよかった。


目が覚めたら前後左右が真っ白の世界にいた。前後左右、というか、どっちが右でどっちが左かも分からんぐらい白い空間だ。そうして目の前の痴女と出会ったわけだが。


まあこの痴女。身体に布一枚巻いただけのほぼ全裸みたいな格好をしておいて喋る喋る。俺がいるのかいないのかも認識していない様子でペラペラペラペラとはしゃいでいる女に、少し強めに声をかけた。


「おい!!クソ痴女!聞いてんのか!!」


「はっ…!ぱ、パンパカパーン!!!!!!おめでとうございまーす!!貴方はここへ来た19652433181人目の人間さんでーす!!!!ご褒美に生き返らせてあげましょ〜!!!」


「は?……なんだよ、19652433181人目って。俺死んだはずだろ。つかどこの誰で何者だよお前。そもそもここどこ」


「あら、素晴らしい記憶力だこと♪あなた、よく人の話を聞いていますねって褒められません?」


「そういうお前は全くと言っていいほど人の話を聞かねぇな」


しっかりと嫌味を言ってやったはずが当の痴女は、やだ!照れちゃいます!とくねくねしている。なんなんだマジでお前。ひっぱたくぞ。


「嫌だなあ、ジョークですよ。最近の若者は短気で嫌ですねぇ。仕方がないのでお答えしましょう♪1965以下略〜というのはですね、今まで自殺をしてきた人々の数です。改めてみたらキリ悪くて気持ち悪い数字ですね!」


「自殺者か。意外と居るもんだな」


「あら♪いやに冷静ですね?その中に含まれてるんですから、あなたはもう死んでますと言われたようなものなのに?」


「話をそらすな。もう一度聞くが、ここはどこでお前はどこの誰だ。何のために俺を連れてきた?」


「あなたいいですね♪ますます気に入りました!ここは転生の間。私は女神デュスノミア。綾垣 侑李さん、あなたを勇者とするべくお連れしました!!」


「なるほど、ノミ女。頭沸いてんなお前」


聞けば聞くほど頭がおかしいやつだとしか思えない。転生?女神?勇者?一体何のゲームの話だそれは。てか俺は貶したつもりなのに当のノミ女は、早速あだ名で呼ぶなんて意外とプレイボーイなんですね!なんて照れている。いやポジティブすぎるだろお前。



「うーん、残念ながら本当なんですよ。そうですねぇ…えいっ♪」


「は?」


いきなり、目線が低くなった。俺は動いてすらいないのに、しゃがんでいるのかと思うほどの視界の低さだ。視界一面が、赤く染まっている。それを認識した瞬間、頭が焼き切れるほどの痛みが走った。


「…ふざけんなよお前。誰が足チョンパしていいって言った。早く元に戻せ」


「ふふふ♪いいですねぇ狂ってますねぇ!まさか胴体を切り離されても平気な顔をしているとは♪私が求めていたのはそれですよそれ!」


そこらを跳ね回りそうなほど陽気な自称女神が軽く指先を振る。まるで魔法だ。次の瞬間には瞬きの間に俺の体は元に戻っていた。白い空間を染めていた血の一滴すら痕跡がない。


「私のこと、信じてくれました?」


「信じるもクソもねぇだろ。信じないなんて言ったら次は頭を吹き飛ばす気か?脳筋女神」


「あはは♪想像通りの面白い方ですねぇ。まあ良いんですよどっちでも。どちらにせよあなたにはなってもらっちゃうんです!勇者に♪」


魂の召喚はもうされてますし?今のあなたは本物のあなたの残滓のようなものですし?


さらりと告げられた衝撃の事実に渋い顔をしてしまう。やっぱり最初から選択肢なんて無いじゃねぇかクソが。やっぱこういう女はどこから本気でどこから嘘なのかがさっぱり分からん。


「あなたは自殺者のくせに魂の強度がバカみたいに強かったのでお招きしたんです♪人間たちが懇願している勇者として派遣するには都合が良かったので!最初に言っていた、何人目にここに来たとかはただのおふざけです♪」


「ンなもん最初から分かっとるわ。お前の存在自体がおふざけだろ。で?お前は女神、俺は勇者候補、ここは転生の間。俺に勇者になって魔王を倒してこいとでも?」


「よく分かっているではないですか。その通りですよ!でもそれだけ伝えてハイ頑張ってくださいと放り出すのはさすがに可哀想かなあと思ったので、あなたに贈り物をしてあげようかと♪」


