千変万化の登校風景
第6話
千歳桂花は朝が弱い。それは周りの音が人より聞こえないというのも一因である。
朝六時になると腕に付けているスマートウォッチが振動し、彼女の意識を夢現へと引きずり出す。
「うーん…」
声を上げながら寝返りを打ち、振動を止めて再び眠りにつこうとする。
しかし、布団の下に敷いているある装置が起動して桂花を強制的に起こした。
「ふあ…」
相変わらず最悪の朝だ、と桂花は思った。
目をこすりながらフラフラとおぼつかない足取りで洗面台へ吸い込まれるように進み、冷水を顔に叩きつける。
しばらくそれを繰り返し、タオルで顔を拭いた彼女はすっかり眠気が消えた表情を浮かべていた。
桂花はスマホで朝のニュースを見ながら食パンをトースターに差し、レバーを下に下ろす。
次に冷蔵庫から生卵を二つ取り出してそれまでに軽く沸かしていたお湯の中へと静かに入れる。
しばらくお湯の中で遊ばせ、頃合いを見計らい冷水で満たしたボウルの中に落とし込むと同時に、トースターから2枚のトーストが飛び出した。
飛び出すタイプは目に見えて分かりやすいから好き
熱々のトーストを放置し、コツコツとまな板の上に叩き、殻を剥いたゆで卵を小皿の上に二つ置いて机の上に持っていく。
そしてトーストを大きめの皿の上に移し、冷蔵庫からマヨネーズと昨日切っておいた生野菜のサラダたちを持って着席した。
いただきます
両手を合わせ、確かにそう言って朝食を食べ始める。
トーストの上に野菜を敷き、さらにゆで卵を一個置く。そのまま静かにフォークで切れこみを入れると中からドロリと黄身が出てきた。
これこれ!
その上にマヨネーズを少しかけ、豪快に桂花はかぶりつく。
トーストの温かさと冷蔵されていた生野菜のひんやり感を同時に味わいながらマヨネーズの酸味と旨味、野菜と穀物を噛みしめる。
あっという間に一枚をたいらげ、ちらりと時計を見るとまだ時間に余裕はあった。
二枚目のトーストも先程と同じように積み、ゆで卵にフォークを差し込んだ。
だが、次はドロリとした黄身は現れず、綺麗な断面を見せる固茹でとなっていた。
桂花は気落ちせず、すぐにナイフでそれをスライスしてマヨネーズをかけて食す。
固茹では匂いが気になるけど、これはこれで良いかも
固茹でのゆで卵を見直した朝を迎えた彼女は普段の朝より上機嫌だった。
朝食を済ませ、シンクに置いて水を張ってから桂花は気温に適した服装に着替える。バッグの中には構内が寒かった時用の羽織る物と今日使う教材を入れた。
玄関で靴を履きながら電気を消し、暗い居間へといつもの挨拶を飛ばす。
「行っえきまう」
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