第9話
「姉さん、この人知り合い?」
「なーに?」
背後で
ゆっくりと振り返り、二人の”姿”を視界に収める。
一人は見慣れた弟の姿。長身をなぞるように不安げな色を纏っていた。そして隣には私と同じくらいの背丈の今にも消え入りそうな人物。
しばらく見ていると、昨日の講義の後、幸耶が来るまで一緒に話していた同級生と同じだったことに気が付いた。
「ええ! 彼女は私の友達よ!」
あの時は弟が来てすぐに立ち去ってしまい色々聞けずにいた。今までの人とは違うとなんとなく感じ、気になっていたのでこの事態に感謝をした。
「幸耶、今から言う事をメモして彼女に渡して」
「分かった」
メモを取り出し、ペンのクリック音を聞いてから私は嬉しさを口ずさむ。
ああ、なんて好機なの!
絶望し、放心状態だった桂花は弟から渡されたメモで正気に戻った。
[突然の出来事に驚いただけです]
ああ、よかった
友達が出来てから破綻するまでの世界最短記録を更新したのかと思っていたため、彼女は安堵した。
それから、弟からの講義のある教室まで一緒に行こうという提案に乗り、桂花と弟は白杖を持つ百音の両隣に付いて行った。
弟は真ん中にいる百音の進行の邪魔にならないように桂花へ二つ折りの紙を手渡してきた。
紙を開いて中を見ると、それは自己紹介シートだった。
名前:花幡幸耶(はなはた ゆきや)
年齢:19歳
所属学部:介護福祉
趣味:読書
なるほど同い年か、と桂花は理解し、それと同時に介護福祉学科だということは少なくとも自分とは違う場所での講義なのではと疑問に思った。
姉を案内してから、僕は行くんです
桂花の心の内を察したかのように幸耶は手話で答え、納得してから優しい弟だなあと感心した。
それから続けて下の欄を見ると、百音の自己紹介が書いてあった。
名前:花幡百音(はなはた もね)
年齢:19歳
所属学部:文学部
趣味:読書
読み終えた自己紹介カードを幸耶へと返しながら桂花は姉弟そろって読書好きなんて珍しいな、と思った。それと同時にどんな作品や作家がお気に入りなのかとも気になった。
ああ、今日は講義がより一層楽しみだなあ
終わった後ではなく、友人ができたことの充足感から今日一日が楽しいと桂花は感じ、ふとガラスに反射する自分達を見る。
幸耶からは藍の雫のようなのが溢れ、百音からは先ほども見たような花弁を振り撒いていた。
これが二人の"喜び"……
ガラスに映る他の生徒たちは皆、一概に喜びに見えるような形と色を形成してはいないが、一際目立つ自分達に桂花は久方ぶりの誇らしさを感じた。
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