第79話 アジア大会進出者

 アジア大会が開催される1週間前。

出場者の正式発表が行われた。


 俺は莉央と一緒にその様子を見ていた。

日本からは、俺たちを含めて4組が出場することになった。


 海外は、中国、韓国、台湾が多くを占めているようだ。

俺でも名前を知っている人たちばかりだった。


「いよいよ、始まるんだね」

「ああ、そうだな」


 日本大会とはやはり規模が違う。

アジアの各国から選手が集まって来るのである。


「やっぱ、1週間前からでも緊張するね」

「この感じって何回経験しても慣れないよな」

「私、アジア大会も初めてだから……」

「そっか、そうだったね」


 俺は世界大会まで経験しているが、莉央は日本大会までしか経験がない。

世界大会はやはり、緊張感が違うと思う。


「大丈夫かな?」

「まあ、もう気楽にやるしかないよ。ゲームを楽しむくらいで」


 大会まで、残された時間は多くない。

その中で、やれることをやっておくしかもう無いのだ。


「ほら、これ見てよ」


 俺はSNSのアカウントを見せる。

俺は今日、アジア大会出場の告知をしていた。


 そこには沢山のリプが付いている。


《アジア大会頑張ってください!》

《優勝目指して頑張って!》

《アジア出場おめでとうございます》

《チケット当たったので、会場まで応援しに行きます!》


 その大半が俺たちを応援してくれているメッセージである。


「こんなに沢山の人たちが応援してくれているんだから、頑張らなきゃね」

「うん、そうだね。私たちには応援してくれるファンが居るんだもんね」


 俺たちは残りの時間を存分にゲームへと費やした。

他の出場者の動画を見て研究もした。


 シミュレーションは十分でしたつもりである。

攻略法も何パターンも用意してある。


 アジア大会、優勝に向けて俺たちは確実に一歩踏み出していたのだ。



 ♢



 時は流れてアジア大会当日。

会場はリュアーグの本社からほど近いビルのワンフロアである。


 俺は朝からずっと落ちつかなかった。


「おにい、今日はお父さんと一緒に会場まで行くからね! かっこいい所見せてよね!」

「おう、そりゃ負けられないな」


 家族も会場まで応援に来てくれる。


 ゲームというのは、ここまで人を熱くできるものなのだ。

何もなく、ただ時間が過ぎていくだけの毎日に光を差してくれたのは、紛れもなくゲームのおかげだった。


 ゲームで築いたものは大きい。

その中でも一番なのは莉央の存在だ。


 きっと、彼女がいなかったら俺は再びこの舞台に立つことはなかっただろう。


「じゃあ、先に行って来る」


 俺は、そう言って大会会場へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る