第8話
更に10日が経過した。
新しく手に入ったハーブ木の葉っぱにより、男の喉は順調に回復していた。
まだ上手くは話せないが、声を発する事は少しずつ出来るようになった。
そんな日の出来事だった。
男がアメル草畑のアメル草を採り、ウォーウルフ対策のため、周囲にばらまいていた頃。
「きゃー!」
森に女の声が響き渡る。
聞き慣れているその声に、男はただ事じゃないと思い、声がした方に走り始める。
すっかり身体が回復しているので、走る事はなんてことない。
男がその場に着くと、エリシアとマリーが男達に囲まれていた。
「おいおい、姉ちゃんよ~俺達を遊ぼうぜ? ん? なんだ、男がいたのかよ。それにしてもみすぼらしい奴らだぜ」
「気にするな。こいつら売ったらお金になりそうだから、さっさと捕まえて行こうぜ」
「こっちの男が俺が貰うぜ~」
「油断するなよ!」
6人の武装した盗賊らしき男が嫌らしい笑みを浮かべて、エリシア達に近づいていく。
その中から一人が男に向かい、歩き出した。
「ん? きゃーははは! こいつ! 怖くて足が震えているぜ!」
盗賊がそう言うように、男は盗賊達を目の前に足を震わせていた。
そんな男の視線の先には、恐怖に震えているエリシアが映った。
今日まで自分の為に尽くしてくれた彼女は、いつも明るい太陽のような人だった。
そんな彼女が恐怖に震えている。
「あ、あ、あぁああああ!」
「あん? なんだ?」
急に大声をあげる男に、盗賊達の視線が集まる。
男が両手を前に出した。
「ん? なんだ?」
その
直後、男の両手から美しい翡翠色の光が周囲に広がり、衝撃波が放たれた。
「ま、魔法か!」
驚く盗賊だったが、時すでに遅し。
男の魔法が盗賊達6人に直撃し、全員が吹き飛んだ。
「あ、あ! あ!」
男が声をあげると、エリシアがマリーの手を引いて急いで走って来た。
「ありがとうございます! おかげで助かりました!」
そう話すエリシアに安堵した表情を見せる男。
しかし、直後。
周囲から鋭い鳴き声が聞こえると、するにウォーウルフの群れが現れた。
男はすぐに懐にしまい込んだエリシア特製アメル草の粉を取り出す。
少量をエリシアとマリーにふりかけ、自分にもふりかける。
これで暫く匂いが取れないので、ウォーウルフに襲われる心配はないはずだ。
男はエリシアの手を引いて、その場から逃げ去った。
◇
いつものアメル草畑に帰って来た3人は、その場に倒れるかのように座り込んだ。
「ふぅ…………今回ばかりはどうにもならないと思いました。助けてくださり、本当にありがとうございます」
エリシアの言葉に苦笑いを浮かべ、首を横に振る男。
いつも助けてくれたのはエリシアだ。
そう伝えたいのに、言葉が出てこない。
「うふふ。でもこうしてみんなで無事で帰って来られて、嬉しいんです! マリーも貴方もね!」
それは男も思っていたことだ。
ここまで頑張ってくれたエリシアに少しでも報いたい。
一歩ずつでも歩き出せる大切さを教わったから、男は一歩ずつ歩き出すと決意した。
「あ、わ、な――――」
「あら? 言葉が少し話せるようになりそうですね」
「あ――――――り、あ、む」
男は自分の胸に手を当てて、ゆっくりだがしっかりと言葉を紡ぐ。
「り、あ、む? もしかして、リアムですか?」
そう話すエリシアに、男は今までで一番嬉しそうな笑みを見せた。
――――そう。
彼女に自分の名前を初めて呼ばれたからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます