第73話 クレープ購入
列に並んで10分ほどで俺たちの順番が回ってきた。
その間にメニューを眺めて何となく注文を決めていた。
「莉央は何にするの?」
「私は、このイチゴのやつがいい! 諒は?」
「俺はチョコバナナにしようかな」
ちょっと挑戦的なものにしようかとも思ったが、ここは2人とも無難なものを注文する。
俺は注文と会計を済ませる。
「ご馳走様です!」
そう言って莉央は可愛い笑みを浮かべている。
「まあ、負けちゃいましたからね」
俺は莉央との勝負に負けている。
クレープくらいなら可愛いもんである。
何なら、今の莉央の笑顔で元は取れた気がする。
「私も本気だったけど、勝てるとは思わなかったけどね」
「それだけ、莉央が成長しているってことですよ」
元々、莉央は日本大会の優勝者である。
俺はその一個前の日本大会と世界大会で優勝しているので、莉央は一つ後輩という扱いにはなる。
「でも、あの大会に高森諒が出場していたら私は優勝できなかったと思うけどね」
「どうだかね」
事実、莉央は上手い。
俺から見ても上手かったのが、ここ最近になってさらに磨きがかかっている印象である。
そんな話をしているうちにクレープが出来上がった。
俺はそれを受け取ると場所を移動する。
何せ、ここは目立ち過ぎるのだ。
原宿の竹下通りという若者の街では、すぐに顔バレする。
俺たちは人通りの少ない場所へと移動した。
「ここなら大丈夫そうだね」
「ああ、そうだな」
莉央は再び撮影を開始する。
「takamoriさんがクレープ買ってくれたよー! じゃあ、早速食べて行きたいと思います」
「はいよ」
俺はイチゴのクレープを莉央に手渡す。
「ありがと」
莉央はそれを受け取って一口食べる。
「うん、美味しい! やっぱり甘いものって幸せな気持ちになれるよね」
莉央は幸せそうにクレープを頬張っている。
いや、可愛過ぎんか。
俺も自分のクレープを食べる。
「美味いな」
クレープ自体、久々に食べた。
何なら、お店でちゃんと買ったのは初めてかもしれない。
元々、ゲームしかやっていない人間だったのだ。
原宿などというキラキラした人種が集まる場所に縁がなかった。
俺が変わったのは、間違いなく莉央のおかげだろう。
こうしてみると、この2人が出会ったのは偶然というよりは必然だったのかもしれない。
「そっちのも一口もらっていい?」
「いいよ。はい」
俺は、自分のもっているクレープを莉央の口元までもって行く。
「うん、こっちも美味しいね。いやあ、色々種類があるから迷っちゃうよね」
「確かにそうだな」
メニューには数十種類のクレープが載っていた。
スイーツ系だけじゃなく、スナックのようなものまでその種類は様々だった。
「はい、私のも食べる?」
莉央が自分のクレープを俺の口元まで持って来てくれている。
「じゃあ、頂きます」
それを一口食べる。
「美味いな」
イチゴの酸味とホイップクリームの甘みが口の中に広がる。
そういえば、こうしてシェアすることにも抵抗がなくなってきた。
これは、俺と莉央の関係の変化を表しているのかもしれない。
「じゃあ、食べ終わったら締め取ろうか」
「だな」
俺たちは公園のベンチに座りながら残りのクレープを食べ進める。
「今日は付き合ってくれてありがとね」
「いや、こっちこそいい経験させてもらった」
「それならよかった」
昼過ぎのベンチに座った2人の間にはクレープよりも甘い雰囲気が流れていたような気がする。
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