第35話 曇り空
翌日、俺は莉央と会う約束をしていた。
今日は一緒に生配信をする予定なのである。
「お待たせー」
渋谷駅のハチ公前で、莉央と待ち合わせる。
「いや、そんなに待ってないよ。行きましょう」
今日はプロホプルの生配信の予定である。
しかし、なぜ直接会っているかというと、モバイル版をプレイするからである。
普段は俺と莉央がやっているのはPC版である。
それをもっと手軽に出来るのがスマホで出来るモバイル版である。
俺たちの視聴者たちも、こっちをやっている人の方が多いのではないかと思うほどである。
それだけ、世間でプロホプルが浸透しているということである。
モバイル版はほとんどやって来なかったので、新鮮な感じはする。
「そういえば、昨日連絡したけど、親父と妹が莉央に会いたがってるんだ」
「柚月ちゃんだっけ?」
「うん、是非うちに招待しろってお達しが出た。まあ、無理にとは言わないけど」
俺は歩きながら莉央と話していた。
「いいよ。諒の妹さんとお父様、どんな人か気になるし。それに……」
「それに?」
「家族っていいよね」
そういう莉央の表情はいつもより暗く感じた。
俺の勘違いならそれでいいのだが、少し気になった。
「お、おう」
しかし、俺はそれ以上を追求することはしなかった。
人間、話したくない事や聞かれたくないことの一つや二つは、誰にだってあるものである。
「今日も楽しみだね! モバイル版はあんま触って来なかったし」
莉央はいつも通りの笑みを浮かべて口にする。
先ほどの表情の曇りはやはり、見間違いだったのだろうか。
「そうだな。でも、そんなに違いはないと思うけどね」
基本的にPC版と大差はないように作られている。
操作が画面をタップすればいいだけなので、そっちの方が楽というまである。
最近では、モバイル版の方の大会も開かれているようである。
しかし、世界規模の大会はやはりPC版しか行われていないのが現状である。
それでも、そう遠くない未来にはモバイル版の世界大会優勝者というのも現れそうな勢いである。
駅から数分歩いて、いつものスタジオに到着する。
もはや、ここは俺たちのゲーム配信部屋と化している。
すでに大方の機材はセッティングされている。
「高森さん、後は端末と繋げるだけにしときましたんで、いつでも始められますよ」
そう言って、白瀬さんがスタジオに入ってくる。
相変わらず、仕事ができるというか、気遣いが出来る人だ。
これは、出世することだろう。
「ありがとうございます。助かります」
「いつもすみません」
俺と莉央は白瀬さんにお礼を述べる。
「いいんですよ。高森さんと莉央さんのおかげで、うちもかなりの利益を出させてもらってますから」
白瀬さんはニヤッと笑みを浮かべる。
「そういうのって普通はもっと隠しておくんじゃないですか?」
「まあ、高森さんならいいかなって」
いつも白瀬さんが俺にべったりなものだから、ここの男性社員の嫉妬の矛先に俺はなっているらしい。
まあ、社内でもトップクラスの美人なので、それも仕方ないのかと半ば諦めてはいる。
「それと、今日って配信何時くらいまでの予定ですか?」
「多分、20時過ぎには終わると思いますけど」
今日は19時からの配信予定なので、一時間くらいの配信だとして20時過ぎには終了する予定である。
「わかりました。もしよかったら、配信終わったお二人に紹介したい人がいるんですけど、よろしいですか?」
「俺は、大丈夫ですけど、莉央は?」
「諒がいいならいいよ」
「ありがとうございます」
「それで、誰なんです? 紹介したい人って」
「それは、会ってからのお楽しみということで」
白瀬さんはいたずらっ子のような笑みを浮かべる。
大人っぽい一面からこうした、子供のような一面まで兼ね備えているからずるいと思う。
「じゃあ、配信頑張ってくださいね」
そういうと、白瀬さんは配信の邪魔にならないようにスタジオを後にする。
「じゃあ、やりますか」
時計を見ると、配信開始の十分ほど前に迫っていた。
配信予約画面にはすでに待機している人が3万人以上いるという、とんでもない数字が映し出されていた。
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