第2話 勇者
[ーー3か月前ーーその頃勇者はー-]
~王都アリシア、アリシア城内部、玉座の間~
「北の魔界の地にて魔王なる者が現れたと報告を受けている。
この人間界を攻め込んでくる気かも知れぬ。
勇者よ、さあ今こそ国民の安全を守るため行くのだ」
「はい、このライン勇者の銘を受け必ずや魔王の首をとってまいります!」
180度回転し強張った動作で玉座の間を抜ける。
ー「はあ、緊張した。
やっぱり本物は違うなあ」
俺の名前はライン、といってもそれには少し語弊がある。
ーこの世界に俺はある日転生した。
そこは俺のやり込んでいたフルダイブRPG「shooting star」略して流星に奇妙なまでに似ている世界だった。
流星、という名からも推察できるかもしれないがこのゲームはRTAを題材にしたゲームである。
毎度のお約束で魔王が出現、しかし勇者が攻略を始めると魔物達がみるみるうちに強化されてゆき普通のRPGのようにレベル上げなどをしていると一週間も経つと実質進行不可能になる、そのシステムとバグの多さもあいまって未だクリア者はネット上に現れず、魔王の顔さえも未だ見た者は居ない。
いわゆる「クソゲー」というヤツだ。
あるものは回復にものをいわせ薬草999個での攻略→ワンパン。
またあるものはチート行為を犯し攻略→(他の攻略者達に)フルボッコ。
ちなみにチートを使っても高性能不正探知機がこのゲームだけ無駄と言っていい程何重にも搭載されており魔王の顔さえ見ることもできず感知され強制終了するらしい。
だが、そんな逆境に燃える者も居た。
そう、この俺「高橋圭」のように。
そして、俺もいつものように流星を起動すると...、ここに転生していたわけだ。
最初はただの仮想空間だと思っていた、だがしかしウィンドウは開けなかったし、NPCの反応も凄く自然。
そしてなにより...、普通に痛い。
タンスの角に小指をぶつけた時は四天王の超級魔法より痛かった。
そこで俺はようやくこの世界が「ゲームではない」ということに気付いた。
しかし何故よりにもよって転生先が流星なんだ...?
...だが現実であるからこそこの世界はやはり放っておけない。
だがそうは言っても...、
「どうすればいいんダアアァ!!」
俺は街道でそんなことを叫ぶ...、あ、怖い、そんな変人を見る目で私を見ないで!
ああ、どうしよう...、いきなり変人認定をされてしまった。
そう、ここは異世界。
NPCの行動もそう単調なものではないし時間も現実世界と同じように流れる。
だが、この世界のゲームらしい要素も見受けられた。
そう、それは「バグ」だ。
...このゲームのバグは致命的なものはパッチが配布されているが異常なまでに数が多く、プレイを助けてくれるバグからダンジョン序盤で強敵が現れたりなど非常にクレイジーだ。
しかし公式は「仕様です。」の一点張りで実際に公式RTA(中盤で終わっている)でもバグが使われている。
俺が見てしまったバグはいわゆる「テクスチャ崩壊バグ」といわれるもので家のタンスがグニャっと歪んでいた。
「やっぱりゲームか」と思って暖炉の火に手を入れた。
熱かった、四天王の禁忌魔法「インフェルノ」より熱かった。
こんな初歩的かつ現実離れしているバグがあるあたり多分ほとんどのバグが健在なのだろう。
そんなこんなで非常に分かりづらい転生をしてしまった俺だが「どうすればいいんダアアァ!!」とはいったもののやはり俺が勇者である以上することは決まっている。
「魔王、倒すしかないよな...」
そう、俺は勇者。
魔王を倒すことが本来の目的なのだ。
最強の武具を揃え魔王と死闘を繰り広げる存在。
「...で、これでどうやって死闘を繰り広げろと?」
手に握られているのは「ひのきの棒」。
今着用しているものは「ふだんぎ」。
所持金300G(銅の剣=250G)。
ゲームの仕様と全く同じだがどうも納得がいかない。
「折角現実になったんなら騎士装備一式くらい普通貰えるだろ...?」
俺は装備を買うための資金を作るため...、パン屋に行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます