第1話 3頁
意地になって“いらない”と言ってしまったが、お腹は空いていた。机を見れば、三者面談の案内の紙があり、弥生はため息を付いた。
“誰に言えば。”
その時、コンコンと、突然部屋の扉がノックされて、弥生はどきっとした。勝だった。
「若、ご飯は?」
「お前もかよ。いらない。」
「・・・へーい。」
本当はかなりお腹が減っていた。元々少食だが、母親か亡くなって、前台所係が消えてから、お腹が空けばコンビニで適当に買う。まして食べない日もあったりで、その食生活はかなり偏っていた。でも最近は、よくお腹が空くようになったし、体の節々が時折痛む時があった。
勝は食卓に戻り、かなめの配膳を手伝った。
「若、いらないってさ。」
「そうですか~。お腹空いてるっぽいんですけどね。珍しく台所に来たから、夕飯食べるかな?って思ったのにな。なんかあったのかな。」
心配そうにかなめは首を傾げた。
「ほっときなよ。今日のご飯はなにー?」
神無がふふっと笑いながら、ふらりと食卓に現れた。さほど弟の事は心配していないようだ。
風呂に入り、弥生はどうしてもお腹が空いて、夕飯の残りを目当てに、こっそり暗い台所に向かった。
すると台の上にお盆があって、すぐにわかった。そこには丁度一人分くらいの夕飯のおかずが盛られ、ラップがされていた。
「・・・。」
おそらくは、かなめがよけて置いてくれたのだろう。ハンバーグとマカロニサラダだ。
しばらくその前で突っ立て、その気遣いに反抗する気持ちがあったが、空腹の誘惑には勝てなかった。
少し焦げ気味で、形も少々いびつなハンバーグには、ケチャップをベースに、きのこが入ったソースがかかっていた。マカロニサラダには、粗く潰したゆで卵とハムやキュウリ、薄く切ったタマネギ、人参などが入っていた。
ありきたりなメニューだか、その要所にかなめの個性が出ていた。売り物では、この黒い焦げはない。
弥生は、一口、ハンバーグを口に入れた。この焦げが、甘めのソースと合わさって中々クセになる。そのソースがマカロニにかかって、マカロニも主役と化していた。
皿の上は、あっという間になくなった。
「・・・うま」
温かい時に食べていたら、もっと旨かったんだろうなと、弥生は素直に思った。
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