見えるオト、聞こえるカタチ
諏訪森翔
ある講義の後に
第1話
講義室の細長い窓から見える景色は別格だ。特に夏の入道雲と生い茂る葉桜が風で揺れている様は見る者の心に心地いい風と記憶の中にある優しい陽光を彷彿とさせる。
いけないいけない───
思わず見惚れていた窓から視線を奥のスライドショーと共にマイクで授業内容を話しているらしい教授へと向け直す。既に自分が見ていたスライドではなく、さらにちょうど今新しいスライドへ移行したため最低でも二枚は置き去りにされていると分かった。
まあ、動画で見ればいいか
遅れを取り戻そうと息巻いていたが、すぐに諦め二ページ分の空白を残して現在のスライドの要点を書き写していると怒りと嬉しさの色をしていた教授の色が変わり、突然彼女の視界いっぱいに安堵の色が浮かび上がる。
もうそんなに経過していたの
腕時計を見るとお昼休みを指しており、彼女の今日の授業は終わりだという事を告げていた。
何を食べて帰ろうかと食堂を思い浮かべながら書きかけだったノートをバッグへと仕舞い、立ち上がろうとした時、何かしらの本能から教壇の近くへ視線を向ける。するとそこには一人の女性が座っており、授業が終わったと言うのに誰と絡むわけでも話すわけでもなく、そこでずっと背筋をピンとした状態で座っていた。
姿勢のいい居眠り?
そんなことはありえないと、すぐに棄却する。この授業の教授は居眠りを嫌い、特に最前列とあらばいつも持ち運んでいる自前のハリセンが届く位置だ。
いったい何事かと思いながらも後ろ姿をじっと観察していると突然、女性がゆったりとした動作でこっちを向いてきた。
まずい───
すぐに視線を手元に下ろすが時すでに遅く、最前列にいる女性は彼女を手招いている。
いつもの何も事情を知らない人物なのだろうと思いながらスルーしようとバッグを肩に、お別れだけでも告げようと愛想笑いを浮かべながら去ろうとする彼女へ女性が何か声を発した瞬間、目を奪われる。
綺麗……
その女性は綺麗な形と色のした"声"を持っていた。
今まで見てきた"声"の比じゃない光景に思わず吸い寄せられ、女性の隣の席に移動し、腰掛ける。移動してきた彼女へニコニコしながら女性は何も言わず、自分の方から自己紹介をすべきかと思い、両手と一緒に口を動かす。
「わ、た、しはあ、ちとしぇけいくぁ」
女性は首を傾げた。
もう一度同じ言葉を彼女──
「わた、し、は、ちとすぇけいか」
すると女性はうんうんと頷き、やがて手元の分厚い冊子を開いてそのページに指を走らせた。
しばらくして、もう一度満足気に頷きながら女性は少し分厚めの紙を渡してきた。そこには凹凸と一緒に、ゴシック体の字で文が書かれていた。
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