かなめと月裏の台所🌙

柊楓

第1話 飯をくえ 1頁 

「いらない。」


 はい、今日も頂きました。

 一別もせず、学生鞄を肩にかけた弥生は、むすっとしながら台所を素通りし、外に出た。


「行ってらっしゃい!」


 弥生は、いまだごはんも食べず、お弁当も受け取らなかった。それでも、かなめは毎日、“朝ごはんは?”、“お弁当は?”と声をかけ続けた。


「おはよ~。毎朝、大変だね。アイツもごはん食べないで、よく持つよね~。」


「おはよう、神無君。ほんとだよね。」


 眠たそうに食卓に現れたのは、次男の神無だ。弥生の後ろ姿を目で追いながら、もはや感心したように呟いた。

 神無は、毎朝遅刻気味に起きてきて、朝ごはんはしっかり食べたが、野菜が苦手で特に人参は必ず残した。しかし、天童家には“食べ物は残すべからず”という決まりがあったためか、本人も気にはしていた。


「だめだぁ~、人参。ごめんなさいかなめさん。」


 と、いつもこんな感じで謝ってくるので一応、挑戦はしているようだ。


 天童家の三男として生まれた弥生は、幼い頃に母親を亡くして、その面影があまりない。そもそも、食べる事自体が面倒だし、何だったらサプリメントの方が効率がいいと思っている。だから、うちの台所係がわざわざ毎日声をかけて来る事が煩わしかった。


 学校のホームルームの時間。担任が教室に入って来ると、生徒達は号令にあわせて立ち、礼をして着席した。弥生は、この連帯感も無意味だと感じていた。


「もうすぐ三者面談があります。保護者の方に出席してもらいますので、ーーー」


 弥生は三者面談というその言葉に、少し反応した。担任は、淡々と説明しているが、弥生は頭を悩ませた。一体、うちの誰が来るというのか。

 休み時間になると、担任がいる職員室へ向かった。


「先生、あの。」


「天童君。私の方から、ご家族に連絡しましょうか?」


 いや、誰に?頼むから、そんな事しないでくれ。と、言いかけて止めた。担任は、弥生の家の事を知っているから、既にそのつもりだったようだ。

 うちは大丈夫なので。と、弥生は結局、担任にそう言うと、下を向きながら職員室を出た。

 廊下を歩きながら、“三者面談なんかする必要はない。俺は、”そう思ってはっとした。

 “俺は、この先どう生きて行くんだろう?”


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