第二章 4
「あ」
そういえば、さっき咄嗟に持ってきちゃったんだっけ。
私はポケットから先程の
いきなり制服の一部が光り出したのを訝しんだからだろう(しかもどんどん光が強くなっている)、周りに皆が集まって来ていた。
「アリスちゃん、それ……」
アルフレッドが吃驚したように言い、
「それ まさか 聖王妃の薔薇じゃ….?」
戸惑うようなミリディアナに、
「メイデン嬢、どこでそれを?」
アッシュバルトのはほぼ詰問だったが、私は口を開く。
「さっきの部屋で妙に気になった櫛と鏡がありまして。手に取って見たんですよね。そしたら、」
何気に髪を梳いてみた途端、櫛がクリスタルに変わっていて驚きはしたが急げと呼ばれたので一先ずそのまま持ってきてしまいました、と告げると全員が全員、その場にフリーズした。
まあ、いかに魔法のある世界でもあり得ない展開だがこちらとしてもたまたま遭遇しただけの事象に責任取れと言われても困るのだ。
「えぇと、信じてもらえないかもしれませんが、」
戸惑いながらフリーズを解いてもらおうと声をかけると、
「あ いやアリスちゃんの事を信じてないわけじゃないよ? ただびっくりしただけ」
即座に普段の調子を取り戻したアルフレッドが笑顔で言う。
「これはね、〝聖王妃の薔薇〟と呼ばれるもので長い間王家で存在は確認されているものの実際には見つける事が出来ないでいた宝玉みたいなものなんだ」
__は?
「まあ、それ自体特殊な性質で、〝持つべきものが触れた時初めて発動する〟魔法で封じられていたそうだからその
はい?
「そういう事になるのだろうな。王家の者は皆、その 婚約者や妃も含めそれに触れてみた事があるが、、反応した事は一度もない」
「まあ、〝効力が一回きり〟とされてるからタイミングもあるんだろうけどね」
何気なく付け足された言葉はおそらくミリディアナを気遣ってのものだろう、ちら と目をやればミリディアナは青ざめている。
彼女が触れた時も、アレは全く何の反応もしなかったのだ。
(聖王妃って、確か数代前の伝説の王妃だよね?)
彼女は当時ドラゴンの被害が絶えなかったこの国に於いて聖竜の加護を受け、絶大な魔力を行使してドラゴンを駆逐、又は封印し結果彼女とその夫たる聖王が治める代でドラゴンによる被害はほぼなくなり、彼女の存在は国内外問わず多大な影響をもたらしたという。
ドラゴンの被害を被る国にとっても、ドラゴンで益を得る国であっても。
彼女を害する者は聖竜の怒りを買うといわれ、当時列強と言われる国々も揃って頭をたれた。
また、その夫聖王たるレオンは外交に於いて辣腕を発揮し、今まで一切関わりを持とうとしなかった国々とも同盟を結び外交ルートを開き、様々な物を流通させ
この二人が治めるレジュール王国は隆盛を極め、また聖王妃が様々な考案をし身分に関係なく得意分野を学べるように平民から貴族まで幅広く学べる場を用意する事で、平民の識字率も高くまた魔法使いには平民であっても貴族と同等の教育が受けられ王宮仕えまであがれるお国柄、というのが歓迎されたらしく国外からも有能な魔法使いがこぞって集まり、伝説の魔法大国レジェンディアと呼ばれるようになったのは後年のことである。
(代々続く王家の中でも突出した聖王そして王妃……確か、名前はセイラ様。
元々レオン陛下とは従兄妹同士で幼なじみのような間柄だったって伝わってるけど)
とか脳内知識を漁っていると、
「……〝聖王妃の薔薇〟はそれが相応しい者の手に取られた時力を発揮すると伝わっている」
アッシュバルトの低い声が思考を遮った。
「まあ、ぶっちゃけ僕達にとっても〝伝説〟でしかなかったわけだけど。アリスちゃん、何か感じる?」
感じるかと言われても、光ってる以外は特に何も、と心中呟いたところで
ぱぁ…と手の中の光が増し、私を包んだ。
私は光の玉の中に浮いていて、おそらく中にあったものだろう薔薇が手の中に__そしてそれがぱっと形を変え一枚の紙になった。
私はそれを手に取った。
光の玉の外で皆が何か叫んでいるのは私に届かなかった。
*・゜゜・*:.。..。.:**:.。. .。.:*・゜゜・*
はぁい!これを読めてるって事は貴女は前世日本人ね?!でないとこれ、読めないもんね〜☆
*・゜゜・*:。. .。:*・゜゜・
………。
言われてみれば。
これ、日本語だ。
ていうか、何だろうこの女子学生が授業中こっそりまわす手紙みたいな始まりは。
前振りが壮大だっただけに、一気に脱力しきりである。
*・゜゚・*:。. .。:*・゜゚・**・゜゜・*:。. .。:*・゜゜・*
実は私もそうなの。
あ でも誰にも内緒よ?夫のレオンにすら教えてないんだから。
ドラゴンの脅威はほぼほぼ消し終えたけれど、全部倒せたわけじゃない。
ただ〝眠らせただけ〟の個体も沢山いるの。
私の力が及ばなかったのもあるけど、一番の理由は、〝ドラゴンという種族自体が人間の敵ではない〟ということなの。
人間と共存出来る種もいるという事と、滅ぼしてしまえば今の自然の生態系そのものが狂ってしまうのよ。
後々、いえこれを読んでる貴女がどれくらい後の人なのかわからないけれど、貴女が教えられた歴史書では〝悪いドラゴンは大昔に滅ぼされました〟とだけ載ってたりしてもそれを鵜呑みにするのは危険だと言う事を伝えておくわ。
勿論、人の在りようもその他も変遷してゆくものだとわかってはいるのよ?
