第33話 イベントその後
「諒はああいう子が好きなの?」
莉央が俺の顔を覗き込むように見つめて聞いてくる。
「急にどうしたんだよ?」
「だって、デレーっとしちゃって、握手までしてさ!!」
莉央は何だか、怒っているらしい。
「俺、そんなにデレっとしてたか?」
「してたよ! 鼻の下伸びてたもん! あの子可愛かったもんね!!」
確かに、さくらは可愛かった。
莉央とはタイプの違う可愛さを持ち合わせていたと思う。
「そんなこと言ったら、莉央だって可愛いじゃん」
「え、ええ、そう?」
そう言って、莉央は真紅に染めていた。
「ふ、ふーん、なら別にいいんだけどさ」
怒ったと思ったら、今度は満足そうな表情を浮かべていた。
そんなコロコロ変化する莉央の表情はシンプルに可愛いと思う。
「じゃあ、そろそろ帰るか」
関係者への挨拶もおおかた済んだ所だった。
イベントは終了し、お客さんも完全に帰宅した後だった。
空は茜色に染まっている。
「うん、そうだね」
俺と莉央のマネージャーたちは俺たちを残して、先に帰ってしまった。
本人たちは気を遣っているらしいが、マネージャーとしてそれはどうなのかとも思う。
俺たちは荷物をまとめると、イベント会場を後にした。
「今日は楽しかったね!」
「ああ、そうだな」
普段だったら出会えないような人とたくさん出逢うことができた1日だった。
イベント会場は都内でも、外れの方だったので、電車に乗って帰ることになる。
莉央の最寄駅までは30分ほど。
俺の最寄駅は40分といった所である。
「諒は今まで、あんまりイベントとか出てなかったんだよね?」
「うん、そうだね」
電車の座席に隣同士で座って話す。
自然と莉央との距離が近くなる。
「それは、何か理由があるの?」
「うーん、あんまり表に出るのが好きじゃないってのが大きいかな」
そもそも、目立ちたいという願望は俺にはないし、人前で何かやるというの少し苦手意識があった。
「じゃあ、今回はなんで出席することにしたの?」
「莉央がいたから」
「え!?」
「だから、莉央と一緒なら楽しそうだなって」
俺に来ている仕事のほとんどが莉央とセットでの出演依頼である。
「嬉しい……」
莉央は俺から視線を外した。
そして、その白い肌は赤く染まっているように感じる。
それは、夕焼けに染まった空からの光のせいなのか、それとも莉央自身が頬を染めているのかは判断できなかった。
「この前の、雑誌の取材も楽しかったしね」
一週間前、俺と莉央は初めての雑誌取材を受けた。
『天才×天才 高校生プロゲーマー2人の素顔に迫る!』
そんな内容の取材だった。
反響も上々であり、出版社の人も喜んでいた。
だから、莉央とならどんな仕事でもやってみたい。
そんな感情が俺の中に生まれていたのである。
「私も、諒と一緒の仕事は楽しいよ」
夕日に照らされた莉央の笑顔は、天使様でも敗北を認めるほどに美しかった。
「1人の仕事より、楽しい」
莉央は元々、メディアへの露出は多い方だった。
莉央のルックスがあれば、顔出ししてメディアへ多く露出させる方が正しい売り方だと思う。
実際、その売り方が成功しているからこそ、SNSのフォロワーも多い。
その莉央が俺と一緒に仕事をするのは、楽しいと言ってくれたという、事実が俺は嬉しかった。
莉央と話していると、時間は一瞬にしてすぎていく。
30分があっという間で、莉央の最寄駅に到着した。
「じゃあ、次はプロホプルの生配信だね」
「ああ、そうだな」
また、プロホプルで今週末、一緒に生配信をする約束をしていた。
「またね」
そう言って、彼女は美しい髪を靡かせて、小さく手を振った。
「また」
莉央に手を振りかえすと、電車のドアが閉まる。
莉央は俺の姿が完全に見えなくなるまで手を振っていた。
どうして、こうも男心をくすぐってくるのだろうかと、心配になるまである。
「まさか、莉央は誰にでもあんな感じなのか?」
あんな仕草や、視線を向けられたらこの世の全男どもが落ちるに決まっている。
「って、何で俺が不安になってるんだよ」
そんなことを思いながら、俺はスマホのロックを解除する。
自分の最寄駅まで、何となくSNSを眺めている。
今日のイベントには、実際に足を運んでくれた人からのリプや生配信を見てくれた人のリプがずらっと並んでいた。
それを見るに、好評らしい。
俺と莉央のプレイ動画で、実際にアプリを予約した人も多いと聞く。
「少しは貢献できたみたいだな」
俺は少し、自分の影響力というものを侮っていたようである。
最寄駅に着いた為、リプ返は後にし改札を出る。
そのまま、歩いて自宅マンションへと帰る。
夕方のこの時間はまだ少し涼しく感じる。
「ただいまー」
自宅に帰り、俺は玄関で靴を脱ぐ。
その時、バタバタとリビングから柚月がやって来た。
「おかえりー!! おにい、今日のイベント凄かったね!」
「見てくれたのか?」
「うん、会場には行けなかったから、配信だけどね」
そう言って、柚月はスマホの画面を俺に見せてくる。
それは、今日のイベント生配信のアーカイブだった。
「ありがとうよ」
俺は柚月の頭をポンポンする。
「おにい、カッコよかったー! 莉央さんも可愛いし!! ねぇ、今度、莉央さんのこと紹介してよ!!」
「まあ、そのうちな」
「やったー!」
柚月はその場で小さくジャンプする。
いや、可愛すぎんか。
「親父、帰ってるのか」
玄関には靴底がすり減った親父の靴が綺麗に並べられていた。
「うん、事件解決したんだって」
「そりゃ、よかったな」
今日は久しぶりに家族揃って夕食が食べれそうであった。
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