「!」「?」の直後は1マス空ける

 1976年に出版されたやや古い本ですが、私の手元には、他にこのルールに言及したものがないので、講談社現代新書の『原稿の書き方』を参照します。

 この本には、原稿用紙のマスの使い方として、次のようなルールが書かれています。


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「!?」は、行頭に書いて差しつかえない。ただ、「!?」の下は、すぐ下にカギの受けがくるとき以外は、一マスあけることになっている。

(尾川正二『原稿の書き方』、講談社現代新書、1976年、p.17)

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 「!」はエクスクラメーション、「?」はクエスチョンと読みますが、簡略化のため、この小論ではそのまま「!」、「?」と表記します。

 2022年現在、マイクロソフトの Word やカクヨムに文章を書いていて「!」「?」がぎょうの頭に来ることはありませんが、それはコンピューターが文字の詰め方を調整してくれるからです。

 紙の原稿用紙なら、行頭に「!」や「?」を置くのも無理のない話です。




 それはさておき、皆さんと確認しておきたいのは、「!」「?」の後は、「カギの受け」、つまり閉じカッコ 」や 』がくるとき以外は、1マス空けるという部分です。


 Web小説では、1マス空けられていない書き方をよく見かけます。

 もちろん、出版物のルールは、時代によって変わります。

 もしかすると現時点でこの形式をとらない小説を出す作家さんや出版社もあるのかもしれません。

 1マス空けない形式でも慣れればどうということがないかもしれませんし、枝葉末節にこだわるのは非合理だと感じる方もいらっしゃるかもしれません。

 ですが、今のところこれはかなり広く採用されているルールですから、私としては、なるべく守っておくことをおすすめします。


 以前、とある自主企画を開催したときにも書いたことですが、形式的なルールを守って書くことについて「この人、面白味に欠けてるな」などとネガティブな感想を持たれることはまずありません。

 その一方、ルールを守らずにいると「この人、こういうルールがあるのを知らないのか」とあなどられる危険があります。

 会社の企画書なら中身で勝負できるかもしれませんが、Web小説は書き手の技量不足と判断されると、途中でブラウザバックされたり、意味深長なはずの場面を流し読みされたりする恐れがあるので、ルールを守らないと損しかありません。




 ここまで読んで、「そんなルール、本当に今でも通用してるの?」と思われる方がどれくらいいらっしゃるか分かりませんが、せっかくですので、実例をいくつかご紹介しておきます。

 とはいえ、「!」「?」を多用する小説自体が限られていますし、多くは閉じカッコの前や段落の末尾に置かれています。サンプル数が充分ではないかもしれませんが、ご容赦いただけると幸いです。


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<角川書店/KADOKAWA>

「石灰で白線引く道具があるだろ。あれ何つうんだっけ? まあいいや、とにかくそれで校庭にデカデカとけったいな絵文字を(ママ)きやがったことがある。しかも夜中の学校に忍び込んで」

(谷川流『涼宮ハルヒの憂鬱』、スニーカー文庫、2003年、pp.17-18)


「何よう、そこまで言う? 書いたよ、野崎泉って、書いてみたよ、いいじゃん、それくらいー! 書くくらい自由じゃんか、町子なんかスターリンのライヴで鶏の内臓とりあってればいいんだ」

(角田光代『あしたはうんと遠くへいこう』より「How soon is now? 1985」、角川文庫、2005年、p.20)


「インコちゃん、いただきます、って言ってごらん」

「いただき、だきま、ますっ……いただきますっ! いただきますっ! いただっ! きっ!」

(竹宮ゆゆこ『とらドラ!』第1巻、電撃文庫、2006年、p.15)


けい! 慧、何してるの。そんなところにいたら危ない!」

 吹きすさぶ風を圧して明華ミンホアの声が響く。

(夏海公司『ガーリー・エアフォース』第1巻、電撃文庫、2014年、p.24)


<新潮社>

 ごしゃごしゃ喋っている我々のほうへ、高薮が身を乗りだして囁いた。

「なに? なに? なにか面白い話してんじゃねえのか? 俺もまぜて」

(森見登美彦『太陽の塔』、新潮文庫、2006年、p.99)


<講談社>

「学校のことでオレに指図する権利、おまえにあるか? そもそもそんな約束は覚えてないし、お前は大学辞めちまったじゃないか」

(奈須きのこ『空の境界』上巻、講談社文庫、2007年、p.8)


「なんかさあ、母ちゃん、ミラノに行くかもだって」

 連はため息をつくように言った。

「え? 仕事で?」

「仕事がらみだけど、男だよ」

(佐藤多佳子『一瞬の風になれ』第1巻、講談社文庫、2009年、p.11)


<光文社>

「まあまあ、そう興奮なさらないで」影が応じる。「そういった話はとりあえず後回しにしましょう。お腹を空かせていらっしゃるのでは? 着替えをしてください。食事にしましょう」

(クラーク『幼年期の終わり』、池田真紀子訳、光文社古典新訳文庫、2007年、p.61)


<集英社>

「えっ? ああ、そうかな。珍しいかな。別に深い意味はないんだけどね。たまにはこういう格好もいいんじゃないかと思ってね」

(東野圭吾『黒笑小説』より「もうひとつの助走」、集英社文庫、2008年、p.19)


<富士見書房>

「杉崎、この生徒会に初めて顔出した時の、第一声を忘れたとは言わせないわよ!」

「なんでしたっけ? ええと……『俺に構わず先に行け!』でしたっけ」

(葵せきな『生徒会の一存』第1巻、ファンタジア文庫、2008年、p.10)


<岩波書店>

 しょせんは手がとどかない。そんな女が欲しいのか? 欲しいとも。

(ヨーゼフ・ロート『聖なる酔っ払いの伝説』より「蜘蛛の巣」、池内紀訳、岩波文庫、2013年、p.15)


<ポプラ社>

 十七歳になったらすべてがしっくり馴染むだろうというのは一つの予感だった。いくつ? と問われて十七歳と答える。そこには何のためらいも言い訳も必要でない、いわば人生の特異点のような時間だ。そう思った。

(松村栄子『僕はかぐや姫/至高聖所アバトーン』より「僕はかぐや姫」、ポプラ文庫、2019年(底本は福武文庫、1993年)、p.17)

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 ちなみに、「!」あるいは「?」で文が終わらない場合も、1マス空けるルールは変わらないようです。

 私が見つけられた実例はこれ1つですが、


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 亜希子さんがいきなり、きゃああああ――っ! と叫び声をあげた。

(橋本紡『半分の月がのぼる空』、電撃文庫、2003年、p.37)

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 似たようなルールで、段落の頭は1マス空けるとか、「…」、「―」は1つずつでは使わず、2つ続けて「……」、「――」とするなどもありますね。

 作品の文字数が増えるとチェックや修正が面倒になるので、一般的な形式を守って書くことを習慣化しておくと良いでしょう。

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