第71話 最強の刑事
警視庁捜査一課長。
そこはヒラ刑事から成り上がった刑事のポジションである。
現場からの叩き上げの刑事が任命される。
そこのポストに今年度から任命されたのが高森義英。
俺たちの父親である。
今回はそんな父親が捜一の魔物と呼ばれるまでのお話である。
「おい、今回の人事見たか?」
「ああ、高森警視だろ。あの年で捜査一課長だもんなぁ」
捜査一課長は叩き上げの刑事が任命される。
そのため、他のキャリア組が就任する課長よりも年齢が高くなるのが一般的だ。
しかし、俺の父の年齢は今年で40歳。
捜査一課長に就任するには異例の若さである。
それだけ、数多くの事件を解決に導いて来たという実績があるからこその人事だ。
高森義英が加われば、どんな難事件も解決する。
警視庁内では有名な話だった。
つい、この前もそうだ。
女子高生が連続で絞殺されるという事件が起こった。
迷宮入り寸前とまで言われていたその事件を父が管理官として捜査の指揮を命じられた。
父はその事件を二週間というスピードで犯人逮捕まで持ち込んだ。
「管理官、少し寝た方がよろしいかと。もう3日もろくに寝てらっしゃらないじゃないですか」
「俺が寝なくても死ぬ訳じゃない。でも、犯人を検挙しないと次の犠牲者が出てしまうかもしない。これ以上、悲しみを背負う人を増やしたくはない。それに比べたら、俺に睡眠などどうでもいいことだ」
まさに、その捜査に対する執念は魔物。
鋭く尖った牙で事件を切り裂いていくような様からそう呼ばれているらしい。
「副総監、まだ彼を一課長にするのは早いんじゃないでしょうか?」
刑事部内ではそんな声も上がっていた。
主には刑事部長からである。
「確かに、彼はかなりの事件を解決に導いた立役者です。しかし、まだ40歳。若過ぎではないでしょうか?」
その声を抑えて高森義英を捜査一課長にしたのが、警視副総監。
警視庁のナンバー2である。
「君は、彼がいつから必ず星を挙げるって言うようになったか知っているか?」
『被害者の無念を晴らし、明日への希望を繋ぐ為、必ず、ホシを挙げる』
これは親父が口癖のように言っている言葉だ。
「いえ……」
「10年前だよ。奥さんが亡くなったの知ってるか?」
「はい、交通事故だと聞いています」
「まあ、表向きはな」
副総監はソファーに深く腰掛ける。
「表向きというと?」
「ひき逃げだったんだよ」
諒の母、高森沙耶は即死では無かった。
轢かれた時はまだ意識が残っていた。
その場ですぐに救急車を呼べば助かった可能性だってあった。
しかし、飲酒をしていた犯人は通報せずその場を去った。
「捜査資料にはそんなこと書かれていませんでしたよ?」
「その車を運転していたのが、大御所政治家の息子だったんだ。上から圧力がかかってもみ消された」
金と権力でどうにかしようとしてくる人間というのは、一定数いる。
「それに、総監は屈したんですか?」
今の警視総監はそういった組織の汚い部分を浄化しようとしている人間である。
とてもそんなことをする人だとは思えない。
「当時はトップは違ったからな」
「そうだったんですね」
「それからだよ。ヤツが変わったのは」
被害者は真実を知ってから初めて前に進むことができる。
その手助けをしてやるのも、俺たちの立派な仕事だ。
だから、俺は必ずホシを挙げる。
「あいつは、魔物なんて呼ばれているが、誰よりも被害者の痛みを知っている。俺は、そういうヤツを一課のトップに置きたい。わかるか?」
「わかりました」
「何かあったら、この私の首で許してもらうとするさ」
こうして、高森義英の捜査一課長への就任が決定したのである。
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