でも、加護をくれている聖竜は私が永眠すると同時に眠りにつくと言っているの。彼が後々も世界を見守ってくれたら安心なのだけど、そのつもりはないというのね。
私と彼は友人であって主従ではないから命令は出来ないし。
だからね、〝お願い〟したの。
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「お願い……」
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一度だけでいい、この国が、世界が、危機に陥って、その時私のこの手紙を誰かが読んで、彼の名前を呼んで助けを請うたなら、 助けて欲しいって。
確率はかなり低いけれど、それが条件でもあったの。
〝呼び易い、わかりやすい設定〟では許可してもらえなかったのよ……。
ドラゴンがまだその世界にいるかもわからないし、別の脅威かもしれないけど一度だけなら無条件で呼びかけに応えてくれると言ったわ。
一度だけよ?
そこは悪いけれど勘違いしないで。
聖竜をずっと頼みにするのは無理な話だし、そもそも加護があってもなくても、終わりは来るの。
人も国もね。
けれどもしドラゴンマスターが滅びた後に一気にドラゴンが起きたりしたら目も当てられないわ。
いかに魔法大国であろうとね。
だから一回限りの魔法を託すわ。
同郷のよしみっていうのもヘンだけど、この手紙を開いてくれている貴女に。
聖竜も、寿命まで眠ったままというのもどうかと思うの。
だから ね?
呼び出す呪文とかつけようかと思ったんだけど良いのが思いつかなくて。
『バ◯ス』とか簡単でいいかなと思ったけどあれ滅びの呪文じゃない?ちょっと縁起良くないわよね。
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「………」
そういう問題だろうか。
セイラ妃殿下ってもしかして……
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あと生き残った男の子が名前を言ってはいけない人に最後放った呪文とか考えたんだけど、前世で同年代だったとは限らないし。
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いや、読んでてもあの物語内の呪文を全部覚えてる人って激レアですセイラ妃殿下、ていうかやっぱり。
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だからね、やっぱり名前で良いかなって。それなら私以外知らないしね。
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はあ、そうですね。としかもはや言えない。
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彼には私が幼い頃つけた名前があるんだけど……ヘンよね、私この名前を付けた時まだ前世の記憶なんてなかったはずなのに(笑)
けど、◯リー・ポッターやジ◯リを知らない人でもこれなら知ってると思うの。
この結界の中にいる間は声は遮断されるから気にしなくていいわ。
*・゜゜・*:。. .。:*・゜゜・*
「!」
そこまで読んだところで凄まじい地響きを結界の中にいながらも感じて顔をあげると、夜空を覆う程ばかでかい翼のドラゴンが文字通り地から出てきた。
這い出るのではなく 言い方はアレだが……筍が生えたみたいに出てきたというか。
「…………」
何故こんな事態に自分が妙に落ちついているのかよくわからない。
わからないが、やるべき事はわかる。
そのままセイラ妃殿下からの手紙の最後の一文を読み終わり私は目の前を見上げる。
溶岩の塊みたいな赤黒い火竜は今にも火を噴きそうだ。
その前に私が口を開く。
*・゜゜・*:.。..。.:**
__貴女、『不思議の国のアリス』を知っていて?
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