夏の終わりと貴方に告げる、さよなら

S【雑賀 禅】

第一章

第1話


 『ごめん。別れて』


 その一言が、私を奈落の底へ突き落とした。



 来年の八月。私は30歳を迎える。

 そして、婚約していた彼と結婚をする予定だった。


 全てが順風満帆なはずだった。


 それなのに、私の夢は砂のように呆気なく崩れた。


 理由は至極簡単。


 彼は浮気をしていた。

 そして、相手を妊娠させたという。


 その事実を聞いたとき、嫌悪、憎悪で吐き気に苛まれた。


 全部、全部。嘘だった。


 私、なんの為に生きてきたの?

 なんの為に、尽くしてきたの?


 もう、誰も信じない。信じられない。


 嶺奈レイナは、土砂降りの雨の中、荒れる水面を眺めていた。


 今、この橋から飛び降りれば、きっと……。


 苦しいのは一瞬だけだ。

 だから、さよなら。


 彼女は覚悟を決めて、手すりからそっと手を離した──。

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