意識高めのゾンビ君

檻墓戊辰

どんな人を襲うべきか?

 大型ショッピングモールは悲鳴に包まれていた。


 ゾンビが現れたことで、買い物を楽しんでいた人々が次々に襲われる。白濁した目、血に塗れた体、おぼつかない足取りで闊歩するゾンビたちは数を増やしながら、ショッピングモールを蹂躙していく。


 ある者は勇敢に立ち向かい、ある者は逃げ惑い、ある者は怯えて動けずにいる。


 まさに地獄絵図であった。


「きゃー、ゾンビだぁ」

 そしてここにも、悲鳴と共に逃げていく人々。その後を追いかけるゾンビがいた。


「あー、あー、ぐー」

 ただ、ぎこちない動きでは追いつくことはできない。


 そんなゾンビに別のゾンビが近づく。

「あー、あー、あぁー?」


 2人のゾンビは立ち止まる。



(以下、日本語で記されますが、本当はゾンビの言葉で話しています)



「ちょいちょいちょい。ダメだよー。そんな追いかけ方しちゃ。君、ルーキー?」


「あ、はい」


「あー。人、まだ襲ったことないでしょ」


「分かります?」


「分かるよ。まともにあいつら(人間)追いかけてもさぁ、全然追いつけないでしょ」


「あいつら、足が速いっす」


「あとさぁ。1人で追いかけてたでしょ。あれもダメだよ。危ないからね。俺たちスタンドプレイに見えるけど、結構チームプレイで頑張るタイプだから」


「すみません。何か、テンション上がっちゃって」


「分かる分かる。初めて人に噛み付く時って緊張するしね。でもやっぱり最初は、元気な人は無理かな。例えばあそこで杖付いたおじいさんとかどう? あれなら手頃な感じでいけそうじゃない?」


「先輩。それは……どうなんですかね。ゾンビとして正しいんですかね?」


「え? どう言うこと?」


「確かに俺たちは人間よりも足が遅いですよ。でも、だからと言って、自分たちよりも動きの遅いご老人を襲うことに、意味があるんですかね?」


「あるよ。目に付く人、全員に襲い掛からないとダメだから」


「いやー。納得いかないっすわー。目の前の相手に敵わないから、弱い相手を探すみたいなこと」


「君……珍しいタイプのゾンビだね」


「ゾンビにプライド持ってやりたいんで」


「ストイックだねー。いつ頃、ゾンビになったの?」


「10分前ぐらいですかね」


「えっ! 今、なった感じ?」


「そーですね。そこの100均でガブっといかれました」


「あー、そう。なかなかいないよ。噛まれてすぐに起きる人、大体の人はゾンビになったショックでしばらく動かないんだから」


「あー、どうりで周りの人達が倒れたまま動かないわけだ」


「いや、受け入れられないでしょ。ゾンビになったわけだから」


「でもー。ゾンビになるのって一生に一度じゃないですかー」


「結婚式みたいな感覚で話す人、初めて見たよ」


「そのゾンビになった記念すべき初日を、寝たまま過ごすのは、ゾンビになった意味がないでしょ!」


「あー。ストイックな変態だね。喜ぶようなことではないと思うけどね」


「なってしまった以上、やることは一つですよね!」


「よく、そのテンションで人襲えるね。君、割合としては、たぶんまだほぼ人間だよ?」


「でも、もう自分、ゾンビですから」


「だから、何でそんなに、ゾンビにプライド持てるの?」


「あ、先輩。人間どもが戻ってきますよ」


「君の思考回路どうなってんのよ?」


「まとめて、相手してやるよ!」


「んー、ちょっと待って! 何か武器持ってんな。ヤバい、逃げろ逃げろ!」


「え?」


「ああなったら人間はヤバいから。俺らはやられる側になるんだよ」


「うわ、ホントだ。みんな、目がイッちゃってるわ。人間、怖っ!」


 

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