うげぇ。

要らねぇよお前の贈り物なんて。なんか急に爆発とかしそうだし。とはさすがに言わなかった。一々妙なところで突っかかって頭を吹っ飛ばされたら面倒だったからだ。それになんとなくこの女、悪意はないように思えた。普通の人間からしたら病んで死んだ後にこんな絡み方をしてくるんだからシンプルに存在そのものが邪悪だろうなとは思ったが。


「なんだよ贈り物って。私ですとか言ったらはっ倒すからな」


「まっ!言いませんよハレンチですね!これだから最近の若い男の子は!他の女の子たちにもそんなヤラシイ事を言っているんですか?」


「ふざけろ。俺は一途だ。一生愛してるやつがいる。そいつに比べりゃそこらの女どもなんか恋愛対象にも見れねぇよ」


思わず睨み付けるようにそう言ってやれば、自称女神はあらあら〜?とやけに腹が立つ笑みを浮かべてこっちを煽ってきやがった。こっち見んな。マジ腹立つなお前。


はあ、こんな痴女に構ってる暇があったら…。



「『メグに会いたい』、ですか?」


「!!」


「知ってますよ♪あなたの事はなんだって!あの人、なんて読むのか最初苦戦しましたけど…。まみや…めぐ、めぐるさん?ですよね?あなたの想い人は♪」


こいつ…メグを知ってやがる。


まみや めぐる。この痴女はまるで幼稚園児みたいな発音で名前を呼んでいたが、正しくは間宮 廻。俺の幼なじみで、俺の初恋で、俺の愛していた人だ。…そう、メグは実父に殺されてこの世にはもう居ない。二度と会えない。会えるはずがない。あいつも俺も、もう死んだのだから。


「そうですねぇ。このまま送り出してもなあなあで魔王なんて討伐してくれなさそうですし、あまり気が乗らないようなら、そこを交換条件にしましょうか♪」


「あん?」


「間宮 廻さんの魂を探しておいてあげますよ!勇者となって魔王を倒してくれるのなら、あなたの想い人を同じ世界に転生させてあげます♪どうですか?」


「は……」


正直、破格だ。あいつがいなくなった世界に絶望して死んだ俺からすれば破格の条件だと言えるだろう。だが本当にそうか?この女が本当にそんな親切なことを…?


「嘘はつきませんよ。女神の名にかけて。私にだってプライドがあるんですから、そんなちっちゃな嘘ついても意味ないですしね。その人の魂があればうまーく転生させてあげます♪」


いかがですか?と目の前の痴女が笑う。一見本物の女神のような微笑みに見えるが、腹の底で何を考えているか分かったものではない。だが…。


「分かった。乗ってやる。最終的に魔王を倒せば良いんだろ?」


「まあ!では引き受けてくださるんですねっ!では色々と準備がありますのでこちらにどうぞ♪」


俺の言葉に気分を良くしたらしい女神はやけにうっとうしい仕草で手招いてくる。なんか一々罠臭く思えるんだよなこいつの言動…。


それを顔を出さずに近寄ってやると、女神はくるりと指を回し、俺に向けて何か光のようなものを飛ばした。それは身体に当たると小さな音を立てて消えていく。


「今、あなたの中に優秀な三つのスキルを…♪って、あれ?あなた、どうしてスキルが既にひとつ埋まってるんですか?まあ、残り二つはそれなりにいいものを入れといてあげますけども…」


何やら女神が不穏なことを言っている。おいおい、既に埋まってて良いのが入れられないとかハズレ枠じゃないだろうな。


「そんな心配そうな顔をなさらず!迷いましたが、きちんとあなたの適正に合ったスキルを入れておいてあげましたから!私の愛を込めて♪」


「はぁ…」


それがより不安を煽るんだよな、とは言わない。面倒なことになるのは目に見えてるからだ。それになんだかんだ言ってこの女神も本気で魔王を驚異に思って俺を派遣しようとしているらしいし。いつかメグと会えるようにしてくれるならそれを糧に魔王討伐するしかないだろうしな。


女神に背中を押されるままここまで来てしまったが、全く面倒なことになったものだ。結局あれやこれやとやっている間に眠気が来てしまい、今までどんな話をしたかも分からないまま、酔っ払っているかのようにテンションの高い女神に手を振られ、俺は意識を失った。

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